第5話 金さえあれば

(違う天井だ……)


柴田は目を覚ますと、エルフの家と違う天井であることに気づいた。長い時間寝ていたのだろうか、傷は完全に治っているようだった。


(今度こそ病院だろうな)


柴田は起き上がり周囲を見渡す。


「うぉっとやっぱりぃ!」


やはりというか……近くの机で醜女の仮面をつけた女が目に入った。だが今度の女は甲冑をつけており、耳も普通の大きさだった。図面を広げて何かを考えていたようだ。


「む、起きたか」

「逃げられなかった、か」

「?」

「お前もエルフなのか?」

「エルフ?馬鹿にするなよ!……まあ、私は幼少期にはエルフだといじめられたものだが……そなたに言われると、こう、こみあげるものがあるな……」


(はい、ディス入りましたー!俺はエルフ以下ってことね!あざす!)


「フゥッ……ここはどこなんだ?」

「ロドザールだ」

「え?外国?」

「そなたはフードを着た怪しい女に連れてこられた。一緒に金を渡されたぞ。奴隷を買えるほど大きい金額ではないが、結構な額だ。」

「奴隷!?」


(今確かに奴隷って言ったよな……)


「ハハッ、そんなに驚くな。そこまでの額ではない。」

「女はどこへ行った?」

「よろしくといってどこかへ去ってしまったが……知り合いか?」

「いや……エルフだ。」

「エルフ?……そんなに私のトラウマをほじくり返したいか?」

「いや、本当なんだって」

「……きっと悪い夢でも見たんだろう。エルフはもう何十年も見つかっていない。王国に狩りつくされたからな。」


(悪い夢が現在進行形なわけだが……)


「ああ、やっぱり。極悪な連中だもんな」

「……容姿は極悪だったと聞くが、ウッ……」

「だ、大丈夫か?」

「ああ……すまぬ。少しその名は遠慮してもらえるか?さっきも言ったが、幼少期にいじめられたものでな」


(子供の時からその仮面付けてたんだろうな。でも触れちゃいけない気がする)


「そ、そうだったな。悪かった」

「いや、そなたにそういってもらえると救われた気持ちになる」


(救われた?俺の容姿が極悪だからか?くそっ、人には遠慮しろと言いながら自分は煽ってきやがる)


「今何月何日だ?」

「何月何日?何を言っている?」

「え?いや日付の話だけど」

「日付?ああ、日の場所か。今は昼だ。」

「そうなんだ。いやそうじゃなくて……ハァ……」

「な……なんだ?何か気に障ることを言ったか?すまないが、あまり男と話したことがなくてな。機微に疎いのかもしれぬ」


(男と話したことないだ?まあ、とりあえず男関係なく仮面は取った方がいいとは思うが)


「いや、いいよ……外に出るから金をもらえるか?」

「もう行ってしまうのか?……ああ、私といても不快だろうな。フフッ、何を勘違いしているんだ私は……」


(何だこの人?急に面倒な感じになったぞ?)


「ちょっと外の空気が吸いたくて」

「そ、そうだよな!?……ああ、そんなわけないか。気を使ってくれたんだな」


(まあそうなんだけど)


「私からも金を少し足しておいた。これでしばらくは生活できるだろう。こ……困ったら、私の所にきてもらえれば、いつでも御馳走するし、と……泊めることもできるぞ」


(すごい言いにくそうだ。嫌々言ってるんだろうな……)


「ああ、考えとくよ」

「本当か!?……コホン、私はここで門番をやっている、イリーナ・エゴロワというものだ」

「柴田宏だ。じゃあ、ありがとな」

「た……たた、大したことはしていない。柴田……フフッ、柴田か……。そなたが……そのやはり私といても「じゃあ!」」


外に出るとドアを閉めた。


「待っ……」


(可哀相だったから早めに出てしまった)


外は日差しが強かったが、晴れ晴れとした気持ちだった。石造りの建物が並んでいる。


(やっと解放された……。街並みは地中海とかそのあたりかな?まあ言葉は通じるみたいだし、いろいろ探ってみるか)


柴田は意気揚々と歩き出した。

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