第3話 教会

 青音が知っている限り、この世界は丸まって大分三日月のような形になったミカヅキモみたいな形の大陸だ。否もしかしたらもうちょっと広いかもしれないが、マ観測できないのならないのと同じだろう。 

 上側に魔族や魔物、魔王が、下側に人族がって風に分かり易く分かれて分布している。聖域がある、つまりは青音が今いるのが下側の中でも端に近い方の国、ヒルキア王国。

 そしてこれから向かおうとしているのはカーロという国。宗教国家、この世界で祀られてる女神様の宗教の総本山。

 そもそもこの世界は国が少ないのだ、ヒルキア、カーロ、そして陸で囲まれた真ん中の海の底にも一つあったはず。


 上の大陸は魔王が治めるているが、けれど国とかそういうのはない、しいて言うなら魔王国か魔大陸って感じだろうか、皆魔王に従っているだけで一つの国の民としての意識はなかった。

 ヒルキアと言えば、青音のが魔王討伐の旅を共にした元仲間の一人にそこの王子いた、戦力とては正直まったく役に立たなかったがそれ以外ではとても頼れた、なんなら青音のこの世界に関する知識の仕入れ先はほぼ彼だった。懐かしな。


 因みに。

 カーロに用があると言ったが、正確にはその国にある教会の本部の地下の牢獄だ、昔の仲間がそこに囚われている。

 ソイツは牢屋に囚われているのだから当然囚人だ。

 しかもその教会本部の地下牢ってのは基本的に他じゃ取り扱えない重罪人を閉じ込めるための施設であり、つまり青音の元仲間は凶悪犯ってことになる。

 罪状は当時捕えていた魔王の子の逃亡を助けた事、この世界では人間は魔王による侵攻に悩まされ、そして青音はソレを解決するために来たのでまぁ魔王の息子とはいえ魔族を助けたというのは人類への裏切りのようなモノだ、とんでもない重罪だな。


 どんな重大な犯罪に、実は青音も関わっていたりする。

 そりゃもうがっつりと、むしろ主犯というか、王城の地下にいたその息子君を担いで脱獄しもう一度魔大陸の魔王城まで運んだ。大変だったな。

 今囚われていた仲間はちょっと手伝ってもらっただけだ、あんまり深く関与していない。つまり青音の行動のとばっちり、みたいな。マァ牢にぶち込まれたのには色々面倒な裏事情がある訳だが、ソレに関しては長くなるしあまり楽しいモノでもないのでまたいつか。


 今は件の仲間、名前はイルムというのだがソイツの事を話そう。

 イルムがいる教会本部地下牢獄は不変の聖遺物の加護が働いており、その力によってそこに囚われている囚人は聖遺物が壊れぬ限りは囚われた時のままそこにいるのだ。牢に放り込まれた時に傷があればその傷が癒えることはない、でも血は出ない、飯も食わなきゃトイレも行かない、歳も取らないので延々と閉じ込めていられる。つまりは究極の終身刑。死罪よりも重い罪を犯したか、あるいは死なれると困るけど娑婆に出るのも困る人物か、もしくは両方に当てはまる罪人が囚われる場所だ。

 人類規模の裏切り者にして元世界を救った勇者パーティーの一員、教会所属の聖騎士だったイルムはしっかりその条件に当てはまったが、不変のままそこにいるってことは今が前回からどれだけの月日が経っていようと件の聖遺物さえ無事なら確実に会えるっことになる。ヤァ喜ばしい。


 聖遺物とは、神の加護を受けた者たち、聖女や聖騎士と呼ばれる彼ら彼女らが死後、稀に残す物の名称だ。思い入れのある、装飾品が多いが布切れだとかいう例もあるらしい、持ち主の加護が宿っている大変有用なものであり、故に聖女や聖騎士を簡単に殺せない、死ぬ時は聖遺物落として欲しいのだ、ドロップアイテムって奴だな。

 加護ってのは文字通り女神から与えられる特殊な力、件の牢屋の不変だとかいうのは特に珍しい奴で多いのは治癒や浄化や守護とかの類、多いとはいっても加護を与えられるヤツがそもそも少ないのでそんなに数はいない。


 実は青音も一つ持っている。浄化の加護、呪いを解いたり出来るが聖剣の力で代用できるので普段は仕舞ってある、後単純に諸事情会って気持ち的に使いずらい。形は指輪。


 元仲間たちと会いたいとは言ったが今どこにいるのかってのがイルム以外分からんし、後魔王の息子君は魔大陸にいるのだろうが遠いので後回しにした置きたい。囚われているってことはその場から動いていないってことなので、前情報なしに会える唯一の相手だ。消去法。


 そんなワケで、青音の目的地は教会本部地下になった。

 事と次第によっちゃあ上にあるデカくて美しい白亜の宮殿を壊すことも視野に入れての脱獄計画を画策しながらのんびり歩く。急ぐ必要はない、教会で何か事件が起こらないかぎり尋ね人はそこにいるだろう、教会で事件が起こったらってのは、その時考えよう。

 というより今の時点でそんな事考える余裕はないって方が正しいか、なんせ青音にはカーロがどこにあるのか以前に現在地がどこなのかすらさっぱり分からないので、このまままっすぐ進んで目的地に着くのかは分からんが人の気配はするので道くらいは聞けるだろう。

 あと今が何年なのかも多分聞ける。


 実は前回、青音は既に一度その地下牢に忍び込んでイルムに脱獄を提案して拒否られたのだが、今度は果たして素直に着いてきてくれるだろうか。

 否ついて来なくっても檻壊して担いで出るつもりだが、牢を挟んでも話は出来るけど話すだけ話してさよならってのはちょっと、だって一人旅ってちょっと寂しいじゃん。

 マァそれはそれとして、青音としては本人の自由意志をだな、その、ぜひとも尊重したいのだ。

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