☆第二話 少年衛士コルト☆


 公開拘束からようやく開放をされたお昼過ぎに、半裸のクリスはずっと見物をしていたらしい老商人から使い古しのマントをタダで貰えて、お陰で裸を隠す事だけは可能になった。

「もぉ~っ! すっごく恥ずかしかったです…っ!」

 村の人々、特に男性たちのニヤニヤ笑顔で見送られながら、頭も隠して逃げるように村の中へと走ったクリスは、実は目的のお店があったりする。

「あのエルフぅっ! 私の剣とか鎧とか、きっと…っ!」

 持って逃げるよりも、この村の道具屋へと、売り払ってしまっているだろう。

 拘束された時に、醜男エルフは村の奥へと姿を消していたので、クリスはそう考えていた。

 村にある二軒の道具屋を覗いたら、古そうな方のお店で、探している剣と鎧を見付けたクリス。

「見付けましたっ…あら?」

 店内の陳列棚で並べられたクリスの武器防具は、街の武器屋で購入をした時よりも、二割ほど値段が吊り上がっている。

「なぜでしょう…?」

 店主の男性ドワーフへ尋ねると、この村では、わりと高級な鎧なのだとか。

「あのっ…この鎧は、私が–」

 賞金首の罠に掛かって奪われた物です。

 と言おうとしたら、店主は慣れた様子で、その言葉を遮った。

「お嬢ちゃんの事情は 聞けないな。たとえ、盗品だろうがダンジョンで拾った物だろうが…買い取った以上、ウチの商品だ」

「うぅ…」

 たしかに、冒険で手に入れたアイテムは、基本的に所有権は冒険者にある。

 賞金首を狙って返り討ちに遭ったクリスも、奪われたアイテムはもう、奪った相手の所有物なのだ。

 無一文で困惑をする美少女に、しかし人間基準の美意識とかけ離れているドワーフ店主は、オヤジなりの慰めをかける。

「ま、命が助かっただけ 拾いモンって事だ。剣と鎧が欲しいなら、買って貰うしかないな」

「ぐっすん…」

 世の理を痛感させられ、クリスは、スゴスゴと引き下がるしかなかった。

 それでも、王族の美姫としてのオーラが、そうさせたのだろう。

 ドワーフの店主が「仕方がないな」という苦笑いで、クリスを呼び戻し、提案をくれた。

「ここから 裏山に近い繁華街にな『ガルの紅い酩酊亭(めいていてい)』ってぇ、夜にだけやってる酒場がある。そこが売り子を募集していて、お前さんなら、雇って貰えるだろうぜ」

「! ほ、本当ですかっ?」

 沈んでいたクリスの顔が、パァっと明るく輝く。

「まあ、妙な服で接客はするが、その分 結構な給金が貰えるってぇ話だ」

「そ、それなら…っ、すぐにでもっ、私の鎧を…っ!」

「五日間だけ、取っといてやる」

 つまり五日も働けば、鎧も剣も買い戻せる。

 クリスの愛顔が、希望で更に、眩しく輝いた。

「店主様…っ、有り難う御座います…っ! 私、すぐにお金を用意いたしますっ!」

「お、おぉ…」

 店主様なんて生まれて初めて言われたドワーフも、ちょっと照れる。

 美しい礼を捧げると、クリスは件の酒場を探して、昼下がりの繁華街へと、元気に駆けて行った。


 準備中の「ガルの紅い酩酊亭」は、小柄な中年男性のホビットが経営をしていた。

 美しく愛らしく明るく、肌も白く艶々で、マントの下のプロポーションも魅惑的なクリスは、その夜からお店で働く事に決定。

「宜しくお願い致します♪」

 そして日も沈んで、クリスは数人の売り子さんたちと共に、仕事着へと着替える。

「こ、これは…」

 女性たちの店内衣装は、ドワーフの店主が言っていた通りの、妙な服というか。

「あの…これだけ、なのでしょうか…?」

「そうよ~♪」

 ブーツなどは、元々着ていたものを使用するけれど、それ以外は、首と手首のリボンと、腰巻きのエプロン、のみ。

 女性たちはみな、自前のハイヒールなどの他は、胸もお尻も丸出しな、短いエプロンだけだった。

「こ、こんな…恥ずかしい衣装を…」

 下腹部の前面以外の全てを晒して、男性たちへの接客をする。

「そんなの無理ですっ…で、ですが…」

 そもそも裸にマントな姿のクリスには、他に就ける仕事も無さそうだ。

 なにより。

「…っこれもっ、鎧を買い戻す為っ! 冒険者の経験ですわっ!」

 クリスは一旦、指定された店のアイテムボックスへ私物を収めると、ノーパン・トップレス・スモールエプロン姿となって、接客ホールへと向かった。


「「「いらっしゃいませ~♪」」」

 やや広い夜の酒場は、昼の冒険などで稼いだ冒険者たちが、食事と酒を楽しみに、ごった返している。

 半裸の売り子たちは、バストもヒップも露わにしながら客席の間をオーダーなどで忙しく歩き回り、揺れる双乳や裸尻の様子を、男性冒険者たちに楽しまれていた。

「い、いらっしゃいませ~♪」

 勤務初夜のクリスも、恥ずかしい思いを必死に押さえ、豪快っぽい男性冒険者たちのパーティを、接客して廻る。

 すぐに満席になるほどの来客ぶりで、女性の冒険者や深くフードを被ったマントの剣士や、なんだか雰囲気の良くない荒くれた三人の男たちなどが、席へと着いた。

「ほほぉ、お前さん、新しい顔だな?」

 注文を取りに行ったら、禿&デブ&髭の大柄男たち三人が、下卑た笑いでクリスのスモールエプロン裸身を、上から下まで視線で舐め廻す。

「は、はいぃ♪ 宜しくお願い、いたしま~す♪」

(は、恥ずかしい…っ!)

 素性を隠しているとはいえ、王族の姫君が見知らぬ男性たちを相手に、丸い巨乳も艶々ヒップも楽しまれながら、笑顔を振りまく。

 こんな姿が、お父様たちに知れたら。

 そう思うと、今すぐにでも、逃げ出したくなってしまう。

 しかし逆に捉えれば、男性たちがクリスをニヤニヤ眺めているという事は、姫である正体がバレていない、という事実でもあるのだ。

(と、とにかく…剣と鎧を買い戻すまでの、辛抱です…っ!)

 そう強く自分に言い聞かせながら、クリスは、ほぼ裸での接客を笑顔でこなすしかない。

「ご、ご注文は?」

「お前さんが良いかな。んん?」

 とか言いつつ、禿のリーダーが隠されていないクリスの丸いヒップへ手を伸ばし、大きくてガサガサの掌で、撫で上げてきた。

「きゃあっ――ぃやああんっ!」

 可愛らしい悲鳴が轟いて、店主のホビットが、慌ててやって来る。

「お、お客様っ、この娘はまだ、し、新人でっ――」

「うるせえっ!」

 狼藉を止めようとした小柄な中年店主が、突然の暴力で、殴り飛ばされてしまった。

「て、店長さっ――ぃやああんっ!」

 転がされた店長を助けようとしたクリスの手首が、狼藉者たちの力強い手で掴まれ、裸身を引き寄せられながら、またも両腕を頭上へと、身体ごと持ち上げれてしまう。

「おぉ~う。随分と美味しそうな身体じゃあねぇか♪」

「げっへっへ♪ 嬢ちゃんさぁ、俺たちの宿で、楽しまねぇかぁ?」

「楽しむったって、トランプの七並べとかじゃあ、ねぇぜえぇ? ぐっふふふ♪」

 強面で大柄な男たち三人の淫らな視線が、白くスベスベな艶裸肌へと、突き刺さってくる。

「いっ、いやですぅっ! 離してくださいぃっ!」

 抵抗をするクリスの身じろぎで、豊かな双乳がタプタプと揺れて、男たちの邪欲求を、更に高揚させてしまう。

 基本的に、店の客たちは冒険者であり、お店の雰囲気的にもこういう輩がいる事も、当たり前な空気。

 働く女性たちも色々と慣れていて、こういった男たちの相手をしてお金を稼ぐ事も、承知の上だったりする。

「さ、宿屋へ行こうかぁ♪ ヘッヘッヘ」

「だっ、誰かっ、助けてくださ――」

 クリスが連れ出されそうになった瞬間、若い少年の声が、店内に轟いた。

「お前たち。その娘はダメだって、店のオヤジさんが言ってたろ」

「なんだぁ?」

「こ、この声って…っ?」

 大男たちの背後に立っていたのは、フードを深く被った、マントの剣士。

 カウンター席でクリスの様子を伺っていた少年剣士は、大男たちへ背後から声を掛け、クリスを助けに入ったのだ。

 自分の胸ほどの身長しかない少年を見て、男たちは、ゲタゲタと笑う。

「なんだぁ? 用心棒にしちゃあ、随分とチビなガキひっ――」

 デブの大男が罵った瞬間、少年の拳が太鼓腹の鳩尾深くへと食い込んで、男は言葉の途中で膝から崩れ、気絶をする。

 崩れ落ちるままに、デブの手がマントを掴んで引っ張って、少年剣士の素顔が晒された。

「! やっぱり…コルトっ!」

 クリスは、見慣れたその顔に、驚かされる。

 正義感の強うそうな真っ直ぐな眼差しと、サッパリと短い少年らしい黒い髪。

 簡素な鎧の下には、鍛えられた肉体があると確信をさせる、正しく良い姿勢。

 同時に、男たちを見上げるその顔には、ややイタズラっぽい挑発笑顔も。

 少年剣士の正体を知ったクリスは、途端に、馴染んだ安堵感で包まれていた。

「っ手前ぇっ!」

「無駄だっ!」

 衆目の前で仲間を倒された禿リーダーと髭メンバーが、腰の大剣を抜こうとして、しかし僅かに早く、コルトと呼ばれた少年が動いた。

 一瞬の抜刀を見せたコルトが、乱暴者たちへ向けて再びニヤっと笑い、そして大柄な男たちは、掴もうとした腰の剣が、手に触れない。

「あ、あれ…? ぅおっ!」

 男たちの大剣は、ストラップだけが切断をされて、今まさに床へと落下した瞬間だった。

 権を拾おうとする禿リーダーの首元へと、少年が切っ先を突きつける。

「まだやるか?」

「ぐくっ…ちっ!」

 動いたら斬られるとわかる禿リーダーは、鬱陶しそうな舌打ちをくれると、髭仲間と共にデブメンバーを抱えて、酒場から出て行った。

「…意外と モノ解りが良かったなー」

 剣を収めるコルトの声は年相応に明るく軽く、事態を楽しんでいた客たちは、ワァっと騒いで乾杯をし直したりしていた。

「あ、あの…」

 さりげなく身体を隠しながら近づいたクリスの肩へ、少年は少しキビしめな表情のまま、自分のマントを被せる。

「さ、こちらへ…」

 言いながら、助け起こした店主と共に、店の奥へ。

 そしてその頃には、客たちも売り子さんたちも、いつものような楽しい酒を酌み交わしていた。


「店長殿。この少女は 荷物と一緒に、俺の方で引き取られて貰います」

「え…ぉぉおっ!」

 コルトが店主へ示したのは、王国軍直属の、衛士隊の紋章だった。


 否応なくクリスを手放した店主を尻目に、クリスは少年衛士の後に付いて、コルトが泊まっている宿屋の部屋へ。

 二人で部屋へ入って扉を閉めると、少年剣士は片膝を折って、恭しく忠誠を示した。

「探しました、クリスリンクル姫」

「あ~あ、こんなに早く 見付かってしまうなんて…ですが、私を見付けたのが、あなたで良かったですわ。ね、コルト♪」

 再びコルトと呼ばれた少年が静かに立ち上がり、明るい声色の姫へ向かって、ジロりと不躾な視線を送る。

「それはその通りにございます! あのような酒場で、あのような格好で働いていたーなどと知られたらっ、お父上もお母上もっ、どれ程までに悲しまれるかっ――」

「もうっ。二人きりなのに、敬語なんて 王宮のようで堅苦しいですわ。子どもの頃のように、親しげに語ってくださいな♪」

 怒れる少年の怒りもドコ吹く風なクリスは、愛らしく輝く無垢な笑顔で、少し背の高い忠臣少年へ、微笑みかけた。

「ぅ…ぃいっ、ぃいくら幼馴染みとはいえっ、現在のクリスリンクル姫様は――」

「またもう☆ コルトったら、すっかり衛士隊特有の カチカチ頭になってしまいましたのですね…っ!」

 とか、子どもの頃から変わらない、愛らしい膨れ顔で挑発をされると、少年の意識も幼かった頃へと、つい逆行をしてしまう。

「っぁあもうっ! いいかクリスっ! 俺たちが幼馴染みだからってなっ、お前は今や王国のっ、大切な大切な姫様なんだぞっ! そもそも俺なんかが口利ける身分でもなければっ、ヒョイっと城から抜け出してもダメーなだなっ――」

「うふふ…♪」

 乱暴な口調の少年は、クリスの嬉しそうな笑顔を近づけられると、思わず心臓が跳ねてしまった。

「――っな、なんだょ…」

「私がよく知っている、子どもの頃からのコルト、ですわ♪」

 心から楽しく、深く安心をしたその笑顔は、幼少期からコルトがよく知っている、幼馴染みの輝きである。

「…んん…」

 どう言い返したら良いのか解らなくて、コルトは紅くなりながら、サッパリと短くサラサラな頭を掻いた。

「…とにかくだ。当たり前だが、お前の捜索隊が 密かに出廻っている」

 コルトは代々続く衛士の家系で、父も母も、王族から親しく接して戴いていた。

 特にコルトは、城内関係者に於いてクリスと唯一の同い年でもあり、王様より直々に「将来は、姫の直属衛士となり、姫に仕えると良い」と、可愛がられていた。

 クリスとも、同い年の兄妹のように過ごし、仲良く遊んだり、クリスにせがまれて一緒にお風呂に入ったりしていたものである。

 子どもの頃から、特に剣の才能で優れ、衛士隊長も「衛士コルトよ。その命を 姫様へ捧げよ」と、絶大な信頼と期待を寄せてくれていたり。

「それで、コルトも捜索隊へと かり出されたのですか。ご苦労様です♪」

「他人事みたいに言いやがって。とにかくだ、明日になったらこの村を出て、捜索隊本部へ連絡もするし、捜索隊と合流しつつ 王国まで連れて帰るぞ」

「いやですわ☆ 私は、伝説にある 勇者になるのですから」

 と、クリスはまたプイっと、膨れた愛顔をソッポ向け。

「そんなの 無理だって。だいたい、あんな安い賞金首なんかに後れを取ってるようじゃ、クリスが勇者なんて 夢のまた夢――」

 とか笑ったコルトの言葉を、クリスは聞き逃さなかった。

「あ~っ、やっぱりですわっ! コルトあなたっ、私が恥ずかしい磔にされている姿を、ずっと見ていましたのねっ!」

「げっ、しまった…っ!」

 一見すると真面目で勇敢な少年剣士コルトだけど、実は年相応以上に、女性への興味が強かったりする。

 幼馴染みの性格を知り尽くしているクリスは、酒場へコルトが現れた時から、自分の裸を覗き見していたのではと、ある種の確信をしていたのだ。

 そして、怒ったクリスが腰に手を充てたら、勢いでマントがズリ落ちて裸に。

 コルト少年の目の前で、白い艶肌だけでなく、豊かな巨乳や美しい括れ、さらには秘すべき下腹部までもが、露わとなった。

「っ! ぅぉぉぁぁあああっ!」

「そんなおかしな声で、誤魔化されたりしませんですからっ! なによっ、コルトのえっちっ!」

 とかムクれたクリスが悲鳴を上げたのは、幼馴染みの赤面と盛大な鼻血によって、自分の姿を理解してしまった直後だった。


                    ~第二話 終わり~    

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