「テーマを待ちながら」
「やっと新作を書いてくれるのね。
お姉さん、ずっと待ってたわ」
(カタカタカタ……「あなた」は書き始める)
「どれどれ~?
へぇ……もうジャンルは決まってるのね」
(カタカタカタ……)
「ヒロインは年上で、包容力がある姉的存在。
いつも笑顔を欠かさない日常の象徴で、
口癖は「あらあらうふふ」――
きゃー、なんだか私みたいじゃないのよぅ」
(カタ……)
「照れるわぁ♪」
(…………)
「あら。どうしたのかしら?
キーボードが止まっているわよ?」
(「あなた」は筆が進まなくなった……)
「もしかして、まだキャラしか決まってないの?」
(カタカタ)
「そう――ジャンルも決まってるのね。
世界観はある程度のテンプレがあるとして……。
キャラクターについても頭の中にある。
決まってないのは「どんな話をするか」。
すなわち「テーマの不在」ということね」
「安心して、お姉さんが助けてあげるわ。この前にも話したでしょう?私、創作論を始めてみたの。あれから色々と想像で創作論をたくさん考えてみたわ。創作はまだしたことないけれども……創作論だけなら、いっぱしの作家と言ってもいいかもしれないわね。さぁ、キミの悩みも解決してあげる――とっておきの創作論でね!」
(「あなた」はカタカタ、と執筆を再開する)
「……え、聞いてよ」
(お姉さんはぶんぶんと腕を振り回す)
「話を考えるのに頭がいっぱいで、
聞いてるヒマが無い、ですって?
かーっ、そのための創作論なんだってば!
いいから聞きなさい!
キミしか創作論を聞いてくれる人がいないのよ!」
「だって私、まだ駆け出しだし……。
実績がない人の創作論って、受けが良くないから」
「きっと、キミの役に立ってみせるわ」
「……おねがい」
「ね、いいでしょう?ダメ?」
(……カタカタ、と「あなた」は応える)
「――いいの?えへへっ。ありがとう。
キミって、意外とお姉さんに甘いよね?」
(…………)
今日のテーマは――「テーマの不在」
「ここからは創作論」
「タメになるか、ダメになるかはキミ次第……」
(コホン、とお姉さんは咳払いをする)
「テーマ――まず、ここで言うテーマとは、
物語を通して伝えたいメッセージや、
物語の題材を指しています。
これら二つは本当は違うものだけれど、
あえて、ごっちゃにして話すことにしますね」
――どちらにせよ、キミはまだ決められていない。
「どんな話をしたいのか」が未定。
だから、キャラや世界観は頭にあっても――
「筆が進まない。当然ながらオチはおろか、
起承転結の山あり谷あり、なんて全然。
物語全体のオチをどうするか。
あいだあいだにどのような障害を用意して、
主人公はそれらをいかにして突破するのか?
考えることは山積み……。
ある程度までは、
思いついてからでないと始められない。
大丈夫。お姉さんに任せてくださいっ!」
――キミにだけ教える、創作の奥義。
今すぐにでも筆を取ることができるように、
ちゃちゃっと教えちゃいますね。
えーとっ、
「とりあえずは、
世界にキャラを放りこんでしまいましょう!」
「『つまり、アドリブで書くってこと?』
そう言いたそうな顔をしているのが、
お姉さんにはわかりますとも。
半分は正解です。
まずは物語を始めてしまいましょう」
「重要なのは、キミ自身の内にあるものを作品に投影することを恐れない――ということです。考えて書くというより、キミ自身の意識の中心にあるものを、世界や人物に当てはめて配置していく――そうすれば、おのずと主人公がどのようにしたいか、というのが見えてくるはずです。……具体例を挙げますね」
たとえば、これから小説を書こうとするキミ。
その周りには、こういった問題意識があるはずです。
――書いたものが読まれない。
――自分では良いと思ったものが評価されない。
――あるいは良いと思っていないものが評価される。
――etc、etc
これがキミの意識の中心にあるものなら、
それらをより普遍的な事柄に置き換えてみましょう。
たとえば「作品が評価されない」を変えた場合、
「好きな人に相手にされない」なら恋愛に、
「冒険者のレベルが上がらない」ならファンタジーに、
といった具合に――
キミ自身の意識を題材として換骨奪胎できるわけです。
「キミが抱える問題意識はキミだけのもの。
ずっと意識の中心にあることなら、
それだけ深く理解が進んでいるはず――
あとは作品が属するジャンル、
それに合わせた世界観に合わせるように変形させる。
これで「題材」が決まりますし、
同時に「メッセージ」も決まるのです」
作品の「題材」がキミの意識を投影したものなら、
そこで出したい答え――「メッセージ」とは?
「その「メッセージ」とは、キミが抱える問題意識に対して「現実ではこうなってほしい」というキミの理想を投影したものになります。これはあくまでお姉さんの創作論なのですが――創作とは、架空の物語を語るということは、そうなっていない現実に対して――そうあるべき幻想をぶつけることで、ある意味では現実を否定する――誤った現実を、正しき理想をもって修正するおこないである、と考えています」
事実は小説より奇なり――ではなく。
奇なる事実を、キミの小説で塗り替える。
伏線は回収され、勧善が懲悪する、あるべき世界。
「大切なのは、直接的に題材にしすぎないことです」
題材の方は――
言われなければ、他人にはわからないくらいで。
「ああ、言われてみればそうなのか――」
――ぐらいのこじつけでいいと思います。
「メッセージの方は、どうにもなりません。
こちらに関しては、それこそプロの作家さんでもなければ――そもそもコントロールできるものではないのですから。どんな物語であれ、書いているうちに題材にふさわしい「答え」を与えたくなる。それは「正解」という意味の「答え」ではなく、キミが「こうあってほしい」という意味での「答え」になります」
たとえば、強き者が弱き者を平気で虐げる世界の物語。
強き者を挫くのか。
強き者としての特権を得るのか。
弱き者ながらも反逆の牙を突き立てて死ぬのか。
――正解はなかったとしても。
キミが在ってほしい「答え」はあるはずです。
というわけで、今回の結論は――
甘々堕落創作論その②
「テーマが無くても大丈夫。
問われずとも自分語り」
(お姉さんは「ふぅ」と声色を変える)
「……さて、今回の創作論は以上よ。
自分語り――だいぶ聞こえは良くないけれども」
いつでも無料でアポ無し取材できる対象――「自分」。
小説を書くなら使わない手は無いということね。
「そういうわけで、おさらいするわね。物語を書きたいけど、物語をどう書きたいかが思いつかないときには……とりあえずは物語を始めてしまう。それからキミの意識を投影した障害を配置していく。そうすれば、その障害を「どうしたいか」という理想は見えてくる。だって、これはキミの物語なんですもの――ね?」
(…………)
「もう、大丈夫みたいね」
(カタカタカタカタ、と執筆を再開する)
「役に立ったみたいで良かったわ。
ところで――
このヒロイン、やっぱり私がモデルじゃない?
キミの近くの美少女ってお姉さんくらいしか……」
(カタカタカタカタカタカタ……)
「こら、執筆に逃げるのは禁止!」
※プロット無しで書き始めて、
物語がどうしようもなくなったとしても、
お姉さんは責任を取りません。
’(次回に続く!)
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