第17話 レイラの思い


 ……レイラは今回、父親である国王に何度か会った。しかし国王はレイラを見てもなんの反応も示さなかった。


 ……今回の騒ぎで相当憔悴していたので気付かなかったのかも知れない。そもそもこの方には子供もあちこちにたくさん居るのだろうから、レイラ1人をどうこう思うはずもなかったのだ。……レイラはそう思おうとした。


 ……別に、国王に何を期待していた訳でもない。全然、なんとも無いんだから。

 レイラは何度も自分にそう言い聞かせた。



 レイラは国王が自分の母を覚えていないのが悲しいのか、それとも子である自分に気付いてもらえなかった事が悲しいのかも分からない。

 そしてそんな自分を認める事も嫌だった。




 ◇




 レイラは『祓い師』としての仕事を全うし、事後処理も終わった。あとは元の生活に戻るだけ。……だが、その前に。



「アルフォンス様。これでご依頼の仕事は終了いたしました。つきましては最初に仰っていた金額に成功報酬。プラス今回の件の作戦立案並びに作戦成功の報酬もいただきます」


 レイラは仕事をきっちりこなし、そしてその報酬もしっかりいただくのがポリシーだ。その為に頑張ったのだからそこはキチンとしておかないと!


 そんなレイラを見て一瞬キョトンとしたアルフォンスだったが、一つ息をついた後にまじめな顔でレイラに向き合う。


「それは勿論だ。……本当にありがとう、レイラ。お陰で本当に助かった。君に頼んで正解だったよ」


 そう言って頭を下げるアルフォンスに、まさか公爵家の嫡男が頭を下げるとは思わず居心地の悪い思いをしたレイラは少し困った顔をする。

 そんなレイラを見て、アルフォンスはニコリと笑った。……一世一代の、プロポーズのつもりで。


「……そして、レイラにまた仕事を依頼したい。……私専属の、『祓い師』となって一生側に居てくれないか?」


「……は?」


 何を言ってるんだ? とばかりにレイラはアルフォンスを見返した。


「専属? いえ私は街の『祓い師』なんで。

……というか、まさかアルフォンス様? そんな専属付けなきゃいけないくらい呪われた人生なんですか? いったい何人の女性に手を出してきたんですか!」



 言外に、不潔! 信じられない! といった表情を浮かばせたレイラに、しまったやはりレイラには直球で言わなければプロポーズは通じないかとアルフォンスはすぐに後悔し、噛み砕いてきちんと説明し始めた。


「いや、違う! レイラ? よく聞いて。

……私は君を愛している。こんなに気が合って、こんなに愛しく思った人は他に居ない。どうか、私と結婚して共に生きて欲しい」



 レイラは一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐにいつものレイラになった。


「ヤ…………。ですね。今回、やっぱり貴族の男性は女性を弄ぶような人たちだと分かりました。それに、アルフォンス様も最初に私の事、愛人だなんだと仰ってましたよね?」


 その言葉に心当たりのあったアルフォンスは一瞬グッと言葉に詰まる。しかし、諦める事など出来ない。何故ならアルフォンスはこの短期間でレイラこそが自分の運命の女性だと、そう確信していだからだ。


「レイラ。勿論そんな貴族もいる。しかし、平民でもそんな男はいるだろう。そういうのは、人によるのだと思う。そしてレイラという本当に愛しい人と出会った私は今後他の女性を見る事はないと約束する」



 レイラはそんなアルフォンスの緑の瞳を見入った。彼は真剣な顔でレイラを見ていた。


 ……レイラは母の事もあって現実主義者で、恋物語なんて信じない。……信じてこなかった。


 けれど、天の邪鬼で美少女な見かけと中身が全然違うと言われるレイラの事を知っても、面白い可愛い側に居たいと言ってくれる人はアルフォンスが初めてだった。それに今回色んなところで自然とレイラを守ろうとしてくれたアルフォンスを見て、嬉しくて心がほんのり温かくなったのは事実だ。


 ……これが、恋なのだろうか? 


 レイラもアルフォンスを見詰める。アルフォンスは少し照れたように微笑む。暫く、2人は見つめ合った。


「…………1年」


 レイラがポツリと呟く。


「……え?」


 アルフォンスは「?」となって問い返す。


「……1年経っても、アルフォンス様のお気持ちが変わらないのであれば……真剣に、考えてお返事します」



 これが、レイラにとって最大の譲歩だった。生まれてからずっと、母から直接言われた訳ではないものの父の、貴族の男性の不誠実さを感じて育ってきた。そして『祓い師』として働いているとどうしても見えてしまう、世の男性の不誠実の現実。


 すぐにはアルフォンスの胸に飛び込めない。レイラは若いながらに人の裏の部分を知り過ぎていた。……本当はアルフォンスを信じたい気持ちもあるけれども、なんだか素直になれない複雑な気持ちなのだった。



 そしてアルフォンスはこの場で即断られなかった事こそが、レイラの気持ちだと理解していた。

 『1年』。……アルフォンスのレイラに対する気持ちが本物だと証明し続ければ。

 アルフォンスは愛しい人との幸せな未来を思い、喜びに溢れた。



「……分かった。1年……、1年だね!? 勿論、私の気持ちは変わらない。……レイラ。幸せにするよ」


 そう言って抱きしめてこようとするアルフォンスをレイラは押し返した。



「……ですから! 1年経ってもお気持ちが変わらなかったら考えるって言ってるんですけど! なんですかこの手は!」


「ふふ。レイラは照れ屋だなぁ」



 本当に、分かってるのか!?


 かなり不安になるレイラだった。



 

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