第10話 仲間の話 3

 この世界には魔女魔術師の他に魔法使いと呼ばれる存在もいる。

 その数は限られていて、何と六人しかいない。


 存在。

 青音は魔法使いに関しては人間ではなく存在として認識している。

 それらは人よりもどちらかというと魔王に似ていて、もっと言うなら女神に似ている。

 青音は初めて魔法使いをしっかりと見た時、コレは人の形をしているけど生物じゃァないと思ったものだ。そう思うに至った根拠は何もない、ただの勘だったが、ただの幼い子供の姿かたちをしていたソイツは、人というには少しばかり違和感があった。青音は実はそういうのには特別鋭いかったりする。

 人じゃないんだから当然それらは人と共に生きてはいない、否この大陸にいないってだけで何人かは人が暮らす国に住んではいたが、ソレに関してはちょっとばかり事情が違うというか、あそこは魔法使いがいるから人が生活できる国だからこそというか。他の国と関わる事もないから変な思想が入ってこない故というか、むしろあそこの住人は果たして純粋な人間と言えるのかイマイチ自信が持てない、否青音の勘は人間だって言っていたが。


 さて、それじゃァどうしてそんな人間と関りがほぼない魔法使いに青音が詳しいのかっていうとそりゃ、昔魔王討伐の旅をしていた時に魔法使いも一行に居たからだ。

 とはいえその魔法使いは力を封じられ全く何の役にも立たないただの子供って感じだったし、力を取り戻した瞬間パーティを離脱して戻ってこないとかいう嘗め腐った事をしやがったが、マァ一応魔法使いと一緒に行動していたといえるだろう。


 そう、昔地下街で衝動買いした少年はどうも魔法使いであったらしい。呪いで力を封じられていたので普通に捕まって商品になっていたのだそう。

 見た目は少年だったが、実際は青音よりデカい美男子だったし、人間性に大分問題があるタイプで人間生活に全然馴染めなかったけど呪いを解除する頃にはそれなりに仲良くなっていた、と青音は少なくとも思っていたが一緒に力が戻った瞬間別れたのでアイツは多分性根が腐りきって溶け落ちてるんじゃないかね。せめて魔王退治まで付き合えや薄情者。


 そして、その薄情者の魔法使いが今、何故か青音の前に立っている。背中の中ほどまである黒髪は低い位置で緩く結ばれ、その端正な顔に薄く笑みを浮かべ赤い瞳がゆるりと細められている。正直デカいし色彩が暗いソイツの容姿はあんまり青音の好みじゃないのでせめてショタになってから来てほしい。

 因みに、青音は別にショタコンじゃないしロリコンでもない、この好みってのは恋情とか情欲とかが絡むタイプの好みというより、美術品とか風景とかそういうのに使うタイプの好みだ。そこら辺は間違えないで欲しい。


 さて、この魔法使い、名前はクレファムというのだが、コイツが何故こんな所にいるのかっていうと、青音も経緯は良く知らん、なんかアレクが拾って来たのだ。

 森を進んでいた時の事、どっかから何かしらの電波でも受信したのかいきなり森の奥に進んでいったアレクが、暫くして連れてきた、麗しい顔に爽やかで晴れやかな笑顔を浮かべけれど後ろにデカくて黒いのを連れてきてたので青音はソレはもう驚いたものだ。だってあまりにも予想外で。

 カエラムが元居た場所に戻してこいと言い、アレクが責任もって面倒見るからと返す、そんなまるで捨て猫拾ってきた子供と母親みたいなやり取りを驚いて黙っている青音の傍で勝手に開催している二人を無視し、クレファムは当然みたいな顔で青音の傍に寄ってきた。

 自分から寄ってきたくせに何も話さずに黙って見てくる、何の用だろう、もしやガンつけてんのかコイツ。喧嘩なら買うぞ。

 どうでもいいんだが、こいついつも誰かに拾われてるが何なのだろうか、犬猫の類なのだろうか。


 因みにだが、青音はあまりコミュニケーションというモノが得意じゃない、というか疲れるから会話そのものが好きじゃない、そしてお察しだろうがクレファムもそう、というかコイツは生まれてこのかた誰かと関わることがそもそもなかったので青音よりひどい。そんな二人が対面するとどうなるかというと、ソレはもうひたすらに、それこそ見ている方が気まずくなるような無言が続く。


「……久しぶり?」

「あぁ、二百と三十年ぶりだ」

「わぁ細かぁ」


 いつまでもウンともスンとも言わずに黙って見つめられると流石に鬱陶しいので青音から声を掛けてみると、今まで黙っていたのが何なのか即答してきた、とはいえやはりこれ以上何もしゃべる気がないらしい様子に青音は腕を組んでしょうがないという息を吐いてから会話を続ける。


「何か用?」

「特別な事はないな、ただお前がいる気がして、この辺りうろついてたらなんか見覚えのある顔を見つけて」

「ふぅん」


 会話終了。

 青音は不審という感情を隠すことなく視線に籠めてクレファムを見つめるが、相手はそのことを気にしてないのか気付いてないのか特に反応することなく青音を見ている。


 さて、ここまでちょっとクレファムに対して冷たい態度をとっている青音だが、別に嫌いとかそういうわけじゃない。否確かに解呪が終わった瞬間返っていったのには思うところがあるが、それも過去の話だから今更蒸し返してぐちぐちいうつもりはない、クレファムはクレファムなりに考えていたのだろうとは思っているからだ、その考えた果てでそれ以上一緒に行動しないという選択を取ったのならこちらに責める理由などない。マ敵対してきたのなら話は別だが、そうじゃなかったからその話はそこで終わらせるべきだろう。

 青音の個人的な興味として、いつかその考えた内容について聞きたいとは思っているが。


 けれども、それじゃァどうして今クレファムに対してちょっと距離を感じるような対応をとっているのかというとそりゃまぁ、なんか、これは良くないなって感じがするからからだ。

 何か。

 理由はない、ただ今目の前に立っているこの黒い魔法使いを見た瞬間から、説明のつかない嫌な予感がする、頭の中で警鐘が煩く鳴り響き、背筋があわ立つような、そんな感覚。


 今すぐ目の前にいるコイツを殺すべきだと青音の勘が叫ぶ。

 普段の青音なら己の勘に従って殺しはしなくとも無力化するために両手足を切り落とすくらいはするだろう。けれども今回は攻撃しようと動いた体から直ぐに力を抜く。

 残念なコトに、多分コイツを殺したところで何の意味もないとも思うので、今から青音にできる事と言ったらもう、結末まで見届けてから解説を聞くくらいだろうな。大変残念。


 そこまで考えて、小さくため息をついてからクレファムから視線を逸らし、いっそ諦観の念すらも抱きながらいまだ言い合いを続ける少年二人の方に歩みを進めながら「はいそこの二人、ちょっと静かに」と声を掛ける。


 後ろからちょっと残念そうな気配を感じるが、ムカついたので無視した。

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