第11話 王家の人々




「……う、ん……。あぁ……私は……? いったい……」


「王妃殿下が! 目覚められましたぞ!」


 部屋中に歓喜の声が湧き上がる。


「王妃! クリスティーナよ。……ああ……無事で良かった」


「母上!」


「お母様ッ!」


 王妃の元に夫である国王陛下や王子達と王女が駆け寄り涙を流して母である王妃の回復を喜んでいる。……感動のシーンだ。



 ……けれど、どうしてこの部屋に私がいる必要があるのかしら?


 王家の人間達が集まるその部屋に、何故かレイラはいた。


 ……呪いの解呪は昨夜無事に終わった。

 王都に着いた早々に『呪い』の解呪に取り掛かる事になったが、事は急を要したし無事解呪出来たのだからそれは良かった。


 ……しかし翌朝に王妃殿下の意識が戻りそうだからと、身内ではないレイラまでがこの部屋に呼ばれたのだ……。何故だか意味が分からない。そしてチラと王族の方々のご尊顔を見ながらレイラは思った。


 ……早々に仕事も終わった事だし、王都に観光にでも行こうかと思っていたのに……。



 そう思って少し不満そうな顔をしたレイラに横からアルフォンスが覗き込み、コッソリと言った。


「……顔に出てる。後から私が街に連れて行ってあげるからもう少し我慢してくれ」


 ……なんで分かった? 

 レイラは少し慌ててアルフォンスに「結構です」と言い、なんとか顔から不満そうな表情を消し去った。アルフォンスはクスリと笑った。



 そしてその時王妃の前でヴェルナー王子が王妃や国王、兄妹に向かって言った。


「母上。今回国中の誰にも解けなかったこの『呪い』を解いたのは、ここにいる『祓い師』レイラです」


 皆の視線が一斉にレイラに向く。

 急にやんごとない方々の視線を一身に浴びたレイラは驚いた。


 ……え? 何コワイコワイ! 一応仕事は無事済んだはずなのに、なんなのこの拷問は!


 ほとんどが好意に近いものだったが、疑惑や不信感、……そして憎しみに近いような視線もレイラに集まった。



 レイラがそれらに少し構えていると、その横でアルフォンスが国王達に向かって述べた。


「……叔母上。呪いの解呪とご回復、誠におめでとうございます。そして今ヴェルナー殿下のお言葉の通り、ここにおりますレイラが叔母上の呪いを見事解きましてございます」


 横でペコリとレイラは頭を下げた。


「なんと……! それは誠か……? ヒースは元より他のどんな高名な『祓い師』にも無理だったものが、まさかこのような子供のような……、ああ済まぬ」


 ヴェルナーにギロリと睨まれ、国王はすぐさま謝罪した。



 ……まあ分かってますよ。私の所へ初めて依頼に来る人はまずそう言いますからね。


 だからこそレイラの一族が代々優秀な『祓い師』だと知っている人達ばかりの小さな街でだけは商売は成り立ってきた。大きな街では知っている人たちもおらず、なかなか商売は軌道に乗らなかったはずだ。


 そこに王妃の近くにいた王女が涙を拭いてレイラに言った。


「レイラ……さん? お母様を助けてくださって、本当にありがとう。

そして……ドルトー侯爵家の疑いを晴らしてくださって、本当に感謝しています」


 ドルトー侯爵? 誰だそれ?


「……王女殿下は、ドルトー侯爵のご嫡男に降嫁されている。ドルトー侯爵が隣国で謎の貴族に持たされた『指輪』によって王妃殿下がこのような事態になり、王女殿下も大変心を痛められていたのだ」


 「?」な顔をしたレイラにアルフォンスが補足をいれてくれた。

 

 ナルホド……。それは王女殿下も気が気じゃなかっただろう。


 しかし今回の『呪い』の首謀者はとんでもない罠を張ってきたのね。王女様の嫁ぎ先まで巻き込んで、話の本幹を誤魔化そうとしていたのだから。

 そう考えつつレイラは元王女に向き合う。


「王妃殿下がお目覚めになられたこと、心よりお喜び申し上げます。……そして私は自分の仕事をさせていただいただけですので、そのようにお気になさらないでください」


 あくまでレイラがした事はただの仕事。『祓い師』であるからその役割を果たしただけの事なのだ。決して王妃殿下を助ける慈悲の思いからした事ではない。


 だからそのような過分な感謝は必要ない、と言ったつもりだったのだが……。


「……まあ! 昨今珍しいなんと清らかな心の持ち主なのかしら! お父様お母様! 是非このレイラに十分な褒美を与えてくださいませ! 勿論ドルトー侯爵家としても貴女には心からの感謝と褒美を取らせますわ」


 王女がそう言うと、国王もそれに負けじとばかりに言った。


「王家から褒美を取らせるのは当然の事だ。成功報酬に加えて、其方の望みをなんでも一つ叶えようではないか」


 国王陛下も大盤振る舞いを約束した。……イヤ、いいのか? そんな安請け合いをしてしまって。

 レイラは少しこの国の未来が心配になった。



「……陛下。私からもレイラさんに御礼を言いたいわ。……レイラさん。貴女には感謝をしてもし切れません」



 まだ体調も優れないだろうに王妃殿下は弱々しくもそう言ってレイラを見詰め、静かに微笑んだ。……ベッドの枕を立ててなんとか座っている姿が痛々しい。



「畏れ多いことにございます。王妃殿下」



 レイラも落ち着いた様子で王妃に答えたのだった。



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