☆第一話 冒険少女クリス☆
朝一番にギルドを飛び出したおかげで、冒険少女はお昼前に、目的地である裏山麓の村へと辿り着いていた。
村から更に歩いた小高い山の、広い洞窟を前に、クリスは今一度、手配書を確認する。
「え~と…『ラマド・クルセット』…。エルフの男性。罪状は窃盗、強盗など。特に女性の被害者が多数……まったくっ! なんと卑怯な盗賊のでしょうっ!!」
きっと、多くのか弱い女性たちが、恐ろしい目に遭わされたに違いない。
「絶対に捕まえて、みなさんの仇(?)を取りますからっ!」
少女剣士の瞳には、勇気の炎がリンリンと燃えていた。
スラリ…と細身の剣を抜いて構え、気合いを入れる、キツネ色長髪の冒険少女。
空気に晒された鋭い刀身が、高い陽の光を、突き刺すように反射していた。
広大な「ニョ大陸」でも広く知られる王国「聖クリスタリア王国」は、代々続く王家「イキリターツ十六世」によって統治され、平和的な繁栄を続けている。
軍政ともに優れた統治者として、大陸に知られる現王の、弟の更に妹。
つまり、王国唯一の姫君こそが、この冒険少女「クリス・クリクリス」こと「クリスリンクル・ミィ・フローレンシャル・クリスタリア姫」であった。
先代王であり稀代の剣豪だった父の才能と、大陸の魔法宝珠と謳われた美しい母の容姿を強く受け継いだクリス姫は、自ら城の騎士隊長に剣術を学び、同じく魔法隊の隊長から魔術を学び、その実力は「少なくとも同年代の少女よりは優れる」と言われている。
「私は、ただ姫と産まれ いずれの王家へ嫁ぐより…世の良民たちの為に 働きたいのですっ!」
好奇心と使命感と正義感の強いクリスは、古文書に記された「やがて復活するであろう暗黒の魔王」を討伐すべく、同じく古文書に記された「聖なる騎士、勇者が現れ、この邪悪を討ち滅ぼす」に、強い感銘を受けた。
「これはきっと、私の事に相違ありませんっ! 私は、剣を極める為に、冒険の旅へと出立いたしますっ!」
との書き置きを残し、ある夜にクリスは城を脱走。
上品な私服を街で売り払い、ビキニ鎧や剣を手に入れて、素性を隠して剣士の道を歩んでいるのだ。
この盗賊エルフ討伐は、冒険者になって、初めてのクエスト。
見事に討ち倒す事によって、クリスは伝説の勇者へと、一歩近づけるのである。
「参ります…っ!」
華奢な両掌で剣をシッカリ握ると、クリスは広く口を開く薄暗い洞窟へ、ゆっくりと歩を進めた。
少し深い洞窟へ入ると、すぐに小さな小部屋ほどの広さがある場所になっていて、なんと中央では賞金首のエルフであるラマドが、ノンビリと酒盛り。
エルフの割に小柄な男は更に、お世辞にも美しいとは言えない風貌をしている。
多分、太古に別種へと別れた闇エルフ族に属する男なのだろう。
なぜなら、近代の友好的なエルフは、男女ともに概ね美しい姿をしているからだ。
それにしても、人が来たというのに、犯罪者にしてはノンビリし過ぎに感じる。
外から人が入ってくる気配とか、感じていなかったのだろうか。
(とはいえ…)
例えどんな相手であっても、正々堂々と振る舞うべし。
騎士を夢見る冒険少女は、剣をかざし、大きな声で名乗りを上げる。
「私は冒険剣士、クリス・クリクリスです! 重犯罪者ラマド・クルセット! 大人しく降伏をしなさいっ!」
凛とした少女剣士の声に、エルフの重犯罪者はチラリと一瞥をくれると、少女の意気込みを「ふんっ」と、ハナで笑った。
「お前みたいなお嬢ちゃんに、俺様が捕まえられるもんかい。痛い目を見ないうちに 帰った帰った。ゲっハハハっ!」
まるで犬でも追い払うかのように、大きな掌をヒラヒラと振って、再び酒を呑む醜いエルフの犯罪者。
からかわれた少女剣士は、顔を真っ赤にして、怒りを表す。
「まぁっ、バカにしてっ! お覚悟をなさいっ! もう 容赦をしてあげませんからっ! 参りま──きゃあっ!!」
剣を構えて突進をする少女の足下が、突然ガクンッと、大きく崩れた。
それは、巧妙に隠された落とし穴であり、三メートル程の穴の底には、粘着性のスライムがウヨめいている。
穴の底から、バチャボチャっと液体の重い落下音が響いた。
「へっへ、他愛のないモンだぁ、ゲっへへへ♪」
エルフはニヤついて立ち上がると、獲物を確かめる為に、落とし穴へ近付く。
穴の底でスライムに張り付かれたであろう、オッチョコチョイな女の顔でも楽しんでやろうと、覗き込む。
が、穴の底に少女の姿は無く、崩れた仕掛けの残骸だけが、薄緑色なスライムと絡み合っていた。
「? なんだ、小娘はどうしたんだ?」
「ふふん、ドコを探していらっしゃるのかしら?」
不思議がる盗賊エルフの頭上から、涼しげな少女の声が聞こえる。
驚いた犯罪者が洞窟の天井を見上げると、細い鋼糸でぶら下がった、少女剣士の姿があった。
「ゲゲっ!」
冒険者なら誰でも持っている魔法のテグスで、落とし穴の罠を回避したクリス。
エルフの犯罪者は、冒険少女の反射神経の速さに驚かされたようだ。
クルクルと宙返りをすると、身軽な冒険少女はストンッと着地をして、再び優雅に剣を構える。
「今時 落とし穴なんて、引っかかるワケがありませんでしょ~っ。えっへへ~♪」
「こっ、こいつうぅっ! これでどうだっ!」
焦った醜男は、少女剣士へ向かって、なにがしかの魔法が込められた魔法珠を数個、投げ付けた。
「なんのっ!」
しかし、剣士が見事な剣裁きで全ての魔法珠をスパスパ切り落とすと、魔法珠は無為な煙を上げて、無力化される。
「ふふん♪」
「ぐぐ…っ!」
得意満面な少女に対し、エルフの犯罪男は、もの凄い冷や汗を流している。
そもそも、落とし穴の罠に余程の自信があったようだ。
「さぁ、観念して 私にお捕まりなさ──あっ!」
キツネ色髪の剣士が降伏を迫ると、醜いエルフは、洞窟の奥へと逃げ出した。
洞窟をアジトにしているのだから、この奥に抜け穴でもあるのだろうか。
「逃がしてなるモノですか!」
冒険少女は、賞金首エルフを追い掛ける。
ほんの少し追い掛けただけで、クリスはすぐに、洞窟の最奥へと辿り着いた。
そこは、やや広い空間になっていて、少女が立ちはだかる入口意外に、出入り口はない様子。
完全に追い詰められたエルフの男は、突き当たりの壁に背を当てて、オロオロと慌てふためいている。
「あわわわ…っ!」
どうやら賞金首の男は、何も考えずに逃げ出して、自滅をしたようだ。
「うふふ…♪」
意外と間の抜けた犯罪者に対し、勝利を確信した少女剣士は、油断無く剣をかざし、ジリジリと追い詰めてゆく。
「もう 追いかけっこはオシマイですわ…。みっともないマネをして逃げ回るなんて 恥ずかしい事をなさらないで…大人しく 私に捕まってしまいなさいな♪」
余裕で微笑む追跡少女に対し、逃亡者のエルフは、汗かき足も震えながら、抵抗をする。
「つつっ、捕まってなんかっ、たまるもんかいっっ!!」
涙まで浮かべる哀れな闇エルフは、しかし遂には壁際で、ペタりと腰を落としてしまった。
少女剣士は、ガタガタと震える男へ向かって近付いて、暫撃ではなく気絶をさせる打撃を放つため、大きく剣を振りかぶる。
「覚悟なさい。犯罪者っ! ぇえぃっっ!」
少女が剣を振り降ろした次の瞬間、洞窟の足下がピカッと輝き、握りしめていた筈の剣が、一瞬にして消失していた。
「? あら…?」
きょろきょろと見回す冒険剣士は、掌以外にもドコか頼りない違和感を感じ、更に視線を泳がせる。
「剣は…っ――ぇえっ!?」
そして視線は、自らの身体に起きた更なる現象を捕らえていた。
「きゃあああぁぁっっ!! よ、鎧がっ!!」
シッカリと握りしめていた剣だけではなく、ビキニ鎧のカップとアンダーのパーツまでもが、剣と共に行方不明。
「つ、剣…っ、鎧も…っ!?」
屈みながら、あたふたと両腕で裸身を隠した、恥ずかしい姫剣士。
必死に洞窟を見回すものの、剣も鎧も見あたらない。
慌てふためく半裸剣士に、ニヤリと笑ったエルフ男の声が届いた。
「ククク…あんたが探している物は、後ろにあるヤツじゃあないのかぃ?」
と、ニヤニヤしながら余裕の態度で、背後を指さす賞金首。
「えっ、あぁっ! あんな処にっ!」
半裸の美少女剣士が背後を振り返ると、外からの光を受けてキラキラと輝く剣とビキニ鎧が、洞窟の入口で、脱ぎ捨てられたように落ちていた。
身を護る鎧と敵を討つ剣をいち早く回収しようと、少女戦士は身体を隠した半裸姿のままで、洞窟入口へと慌てて駆け寄ってゆく。
そんな少女のゆく道は、突然降ってきた鉄格子によってズシンッッと塞がれ、通せんぼをされてしまった。
「きゃあっ! な、何ですかっ!?」
鉄格子にすがる半裸少女の背後へと、勝ち誇った犯罪者が、ニタニタと近付いて来る。
「ゲっヘっヘェ。俺様の芝居に まんまと引っかかったなぁ、お嬢ちゃんよぉ♪」
背後から聞こえるイヤらしい声に、ハッとして振り返る、半裸の少女剣士。
「こぉんな、ありきたりなトラップに引っかかるなんてよぉっ! まったく、初心者丸出しだぜえぇっ!」
この空間に張られていた罠は、女性襲撃者であれは武器防具を離れた場所へ転送し、男性襲撃者であれば何処とも知れぬ荒地へと転送させる、防犯用のテレポーターだった。
「そ、そんな…っ!」
落とし穴の罠からの、男の狼狽ぶりは、全て芝居だったのだと、ようやく気が付いたクリス。
武器を失い、鎧を剥がされた半裸の少女に、魔法のロープを持ったエルフの犯罪者が、ニジリ寄ってくる。
「! ぃっ、いやぁっ! 来ないでくださいぃっ!!」
「ゲヘっヘえぇっ! 素っ裸で街まで逃げ帰るなんてぇ、恥ずかしいマネは出来ないよなぁ! 剣士様よぉ。げっへへへ♪」
犯罪者の罠に嵌まり、剣を失い、頭や飾り肩鎧、グローブやブーツやマント以外の身体だけを裸に剥かれた、半裸の少女剣士。
「ひいぃ…っ!」
身体を丸めて必死に裸を隠し、尻餅までついた惨めな姿で、冷たい鉄格子へ細い背中を押し付けるしかないクリス──。
翌朝、麓の村の広い入口通りの真ん中に、一本の高い柱が立てられていた。
柱の周りには、朝早く仕事を始める村人達や、村を通り抜ける冒険者たちで、取り囲まれ始めている。
そして彼ら男性の顔は皆、ニタニタとヤラしそうにニヤついていた。
「みっ、見ないでくださぃ…っ! ゃあああんっ!!」
大きな柱には、半裸に剥かれた少女剣士クリスの姿が。
両手を頭上で高く縛りつけられ、爪先立ちにさせられている。
少女の顔から脇の下、豊かな乳房や桃色の先端や無毛の処女丘、丸い艶尻やツルんと閉じられた無垢な秘処までもが、隠す術もなく衆人環視に晒されているのだ。
しかも柱には闇エルフの魔法が掛けられていて、周囲一メートル以内には誰も近付く事が出来ないので、誰も半裸少女を助ける事は出来ない。
しかもこの拘束魔法は、人の出入りが一番賑わうお昼を過ぎないと、解除されないのだ。
ワイワイと柱を取り囲む人々の中には、年端も行かない子供達までいて、クリスの大きなおっぱいや綺麗な下腹部を、純粋に興味深く凝視している。
王国の姫君の姿は、恐れ多くて、良民たちも直視した事がない。
なので人々は皆、目の前の半裸拘束の美しき少女剣士がクリスリンクル姫である事など、気付きようもないだろう。
「いやあぁぁんっ! みなさんっ、どうか見ないでくださいぃっ!!」
余りの恥ずかしさに、少女剣士は耳までリンゴのように真っ赤に上気。
結局、賞金首を捕らえに行った少女剣士は、逆に身ぐるみを剥がされ磔にされて逃亡されたうえ、晒し者にされてしまったのだ。
まさしく、ミイラ取りがミイラ。である。
半裸に剥かれた恥ずかしい負け姿を一切隠す事も出来ず、多くの人々が行き交う公道の真ん中で、クリスは見知らぬ多くの人々に、しなやかな裸をたっぷりと、太陽が高く昇りきるまで衆目に晒され続けた。
「いやああああんっ!」
姫様のそんな恥ずかしい様子を、少し離れた家屋の影から、フードを深く被ったマントの剣士が見ていた。
~第一話 終わり~
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