第12話 王都の街へ


 王妃が目覚めた日の午後。



 アルフォンスはレイラを誘って王都の街を案内していた。一度は断られたアルフォンスだったが、元気がない様子のレイラを心配し少し強引に連れ出して来たのだ。



「レイラ。だいたいの王都の有名な観光名所はこんなものだが、他に行ってみたい場所はないのか?」


 途中露店で買った果物の飲み物を手渡しながらアルフォンスは尋ねた。


「うーん……。特には。私、やっぱり田舎が合ってるんですかねぇ。とても人が多いからなんだか少し人酔いしてしまったみたいです。……あ、この飲み物、とても美味しいです」



 2人で行った街歩きは、意外にも楽しかった。

 王都の学園に通い、卒業後も年の半分以上を王都で暮らしているアルフォンスは王都の街を知り尽くしていて、案内もとても分かりやすかった。


 そして少し表情が柔らかくなったレイラを見てアルフォンスは何故かとても嬉しくなった。



「ああ、その飲み物は最近王都で流行ってるみたいだ。口に合って良かったよ。人酔いしたなら暫くここで休んでいこう。王都の大教会も見えるし、ここの広場は王都の街中とは思えない清々しさなんだ」


 そう言って爽やかに笑うアルフォンスを見て、レイラも控えめに笑った。


「アルフォンス様。お優しいですね。

……とても、女性の扱いに慣れしていらっしゃいますよね。やっぱり、貴族の男性ってそういう感じなんですね……」


 いい雰囲気だと思ったのに、いきなりの「チャラい貴族」認定にアルフォンスは慌てる。


「いやいやいや……。レイラ? そこは優しいですね、の次は素敵ですねとか好きになっちゃいそうですとか、そういう言葉が来るものではないの?」


 アルフォンスはついついレイラに自分が言って欲しかった理想の答えを言った。


「なんですか、それ……。今まではそう言われてきたんですか? 貴族の男性って、そうやってあちこちの女性に手を出し浮気を繰り返していくものなんですね……」


 そう言って何やら遠くを見ているレイラを見て、アルフォンスはレイラは違う誰かの事を言っているのだと感じた。


 一瞬アルフォンスはレイラがそのような不埒な貴族の男に騙されたのかととても不快な気持ちになった。

 ……が、レイラは王都に来るのが今回初めてだと言っていた。ではもしかすると学園時代に何か貴族とトラブルがあったのかもと考えるが、領地の学園には殆ど貴族は居ない。貴族はほぼ王都の学園へ行くのだ。そして15歳までの女生徒がそこまで危険に陥るような危険性は領地の学園には余りない、と思う。


 ……ではレイラはいったい誰のことを言っているのか? 


 アルフォンスは思い出していた。

 『レイラの家は代々優秀な『祓い師』の家系で……』レイラに関する報告書にはそう書かれていた。


 優秀な『祓い師』の家は、案外裕福だ。それは結構高額な『祓い師』の仕事の報酬がどんどん入ってくるから。仕事が軌道に乗ればかなり儲かる仕事なのだ。レイラ程の魔力があれば王都の学園への誘いがあってもおかしくない。そもそも母も『祓い師』。家の財力とその能力があれば普通ならば王都の学園に行けていたのではないか?


 そして、レイラから父親の話は一切出ない。

 ……同じく優秀だっただろうレイラの母。おそらくは王都の学園に行ったのではないか。もしやそこで貴族の男性と知り合い、レイラを授かって……?


 ……もしやそれで、母から話を聞いたレイラは男性嫌いの貴族嫌いなのか? それで男女の痴情のもつれのドロドロ系の呪いは嫌いだと、そう言っていたのか?


 アルフォンスはレイラを見た。


 レイラは変わらず、どこか遠くを見ていた。


「レイラ……」


 アルフォンスは思わず呼びかける。レイラの視線がゆっくりとアルフォンスに向けられた。


「……なんですか?」


「いや……。良ければ、今流行りのオペラでも見に行かないか? 今人気の身分違いの恋の劇をしているはずで……」


 アルフォンスはそこまで言って、しまったと思った。


「オペラですか……。私は、そういう恋物語なんて信用してないんで、興味はないですね」



 そう力なく言うレイラに、アルフォンスは更にレイラを守りたい気持ちが溢れるのだった。




 

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