第18話 レイラ、日常へ?
そうしてレイラは思っていたよりも多額の報酬を王家からもトルドー侯爵からももらい、アルフォンスと共に故郷に帰った。
そこからレイラはいつもの日常に戻れるかと思っていたのだが……。
レイラは王都から故郷の街に帰ってから、実家に帰った王妃からなにかと公爵家の別邸に呼び出されるようになった。用向きとしては美味しいお菓子や珍しい物が手に入ったからなどという特にどうと言う事のない事ばかりであっのだが。
そしておそらく王妃やアルフォンスから全ての話を聞いたブレドナー公爵夫妻からも公爵邸に呼び出され、下にも置かないもてなしを受けて可愛がられた。
アルフォンスは公爵家の1人息子。そして貴族の男性は20代前半が結婚適齢期であるのに、25歳の今になっても全くその気配もなかった事で周囲から随分と心配されていたらしい。
……であるからして、初めて出来た息子の本気の意中の女性であるレイラに対して公爵家の人々は非常に好意的だった。ちなみに女性の適齢期は貴族ならば15歳~20歳位だ。
……恋人でも無い私を、こんなに歓迎されても困るのだけど……。
レイラはそう思うのだが、周囲はそうは思ってはいないようでどんどん外堀は埋められていった。
そしてアルフォンスはレイラが公爵家を訪れる際には出来得る限り同席する。レイラの家にももはやお忍びにならない頻度で何度もやって来ていて、アルフォンスの本気度を表していた。
◇
ある日の、小さな街での昼下がり。
「えーと……。レイラはブレドナー公爵家のご嫡男と……お付き合いしているの?」
レイラは自宅兼店舗で学生時代からの友人アマンダからチラチラと様子を窺われながら質問された。横では近所に住む仲の良いハンナも興味ありげに見ている。
「え。……して、ないわよ? 以前の仕事の関係で知り合ってそれからやたらと呼び出されるようになっただけで……!」
少し動揺しつつ、それを否定するレイラ。
「えーー……。でも、ご嫡男は何度もこの家に訪ねてみえてるわよね? そしてレイラとよく一緒に出かけたりしてるじゃない?」
「違う違う! 凄い『呪い』関係のモノがあるって言うから連れて行ってもらっただけなの!」
「えー……。でも、食事や演劇も行ったのよね?」
「違うの! 何故か、その出掛けた後に演劇やお食事がセットになってたっていうだけで……!」
必死に否定するレイラに、ハンナが更に追撃する。
「……レイラ。それは世間ではデートというのよ」
『デート』。
……そう聞いて絶句するレイラにアマンダとハンナはクスリと笑った。
「まぁ、以前にレイラが話してくれた『1年後』。それを待つまでも無く周りから固められてる感じよね。ブレドナー様の本気を感じるわ」
以前にハンナやアマンダには王家の事は除いてアルフォンスとの事は話している。
「え。……でも……まだ1年経ってみないと分からないわよ? ……昨日だってアルフォンス様は綺麗な女性達に囲まれていて……」
少しムクレながらそう呟いたレイラをハンナは優しく見詰める。
「……でも、ブレドナー様ご自身はその女性達の相手をされていた訳ではないでしょう? あれ程頻繁にレイラの所に来ていて他の女性の相手までは出来ないわよ。公爵家ご嫡男としてお忙しい立場なのだし」
ハンナはそう言ってレイラを慰める。
……が、忙しい国王という立場を持ちながらあちこちの女性の相手をしていた実の父の事を知っているだけに、レイラは苦笑するしかなかった。
マメな人はいるものだ。ただそのマメさをもっと国政や王妃や家族の為に使えば良かったのにと思わずにいられないレイラなのだった。
◇
……そして、あの王妃への『呪い』の事件からもうすぐ1年が経つ。
王妃殿下は相変わらずブレドナー公爵家の別邸でお暮らしで、側にはヒース卿が控え仲良く過ごされている。
そしてそこに偶に国王陛下が訪ねてくるようになった。王妃は国王をすぐに追い返しているようだが、これからどうなるかは誰にも分からない。
そんな訳で王国では第一子であるフィリップ王太子がほぼ国政を担うようになっていた。
第二王子のヴェルナーは兄王子を支えつつ、国王と共にブレドナー公爵家を訪ねていた。国王が王妃に早々に追い出されても、ヴェルナーは公爵家に残って母と会い、そして更に可愛い妹レイラに会いに行く。
……実は国王一家でレイラが妹だと知っているのは王妃とヴェルナーだけ。
父はともかく兄フィリップが知らないのは悪い気もするが、兄は王太子として厳しく育てられた為か共に育った妹フェンディにもそれ程関心を示していない。おそらく知らせた所で「そうか」で終わりだろう。
そして兄には既に妻と子供達がいる。レイラが今後王家の権力争いに巻き込まれない為にもこの事は秘密にしておこうと王妃とヴェルナーは話し合っていた。
それにきっと、いずれレイラはアルフォンスと……。
王妃とヴェルナーは、2人が幸せになってくれればと期待しているのだ。
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