第17話 前夜

「もうすぐ満月か」


 魔女は明日の準備をしながら窓の外を見て、ぼんやりとそんなことを考えていた。


「でも、何で急に世界樹の実なんて欲しがったんだろう?」


 世界樹の実は、エリクサーの材料になる果物で、万病に効く薬としてこの世界では有名である。


「それに、何で私に?」


 魔女はそういうと、顔を赤らめた。


 世界樹がある森は、魔族領の中にある。高ランクの魔物が跋扈(ばっこ)しており、力のない冒険者が行くとそれほど時間が経たない内に死んでしまうだろう。

 しかし、世界樹の森が危険と言われているのには、さらに大きな理由があった。


「四天王マルグリット・ベル……」


 王国は世界樹を確保するために、過去に何度も森に「軍団」を派遣しているが、そのすべてが1人の魔獣使いの少女によって殲滅(せんめつ)されている。彼女は、たった一匹で街を滅ぼす魔獣フェンリルを多数従え、王国が知る魔王以外の4人の「災厄(さいやく)級」の1人である。


 本来は、世界樹の実など、Aランク以上の冒険者が大勢でパーティーを組んで取りに行くものである。だからこそ、それを元にして作られる「エリクサー」は、まさに一本で国が買えるほどの価値があるのだ。

 Sランクがいるとはいえ、数人で取りに行くという彼の提案は、自殺行為にしか思えなかった。その自殺行為に、自分を連れて行こうというのだ。普通であれば、そんなものは断っていただろう。しかし今彼女の心にある死の恐怖は、それよりもずっと大きなものに覆い隠されようとしていた。


「どうして、よりにもよって「死の魔女」を連れて行くの?」


 返事があるはずもないのに、夜空に問いかけた。

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