「予め設定されている明日」

(カタカタカタ――ターン!)

(カチャカチャカチャ……)


(ピコン!)


「ついに新作が完成したのね!?

 この瞬間を待っていたわ……!」


これまでの創作論は無駄じゃなかった。


キミの手で一本の作品が完成した――

創作論作家にとっての最大のプライズよ。


「早速、読んでみるわね!」


(カチャカチャ……カチャカチャ)


「……あん?」


(カチャカチャ……カチャカチャ)


「ちょ、ちょっとこれって――」



『創作論ビギナーお姉さんによる甘々堕落創作論』



いやいやいや。ちょっと待って……!


「キミとお姉さんの日常じゃないのよ!?

 これをカクヨムに投稿したってわけ……?」


コンクール応募用作品――

第3回「G’sこえけん」音声化短編コンテスト?


(カタカタカタ……)


『特定されないように細部の設定は変えてる』


「――たしかに、そうみたいね。

 うんうん、だって、

 本物のお姉さんはこんなに変な人じゃないし」


それにしても……。

よくよく考えてみたら、この作品。



「キミのためにお姉さんが考えた創作論を、

 音声化コンテストの応募作という名目で、

 インターネット越しに公開してるってことよね?」



(カタカタカタ……)


「キミ自身の物語を書け、って

 お姉さんが言ったから……?」


――んん?

私、そんなこと言ってたかしら。


(カタカタカタ……)



「第二回『テーマを待ちながら』――

 ああ、そういえば言ってたわね。


『テーマが無くても大丈夫。

 問われずとも自分語り』


 でも、それはキミの意識を作品に投影することで

 テーマを生み出すという話であって……」



キミや私をそのまま書け、って意味じゃないわよぉ!?



(カチャカチャ――とPVを確認する)


ちょ、よく見たら結構な数を読まれてるじゃない。

……SNSではプロの作家さんからも感想来てるし。


「でも、ちょっと困るかも……」



「私の創作論は、あくまでキミにやる気を出してほしくて考えただけで……キミ以外の人が読んでも、参考になるかなんてわからないわ……。お姉さん自身、半信半疑というか……。お姉さんはろくに実績もないし、創作論の本だって買っても途中で飽きるか積むかしてるのよ――「素人が頭の中だけで考えたハチミツみたいに甘っちょろい創作論を公開するな」ってクレームが来ないか……私、心配だわ」



(カタカタカタ……)

(カタカタカタ……)


「えっ……ハードルを下げるな?」


(カタカタカタ……)

(カタカタカタ……)


「気にしないで、ぶち上げて……」


(カタカタカタ……)

(カタカタカタ……)


「この創作論を読むだけで、

 一か月で実力派……ぐらい言ってみろって?」


(カタカタカタ――!)


「――そうね。そのとおりだわ!」


創作論は誰が書いてもいいし、

いつだって、いくらでも公開してかまわない。


ただし、そこには責任が生じる。


作品のクオリティアップでもいい。

読者ウケのいい表現の探究でもいい。


あるいは数をこなす生産性の向上でもいい。

PVやフォロワーを増やすテクニックでもいい。


――創作論は創作者のために。


私は創作論作家。

己の信じる、方法論メソッドを唱えろ……!


「さぁ、耳の穴をかっぽじってよく聞きなさい。

 今日の創作論をぶち込んでやるわ――!」


甘き創作論が支配する領域、お菓子の国へご招待よ!



今日のテーマは――「設定の整合性」



「ここからは創作論」


「タメになるか、ダメになるかはキミ次第……」



(コホン、とお姉さんは咳払いをする)


「お姉さんは心を鬼にします。

 鬼となって――キミの作品を添削しますね」


(カチャカチャカチャ――)

(カクヨムにアクセスして小説のページを開く)



「キミが書いた作品――


『創作論ビギナーお姉さんによる甘々堕落創作論』


 この小説は一話完結のオムニバス短編集ですね。

 一話あたりの文量は3000文字前後。

 短編というよりは掌編――

 いわゆるショートショートと言えるかもしれません」



物語のフォーマットはシンプルです。


登場人物は二人。

語り部である「お姉さん」は、

小説の執筆に悩む「キミ」のために創作論を教える。


当初は「お姉さん」の屁理屈じみた論理が売りですが、

次第に「お姉さん」と「キミ」との距離が近づき、

創作論はイチャイチャするためのダシとなっていく。


といったところでしょうか。


(カタ……カタ……)


「冷静に分析されるのは恥ずかしい?

 お、お姉さんだって恥ずかしいですよぉ……」


ですが、手は緩めませんからね。


「この作品、一話一話を読む分には問題ありません。

 第三回である『人間の不在証明』については、

 主題が批評家批判に寄りすぎていますが――

 そのくらいはオムニバス作品ならではの味でしょう」


(カタカタカタ……)


「批評家の話題になると、お姉さんがキレてたから?

 うるさいわね……黙って聞いてなさいよ……」


(…………)



「さて、問題は掌編集として通読した場合ですね。

 この作品、一編ごとに設定が一貫していないため――


 んです」



特に第一回は後の回との設定の不整合が目立ちます。


『甘々創作論と聞いたから読んだのに甘々じゃない』

『キミの脳内では理想の年上美少女』

『髪型もスタイルも作者の人は考えていない』


このように第一回ではキャラクターが自身を物語の登場人物であるかのように自覚する言動が多いです。創作用語でいうところの「メタフィクション」表現ですね。


こういった表現は第二回以降は見られません。



第五回の『隠しペン 俺の爪』では、


「お姉さん」が階段を上り下りしたり、

「キミ」が「お姉さん」の頭をなでる――


といった表現まで現れるようになりましたね。

これまでの四編では、二人のメインキャラクターは極度に抽象化された存在であり、物理的な実体を持っているかどうかすら定かでなかったというのに。



これでは読者が混乱してしまいます。



「シリーズの続き物として読めるにもかかわらず、

 作品としては設定の不整合が目立つ――」


場当たり的な盛り上がりを優先したり、

書きたいシーンをやりたい気持ちが先行する――。


連載作品ではよくあること、ですね。

更新を続けながら整合性を取っていくのは大変です。


「安心してください。お姉さんが助けてあげます」


キミにアドバイスを送りましょう。

これはカクヨムのようなweb連載でしか使えない奥義。


その奥義の名は……!



稿――

 !」



たとえば、書籍化の場合。


作品がコンクールで入賞したり、あるいは編集者さんの目に留まって、めでたく書籍化した場合には――。


かならず改稿作業が待っています。


カクヨムのUIでは小説は横書きです。

それに対して、物理・電子を問わず書籍は縦書き。


横書きの文章を改稿なしで縦書きにした場合には、読みづらいったらありゃしませんから……元の文意を保ちながら段落を変えたりする必要があるでしょう。


今回の「G’sこえけん」音声化短編コンテストにしても、音声化を前提に募集してはいますが、受賞して音声化した場合には音声台本として使えるように細かく改稿していくことになるでしょうね。



どちらにせよ、手直しをする作業がある。




というわけで、今回の結論は――


甘々堕落創作論その⑥

「設定矛盾は連載の華。

 過去の作品を添削するよりも、

 読者が待っている続きを書こう!」



(お姉さんは「ふふっ」と声色を変える)


「……そういうわけで、過去の矛盾は忘れましょう。

 なぁに、受賞したなら儲けものよ。

 書き直すときについでに直しちゃいましょう、ね」


(カタカタカタ……)


「え……?」


(カタカタカタ……)


 ……?」



そ、そのときは――

1話丸々、書き下ろせばいいんじゃないかしら!?



※読者に矛盾を突っ込まれて、

 応援コメントが添削祭りになっても、

 お姉さんは責任を取りません。



’(次回は、いよいよ最終回♪)


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