創作論ビギナーお姉さんによる甘々堕落創作論
秋野てくと
「雑語りのススメ」
(カタカタカタ……「あなた」はキーボードを叩く)
(…………打鍵音が止まる)
「あら、どうしたの?」
(本のページをめくる音)
「……調べものをしているのね。
えらい、えらい♪」
「小説にはリアリティが必要ですものね。
いい加減なことを書いてはいけないわ」
(ぱらり、ぱらりとページをめくる)
「……ふわぁ」
(パタン、と「あなた」は本を閉じる)
「……あら、図書館に行くのね。
そう――でも、早く続きを書かなくていいの?
読者は更新を待っているのに」
仕方ないわね。
じゃあ、お姉さんが助けてあげる。
「キミには、まだ話していなかったのだけれど。実は私……最近、創作論を始めることにしたの。実績?ないわよ。キミだって、小説を始めたときには初心者だったでしょう?私も同じ。実績はこれから作るわ――キミは私の創作論の、読者第一号ね」
今日のテーマは――「雑語り」
「ここからは創作論」
「タメになるか、ダメになるかはキミ次第……」
(コホン、とお姉さんは咳払いをする)
「はい、まずはキミに質問ですっ。
キミは人生で読める本の最大数を知っていますか?」
「しんきんぐたーいむ。
ぽくぽくぽく――ちーん」
(ドサドサドサ、と本が積みあがる音)
「答えは約一万冊――と言われています。
どんなに頑張っても、
人生で読める本の数はこれだけなんですね」
「さて、キミは正解できましたか?」
(カタカタカタ、と「あなた」はキーボードを打つ)
「…………どうして敬語なのかって?
なんとなく、ですけど――
なんなんですか。
ダメですか。
こういうのって先生っぽくてよくないです?
いかにも創作論っぽいし、ちょっと憧れてたり」
「……お姉さんを気取るならキャラを一貫させろ?
ちっ、うるさいわね……」
(カタカタカタ、と「あなた」は抗議する)
「『創作論ビギナーお姉さんによる甘々堕落創作論』って聞いたから読みに来たのに、全然甘々じゃない?看板に偽りあり?話が違う?公益社団法人日本広告審査機構(通称:JARO)に誇大広告としてクレームを入れるぅ?
仕方ないわねぇ、こっから甘やかしてやんわよ。
砂糖の数百倍の甘みを持つサッカリン(※)みたいにね……!」
(※)サッカリン
人工甘味料の一種。
主にフルーツ味の歯磨き粉などに使われる。
お姉さんは子供の頃にメロン味の歯磨き粉をチューブから飲み尽くしたことがある。わざとらしいメロン味、最高~♪
「――話を戻しますね。
人はどんなに頑張っても一万冊しか読めないんです。
そして重要なのはここからですが――
本を書くには読む数十倍の時間がかかるんです!」
つまり、本を書くということは。
「本を読むことを諦めること」に他ならないっ……!
「仮に本を書くのに必要な時間が、
本を読む百倍の時間だとしましょう。
本一冊分の文字を書いた時点で、
キミの人生からは
百冊の本の可読時間が失われているのです!」
だからこそ、「雑語り」を恐れてはいけません……!
「雑語りとは――
作家の知識が足りないために、本に書かれている内容に意図せぬ誤りが含まれてしまうことを言う!わかりますとも、お姉さんにも!お姉さんは小説を書いたことがない、カクかヨムかで言ったらどちらかと言えば読む側ですけどぉ……「この作者エアプだろ」とか「〇〇警察」とか……そういう繰り返される人の業、絶えることの無い争いの歴史をずっと見てきました。なぜなら……お姉さんはキミよりも年上だからです!」
「お姉さん」は「お姉さん」である時点で、
キミよりも常に年上になる。
「先に生まれると書いて「先生」ということですね!」
――何の話でしたっけ?
「ともあれ。
だからこそ、調べものは大事ですが――大事なんです、がっ!結果的に「雑語り」になってしまうことを恐れすぎてはいけないと思うのです。なぜならカクかヨムかで言ったら書く側に位置するキミのような創作者は、カクかヨムかで言ったら読む側の読者とは、知識の最大総量では常に敗北する運命にあるのですから……!」
お姉さんもいっぱい、見てきました。
いい加減なことを書いてはいけない。
きちんと調べものをしないと、って。
そんな立派な志を持った若者たちを――
いっぱい、見てきましたとも。
そうやって調べて、調べて……
調べ尽くして……
調べてからじゃないと、書けないと至り。
「結果的に、
一歩も踏み出せない創作者を……ッ!」
人、それを本末転倒と云う。
でも、小説は想像の産物なのです。
文章を読んで、その限られた情報を想像で補う媒体。
たとえば、そう。
――目を閉じてみてください。
音と声だけが響く脳内世界。
そこでは想像力で全てが決まる。
「ほらほら、耳をすませてみて?」
今のお姉さんの容姿だって、
キミの脳内では理想の年上美少女ですよね……!?
髪型も髪色も瞳の色も身長もスタイルもほくろの数も、作者の人は何も考えていなくても――それでも、理想のカタチが読者の中にあるはずなのだから!
想像の力を、脳内補正を信じる。
読者に……甘える。
「雑語り」のリスクが消せなくても……
「ある程度は、こう……
読者に投げちゃっていいんじゃないでしょうか!?」
小説を良いか悪いかと感じるのは読み手次第――
ひょっとしたら想像で補ってもらえるかもしれない。
「雑語り」はできれば無い方がいい。
そんなのは当たり前。
でも「雑語り」を恐れて踏み出せないくらいなら――。
「自分で「締め切り」を決めるとか……
あるいは「締め切り」がある自主企画や、
コンテストに挑むなりして……
これ以上は遅らせられないラインを超えた場合。
自分の中で「ここからは投げる」と決めてしまう。
そういうやり方もいいと思いますっ!
その勇気を……
飛び降りる決断を……
お姉さんは、甘やかしたいです……ッ!」
というわけで、今回の結論は――
甘々堕落創作論その①
「雑語りはしてもいい」
(お姉さんは「んっ」と声色を変える)
「……さて、今回の創作論は以上よ。
くすくす、キミも気づいたかしら?
私の創作論は――
一から十までが甘やかしで出来ているわ」
創作論エアプお姉さんによる創作論。
もはやそれ自体が「雑語り」。
すなわち、「雑語り創作論」である。
だけど、お姉さんは創作論を止めない。
なぜなら――
「お姉さんは……キミだけではなく、
自分にも甘いのよ」
※雑語りで炎上しても、
お姉さんは責任を取りません。
’(次回に続く?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます