第15話 Sランク

「不審者が出たって?」


 俺は、ギルドで冒険者と話をしていた。日本では俺と話をする人なんかいなかったが、この国にはなぜか俺と話せる人が多い。


「ああ。当たり屋っていうのかな?ぶつけられたとか言って、因縁を付けてきたんだよ」

「怖いなー、それは」

「身なりも怪しくてな。変な帽子はかぶっていたし、黒いブカブカの服を着ていたんだ」

「ハハハ、完全に不審者じゃないか。黒い服って言ったら、あんな感じか?」


 そう言って冒険者は奥のテーブル席に座っている黒い服の人を指さした。


「そうそう、あんな感じ……ヒッ!?」


 座っていたのは、まさに昨晩ぶつかった女だった。顔の大部分は帽子で隠れて見えないが、こっちを向いて口元は笑っている。俺は恐怖で後ずさった。


「驚くのも無理はないさ。あれは死の魔女と言って、関わった人に災厄をもたらすらしい。」

「そんな危ない奴が、なんでこのギルドにいるんだ?」

「ああ見えてSランクなんだよ。世界でも指折りの実力者で、ギルドにもすごく貢献してるって話だ。」

「そ……そうなのか。薬採り名人とか?」

「ハハ、お前面白いなー。薬だけ採っててSランクに行けるわけねぇだろーが。火炎を使うのがうまいんだよ。どんな敵だってイチコロさ」

「火炎?料理人か?」

「ククッ、料理人みたいなもんだな。でもあいつの料理は派手だぜ?」

「パフォーマンスがすごいのか。それであんな見た目を」

「見た目だけじゃない、実力もある。帽子もそれっぽいだろ。あの姿でやると様(さま)になるぜ。お前もいつか見れるといいな」


(パフォーマーだったのか。しかもSランクというから……とびっきりの名人らしい。人を見た目で判断するのはよくないな)


 俺は昨日のことを謝ろうと、女に近づいて行った。すると、こっちを見ていたはずの女は、ビクッと驚いて、椅子ごと後ろに倒れた。


(しまった。自分の見た目を忘れていた。それは驚くよな、俺みたいなのが近づいてきたら。でも、そんな露骨に避けなくてもいいのに……)


 俺は結構ガチめに傷ついて、話しかけるのをやめた。

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