第13話 死の魔女

 魔術は、私の全てだった。

 

 私は村の修道院の両親のもとに生まれた。父親は代々続く魔導士の家系で、修道院の書庫には沢山の魔導書があった。この村は魔族領と人間領の境界が近かったからか、度々魔物の襲撃に合い、この家系はその度に魔術で撃退して村を守ってきた。「悪魔の子」が生まれるまではね。「悪魔の子」って誰かって?


 勿論、私。


 両親も顔がいいとは言えなかったけれども、私は生まれた時から本当に醜かった。両親はそんな私にも優しくしてくれたけど、村の子供たちは違った。友達はできなかったし、一人で歩いていると子供たちに「ブス」と笑われながら石を投げられたりした。でも、心配すると思って両親には言えなかった。


 そんなことに嫌気がさしてからは、私は家にこもって書庫の魔術書を読み漁るようになった。

 

 でも、私の噂は街まで広まって、街の教会からは、この村には「悪魔の子」がいるってお触れが出たみたい。両親は私を守ってくれたけど……教会の偉い人が来たり、あんなに仲が良かった両親も喧嘩が増えるようになった。私は本当に「悪魔の子」になったみたいに、いや、それ以上に、この世界を呪った。


 そんな日を送っていたけれども、転機は訪れた。村にフェンリルが現れたのだ。私は両親に逃げろと言われて山の方に逃げたのだけど、両親が心配で村に戻った。すると、石を投げてきたあの子も、私に動物の糞をかけてきたあの子も、腹を食い破られたりして、皆死んでいた。村の入り口の方に行くと、両親の死体があった。村を守ろうと戦って死んだんだと思う。私はフェンリルのいなくなったその村で、どうして私だけこんな目に合うのかと、涙が枯れるまで泣いた。


 村ではもう生活できないからって街に行くと、私はフェンリルを呼び込んで村に災厄をもたらした「死の魔女」として国の教会から指名手配されていた。「悪魔の子」が「死の魔女」なんて、随分出世したでしょ?私はもう街にはいられず、旅に出て魔術師としてギルドで稼ぐようになった。ギルドなら、教会の手も及ばないからね。


 「死の魔女」なんて、安直なネーミングだと思いながらも、それが私にはふさわしい名前だなと、内心感じていた。幸い、私には魔術の才能があったみたいで、村にいたときよりもずっといい暮らしができているし、魔女の帽子で顔を隠しているから、ブスと言われる事も減った。人と関わることはほとんどなくなったけど、まるで最初から、私の人生はこうであったかのように生きることができている。この醜い顔の私と親しくなる人なんかいないし、両親も、村の人たちも皆死んでしまった。私に残されたのは、これだけ。


 そうだよ、私には最初から、魔術しかないんだ。

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