第13話 王妃からの呼び出し



「……え? 王妃殿下が私を?」


 レイラはキョトンとして言った。


「……そうなのだ。母上はどうしても2人で会って恩人であるレイラに礼が言いたいと、そう仰せなのだ」


 ヴェルナーは困ったようにそう言った。



 王妃が目覚めた翌日。


 レイラはヴェルナー王子に呼び出されウンザリした気分で女官に案内されていると、アルフォンスがやって来て一緒に王子の所に着いて来た。


 実はアルフォンスは昨日レイラが元気が無いようだったので心配していた。……レイラは何故アルフォンスが自分と一緒にいてくれるのかが分からなかったが、不快ではなかった。

 ……それはアルフォンスがレイラの心に寄り添い気遣ってくれていたから。いつしかアルフォンスは心からレイラを守りたいと思うようになっていたのだ。



「お礼って……、もうあの時言っていただきましたよ? これ以上お礼を言われるのは私が困ります。お断りしてください」


 ヴェルナー王子相手に平常運転のレイラを見てアルフォンスは少しホッとしていた。昨日は何か落ち込んでいるように感じたから。


「いやそれが……、どうしても頼むと珍しく強く言われてね。私も病み上がりの母上の願いを聞いて差し上げたいのだ。どうか母の気が済むまで礼を言わせてやってはくれないか?」


 そう言ってヴェルナーはレイラに頭を下げる。それを見たレイラは流石にどうしようかと困ってしまった。


「……殿下、おやめください……! では……、こうしませんか? お会いする代わりに、あの呪いの事件の今分かっている捜査情報を教えてはいただけませんか? 私も縁あってこの件に関わったので少し気にるのです。勿論、一切この事は口外いたしません」


 ヴェルナーにとってレイラは母の命の恩人。そして大切な友人の恋人?であり、自身も少し気になる女性でもある。

 あの事件に関しては彼女も関係者ではあるし、事件のことを知りたいと思うのも頷ける。


「……分かった。実は……」



 ヴェルナーから語られた事件の内容は、実のところはまだ何も分かってはいない、という事だ。


 『呪いの指輪』が隣国で謎の貴族から王女の降嫁したドルトー侯爵に渡された経緯も両国でまだ調査中。その『指輪』も誰がかけた『呪い』なのか判明しない。『王妃の座』か『国王の愛』、どちらか若しくはその両方を狙ったものなのか? 現在王国のトップである国王の周りにそのような女性がいないが調査するのははなかなか難しいのだろう。


 横に居るアルフォンスの様子からも、ヴェルナーの話す事は誤魔化しなどではないのだろう。


 ただ事件の全容を知っているはずのヒース卿がずっと黙秘を貫いている、という事。



「隣国の、ドルトー侯爵に『呪いの指輪』を渡したという貴族とヒース卿との関わりは……?」


「ヒース卿……、ヒースは、とにかく黙秘を貫いている。彼が捕えられた事で事件は一気に解決するかと思われたのに、まさかこんなに謎に包まれたままだとは誰も思いもしなかったのだ」


 そう言ってヴェルナー王子は非常に困った顔をした。


 ……ここまで仰るのだから、ヴェルナー王子は嘘はつかれていないのね。だとすると、やはり……。


 黙り込んだレイラにヴェルナーは慌てて声をかける。


「大した情報がなくて済まない。しかし、とりあえず犯人は捕まった。これからは更に魔法を強化して、決して誰も傷付けさせない!」


 レイラは、ヴェルナーをジッと見た。


「……そうですね。王妃殿下は今回の事でとても傷付かれショックだったでしょうから……」


「……そうなのだ。レイラ、無理を言うが母の我儘を聞いてやってくれ」


 ヴェルナーは『呪い』の為に心も身体も弱っている母の気の済むように、願いを叶えてやりたかった。


「……かしこまりました」


 ヴェルナーの母を思う気持ちをレイラも感じた。

 そして表情なく答えたレイラを、アルフォンスは黙って見ていた。



 ◇



「……ああ、レイラ! よく来てくれたわね。さぁ近くに座って……!」


 レイラがヴェルナーとその部屋に入ると、ベッドで待っていた王妃殿下が嬉しそうに起き上がろうとした。


「……母上! 無茶をなさってはなりません! 今ここで貴女に何かあれば、それはレイラの責任となってしまうのですよ? 責任あるお立場なのですから自覚なさってください」


 ヴェルナーはそう言いながら母の元まで行って、座っていても楽なように枕の調整をしてあげていた。


「ふふ……。ありがとう、ヴェルナー。そして私の願いを叶えてくれてありがとう」


 王妃は優しく息子ヴェルナーを見詰めた。ヴェルナーは真剣な顔で「ご無理はなさらないでください」と強く念を押した。レイラは黙ってその様子を見ていた。


「さあ、私たちを2人きりにしてくれるかしら?」


「……わかりました。レイラ、少しの間母の事を頼む」


「……承知いたしました」


 そしてヴェルナーは後ろ髪を引かれるようにこちらをチラチラと見ながら出て行った。

 アルフォンスは王妃の部屋の手前でヴェルナーを待っている。



 ……パタン……ッ


 扉が閉まり、ヴェルナーも女官も出て行った。この部屋には、王妃とレイラ、2人きり。



 息子ヴェルナーを優しく見詰めていた王妃は、今はレイナを表情なく見詰めていた。

 



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