第6話 地下街

「アオさん、機嫌いいですね」


 現在、魔女探しの旅に出て辿り着いたとある街の宿屋。

 この世界は青音がいない二百年の内に大分色々あったらしく治安が大変悪くなったが、それでも比較的マシな宿を選んだ、その分ちょっと宿泊料はかかるが旅費の提供元であるアレクは何も言ってこないので気にせず一人部屋と二人部屋をとった。


 いい加減面倒になって姿を曖昧にする系の術を解きフードを下していた青音は階段を降りようとして、そんな声を掛けられたので振り返って顔を上げ、アレクを見つめる。

 アオさんってのは青音の呼び名だ、名前を聞かれたが本名はやめとこうと思いアオと名乗った。本名ほぼそのままの安直なものだが、余り外し過ぎて反応できないのも問題だろうとそう名乗った、本名をそのまま呼ばれなきゃいいのだ。


「……そー見える?」

「はい!」


 ちょっと首を傾げて聞き返した青音に、大変元気よく答えたアレクの姿に目を細めちょっと黙って見つめてから、青音は笑って「そーかもね」と返しそのまま下に降りる。

 実際歩きながら鼻歌なんて歌ってた青音はどう考えても浮かれているし誰が見ても機嫌がよさそうだが、明確な肯定の意が返ってこなかったのでアレクは違ったのかなぁとか思いながら部屋に戻っていく。


 アレクは青音にどこに行くのか聞かない、聞いたところで答えてくれないと知っているからだ。アレクは素直ないい子だが、同時に利口なので無駄なコトはしないのだ。そんなところを、青音は結構気に入ってる。


 現在、青音が浮かれている理由はマァ簡単に言えば元仲間、一番最初に会いに行こうとしてどこにいるのか分からなくなってやめたイルムの情報っぽいのを掴んだからだ。


 まず、この国のちょっと大き目な街には大抵地下街ってのがある。

 地下、と付くが別にすべてが地下にある訳じゃない。なんなら地下街ってのも通称だ、裏町って呼んだりもする。マァ裏とか地下とか付くことから分かる通り真っ当な場所じゃない。

 誰も近寄ろうとしない裏路地を進んだその先、後ろ暗い人たちが集まる、ぶっちゃけ入るだけで違法とされるような場所。

 この世界に生まれたこの国の住民でも普通に生きてたら知る事すらないようなその場所を、異世界から来た青音に教えたのはなんと吃驚当時一緒に旅してたこの国の王子様だった。


 悪童のような表情を綺麗な顔に乗せ、青音の手を引いた彼は王都の地下街を一緒に歩いた。この世界に来て三日目をコトだ。一日目は教会に連れていかれ、二日目に当時の国王のところに顔を出し、そして三日目に手を引かれ城を抜け出し裏路地を抜け幾つかの建物の中を経由し階段を降りた先の暗い街を歩き回った。今思い出しても濃い記憶だ。

 地下街は入る歩くだけで違法だと知ったのは五日目にその国の法律だとかについての説明を受けた時だった、そんな場所を勝手知ったる自分の庭のように歩き回る王子様というのは異様だったが、同時にコレ以上なくなじんでいる気がした。多分彼本人の性質が、その地下街に合ってたんだろうな。

 なのでそのことについては誰にも言うことなかったし、その後もこの国いる間は地下街によく潜っていた。その際に倫理的にマズい事を色々とみてきたし幾つかに関わったりもしたが、件に関しての青音の認識は犯罪行為とかではなく純粋に友人と遊んでいるって感じで、ようは結構楽しんでいた。思えば彼は青音の初めての友人だったな。


 そして今回、昔立ち寄った時の記憶を頼りに嘗てのように地下街に向かった。昔と今とでは結構色々違ったが、それでも確かにそこには確かに懐かしい少年時代の遊び場があった。

 地下街には基本的に何人か魔術師とか魔女が居るものだ、そしてその街で行われる契約が破られないように幾つかの魔術や呪いをかける。例えば地下街に関する複数個の機密事項を喋ったら全身の穴という穴から血が流れだし苦痛と共に死ぬとかそういう。

 けれど今のここには見た所そこまで強い力は感じない、多分魔術師はいるししっかり魔術はかけているのだろうが数が減っているし、なにより魔女が居ない。

 魔術と呪いってのはマァ、この町に関する契約を例に説明すると機密事項が破られたことを察知するのが魔術、穴という穴から血が溢れ苦痛と共に死ぬのが呪いの領分だ。因みに魔術にも攻撃的なものはあるが契約には向かないので地下街とかには掛かってない。


 色々変わったなぁと思いながら青音は地下街をぶらついた。

 目的は情報だった、ココには違法ながらも立派な店舗を構える店から地面に布敷いただけの出店まで色んなものを売る店があるので、当然情報が商品の店もある。魔女の情報、大聖堂を襲った犯人の情報、そして青音の元仲間連中に関する情報、知りたいことは色々あった。


 因みに、立ち並ぶ店には食べ物を売っているところもあるがここ、とくに出店では食べ物を買わない方がいい。別に味に文句があったりするわけじゃぁない、確かに基本はクソまずいが偶に凄い美味しいモノもある。あるにはあったが、青音がソレを買って美味しく味わっている時に同じものを買った人間が二口ほど食べたタイミングで吐きながら壁に頭を打ち付けていたことがあったので。多分人体によろしくないんだと思われる。


 目的の店を探して歩きながら、青音は懐かしいなぁと思う。元仲間の一人を買ったのも確かココだったはずだ。

 ココには基本何でも売っているし、ココになくってももっと大きい街の地下街なら売ってる、そういう場所なのだ。なので当然ながら人間も売ってるし、魔物も売ってる。商魂たくましい人が集まっているなぁと思うがマァ、國ってのにはそういう場所も必要なのだろう。

 そんなココで、昔人間を買ったことがある。

 長い黒髪の少年だった、綺麗な顔で、殺意に満ち溢れた目で周りの全てを睨みつけていた。多分目で人を殺せるのなら当時のこの町の人間は全滅していただろうなってくらいの眼力で、思わず勢いで買ってしまった。友人は驚いてたが所持金が足りなず固まってたら代わりに払ってくれたので優しい奴だった、青音に甘かっただけかもしれないが青音に優しいのなら優しい奴なのだ。


 その件に関して、色々あったあとに思い返すと多分その少年なら目だけで人を殺せたんだろうな。でも当時は色々あって呪われてた所為で無力な幼子になっていたので睨みつけるしかなかったし、捕まったし売られてた。

 でもマァそのおかげで出会えたので青音にとっては少年が呪われてたことに関しては悪い事じゃないかった、そも青音ら一行がソルテラに行ったのも青音がその少年の呪いをどうにかしようとしたからだったっけ、当時の仲間にスッゴイ反対された記憶。


 そうして地下街を歩いて、目的の店で色々聞いた結果、魔女と襲撃犯に関しては収穫なしだったがイルムらしき人物の情報が手に入ったってワケだ。


 大聖堂襲撃、その犯人は分からないがその被害はかなりのモノだったそう、教会側の被害には特に興味なかったがどうやら聖遺物はほぼ破壊され、地下の牢獄は破壊され囚人も殆ど死んでたらしい。


 けれどその囚人らの中の生き残りが一人、最近破壊と殺戮を幾度か行いながらこの町の近くの森に入り、そこにあった教会に住み着いたらしい。

 その囚人は白い鎧を纏い、どんな攻撃も通さず、白に近い色の髪を血で真っ赤に染めるほど人を殺し、血を浴び、笑っていたそう。


 その話を聞いて、イルムかなぁと思った。

 白い鎧は昔一緒に旅してた時に愛用してたし、髪色も確かに白に近い灰色だった、神から与えられた守護の加護でそこらの人間の攻撃だって通らないし、マァ情報からイルムだろうなぁ。


 青音が最後に見たイルムは暗い、絶望したような表情だったので理由や行為はどうであれ笑っているのなら良かったなぁと思うのだ。

 嘗ての仲間はどうやら楽しんでいるらしい、素晴らしいことだ。

 なのでちょっと浮かれた青音は鼻歌なんて歌いながらコレから教会に向かう予定だ。

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