第11話 剣の腕を磨こう
「ご主人様、剣の腕を鍛えた方がいいと思います」
「フヒッ!?剣とか使ったことないからな……」
「でしたら、街の訓練所に通えばいいのでは?この街にもあると思いますよ」
「金稼がないといけないし」
「でしたら、ご主人様が訓練している間、私一人でクエストをこなしますので」
「え?大丈夫?」
「奴隷になる前は一人でクエストをこなしていましたから。それにCランクですよ。この前だってブラッディベアを倒したじゃないですか」
「え?」
「え?覚えてないんですか?」
「何を?」
「……とにかく、訓練が終わるまではクエストは禁止です」
(これ命令されてるよな。俺が主人のはずなんだが……。でも機嫌を損ねるわけにもいかないし……)
「わかったよ」
……
柴田は街の人に訓練所の場所を聞いてみた。
「訓練所か……あるにはあるんだが……あそこはいわくつきだからやめた方がいい」
「俺にもやめられない理由があるんですよ」
「決意は固いようだな……なら街の外れに行ってみるといい。」
……
「ここって、仮面の門番がいるところの近くじゃないか?」
「訓練に来たのか?」
「ああ」
「じゃあこっちにきてくれ」
そういって訓練所に案内された。10人くらいの男が訓練をしているところだった。仮面の門番はいないようだ。
「すごい気迫ですね」
「フハハ、脱落者には地獄が待ってるからな」
「えっ、地獄……?」
「ああ。脱落者は隊長の個人指導を受けることになっている。しかし大半の訓練生は顔を見ただけで死んでしまうらしい。生き残っても訓練どころではない。二度と冒険なんてできなくなっちまうそうだ。」
「顔を見ただけって(笑)。隊長はそんなに厳しい人なのか……」
「フハハ。まあ必死にやることだな」
「怖すぎる」
……
訓練をはじめて数日がたったが、訓練は40代半ばのおっさんである柴田についていけるものではなかった。柴田は教官から隊舎に呼び出された。そこには仮面の女もいた。
「シバタ!貴様は今日から隊長の個人指導を受けてもらうことになった」
「え……」
(隊長ってこの人だったのか……?)
「当然だろう!貴様は全く訓練につい「柴田殿!柴田殿なのか!?」」
イリーナが教官の発言中にかぶせる。こっちにかけよってきて手を取ってきた。
「ヒッ!?」
(ホラーかよ)
「個人指導を受ける訓練生がいると聞いたが、そなただったとは……だがそなたならば……怖がらせてしまってはいけないのでこのくらいにしておくが……フフ、いやこれからの事を考えると笑いが抑えられないな……そなたならば仮面を取らない方がいいかもしれないな。フフ、そうすることにしようか」
「隊長、特別扱いはいけません!訓練生は平等に接するべきです!」
教官が怒気を含んだ声でイリーナに訴える。
「い、いやしかし……でもそんな……それはあんまりではないか?」
(そんなに俺に顔を見せたくないのか?)
「どうしてもできないというなら、訓練生には帰ってもらうしか」
「それは困ります!」
柴田は叫んだ。
「俺は訓練をやめるわけにはいかないんです!」
「わかった。そなたがそこまで言うなら私もいつも通りやろう。だが、死んでも知らんぞ?」
(え?俺死ぬの?でもここで帰ってソーニャにこれ以上嫌われるのも……)
「……(コクリ)」
柴田は黙ってうなずいた。
……
「特別訓練室……ここだな。って、え!?」
特別訓練室とよばれる部屋に行くと、短い金髪をなびかせた美女が立っていた。窓から漏れる光が後光となって、神々しく見える。
(女神……?)
「きたか」
そう言われて、心臓が止まるかと思った。
「その声は、イリーナ……?」
「そうだ。私を見た瞬間に死んでしまうものもいるのだが。そなたは大丈夫だったか」
「一瞬死ぬかと思いましたよ」
「フフ、訓練どころじゃなければ帰ってもよいのだぞ?」
「いえ、やります!」
正直心臓がバクバク動いて訓練どころではないのだが、こんなチャンス逃すことはできなかった。
「フフ。だが早めに終わらせたい。だからそなたには特別の訓練をしよう。こっちの部屋に来てもらえるか」
「俺に顔を見せるのは嫌だから、一刻も早く終わらせたいってことか?」
「勿論だ」
(くそっ!そりゃそうだろうな!)
……
案内された部屋には、剣が台の上に飾ってあった。
「その剣を持ってみよ。それは私がダンジョンをクリアした時に得たもので……持つだけで剣の腕が上がる特別なアイテムだ。」
「イベントの景品か。持つだけで……?」
柴田が剣を握ると、頭に声が響いた。
「剣技スキルを取得しました。」
「うぁっ、何だ……?」
柴田は突然声が聞こえたため、ふらついて足をついた。
「大丈夫か!?」
イリーナが駆け寄ってくる。柴田が顔を上げると、イリーナと目が合った。
「あ……すまん」
イリーナは後ずさる。
(だよな。俺には近寄りたくないだろうな)
「剣技スキルがどうのとか聞こえて……」
「剣技スキル?なんだそれは。フフッ、力を得た反動で幻聴が聞こえたのだろう。その剣はそなたに贈ろう。教官と手合わせしてこい」
「え……?終わり?」
「そうだ。訓練に時間をかけたくないからな。」
「……わかったよ」
柴田は落ち込むと、特別訓練室を出た。
「顔を見られてしまった。柴田殿はもう私に会ってはくれないだろうな。でもわかっていたじゃないか……最初から……」
柴田が出ていった後、イリーナは今までの過酷な人生を思い出し、宝石のような涙を流した。
……
「隊長の特別訓練を受けたって?生き延びたということか。よかろう。貴様から打ち込んで来い」
「フヒ、いきますよぉ!」
柴田はイリーナにもらった剣で教官に切りかかっていった。剣が紙のように軽い。
「む、正面から向かってくるか!」
教官が柴田の剣を木剣で受け止めるが、受け止めた途端に木剣は粉々になった。教官も元はDランク冒険者だったため、かろうじて剣を避けた。教官は驚いた顔をしている。柴田も呆然とした顔で何が起きたのかと考えていた。
「な……。死地をくぐってきたものは違う、というわけか……。認めよう。貴様は卒業だ」
「やった!」
(どういう理屈かわからないが、いいものもらったぞ。これでソーニャに嫌われないで済むな。イリーナともう会えないのが残念だけど……)
柴田は喜びと残念さが入り混じる思いで宿屋に帰った。
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