待宵

やと

第1話

時刻は深夜になった真夜中に毎週土曜日にラジオを聴きながら海沿いを散歩するのが僕が日課で毎週の疲れを癒やしてくれる唯一の時間だ。

でもここ最近その時間に歩いているとある変化が起きた。ある時間に同じ場所の胸壁に座っている女性がいるのだ、いつもいるのかそれとも土曜日だけにそこにいるのか分からないけど座る後ろ姿だけはなんとも綺麗に写るけど悲しくとも見えるだからいつも彼女に目が行ってしまう。彼女が現れてからしばらく経ったある日の土曜日いつものようにラジオを聴きながらその女性に気付かれないように僕は反対側の歩道に歩きながら彼女の後ろ姿を見てしまうそうしたら彼女が急に後ろを向いて僕を見る、そして慌てて目を逸らそうとしたら彼女が笑いつつ僕に手を振った。どうやら僕にこっちに来いと誘ってる、僕はそれを見て迷ったが毎回見すぎたのかとか色んな事が頭によぎりながら彼女の方へとぼとぼと歩いて行く。

「あのなにか?」

「君毎回土曜日にここ部屋着で散歩してるなって思ったから気になったから話し掛けよううかなって思って」

「そうですか」

「それにいつも私のこと見てるし君こそなにかあるんじゃないの?」

「毎週この時間にいるので気になるのはなりますけど」

「そっか、いつもイヤホンでなに聴いてるの?」

「ラジオです」

「ラジオかいいね、私も好きなんだ」

「そうですか、貴方はいつもこの時間にいるんですか?」

「いや、毎週土曜日のこの時間だけ」

「なにかあるんですか?」

「約束したんだ」

「約束?」

「うん。いつかこの場所に帰って来るから、その時に君が居れば結婚しようって言ってくれた男の子がいてその子を待ってる。」

彼女がそう呟いて小さい背中がより一層小さく感じた。

「でも貴方が此処にいるのって最近ですよね?」

「うん、私小さい時に此処で育ったんだ、だけど大学進学で東京に行ったの」

「じゃあその約束してる人も此処出身なんですか?」

「違うよ。大学で初めて会ったの、彼と夏休みに此処に来た時にこの場所が一番好きって言ったんだ」

「じゃあ就職でこっちに戻ったんですか?」

「いや最初は東京の会社に就職したけどなんだか中学とか高校であんなに憧れてた都会って本当に怖いんだ」

「怖い?」

「そう、君は見た所高校生かな?」

「はい」

「じゃあ一度くらい都会に行きたいって思ったことない?」

「まあ憧れはありますけど」

そう言うと彼女はけらけらと笑い始めた

「おかしいですか?」

少し怒りぎみに言うと意外な返答が帰って来た

「いや、私もそのくらいの頃都会に憧れてたしやっぱ地方の子はそうなんだなって思って」

「実際行ってみてどうでしたか?」

「んーそうだな、皆朝会社や学校に行く時の目が怖いのよあと人も多いし転んでも誰もこっちを見向きもしないって言うか皆自分のことで精一杯って感じ。」

「じゃあ僕には向かないですね」

「君潔い良いね」

「そうですか?確かにきらきらしてるイメージは持ってましたけどその逆もきちんとあるんだって少し安心しました」

「達観してるねー、私の高校の時そんな感じじゃなかったけどな」

「単に諦めがつくのが早いだけです。こんなの短所でしかないです」

「そうかな?私は好きだけど」

好きって単語に少し同様したけどその次が気になってしまう

「何でですか?」

「だって諦めるのが早いって切り替えするのも早い訳でしょ、だからそのままで良いよ」

「そうですか」

「今は仕事なにやってるんですか?」

「デザイン会社で働いてる」

そんな些細な会話を小一時間くらいして彼女は帰る支度をして

「じゃあね」

と一言言って去って行く所に僕が引き止めた

「あの、また来週話しませんか?」

「うん、いいよ」

そう言って僕とは反対側に歩いて行った。


それから週に一回年上の彼女と一時間くらい同じ場所で雑談をするようになった

色んな話しをした大学でなにやってたかとか友達の話し時には恋バナなんかも話せる関係になった。彼女の待ってる人もどんな人なのかも。彼女の話しだととても一途らしく同棲もしていた事も知った。

暫くして彼女はある日を境に急にその胸壁から消えた。

最初は彼女の気紛れだと思ったけどそんなはずない、だってあんなに寂しそうにそして待ち人の話しをしてる時の楽しそうな様子だったのに急に居なくなるなんて。もしかしたらもう待ち人と一緒にどこか遠くに行ってしまったのだろうかそんな考えが頭を悩ませた。もしかしたらもう会えないのかもしれないでも僕はいつ彼女がそこに居ても良いように毎週土曜日の深夜に玄関のドアを開ける。今度は僕が待宵草のように待ち続けた。

そんな日々を送って半年を経とうとしていた。

そんなある日彼女はまた同じ場所で座っていた。それを見て声をかけずにはいられなかった

「あの?」

そうやって声を出すと振り返った彼女は涙を流しながら振り返った。

「ああ、来たね」

彼女は涙を拭きながらこっちに来てと彼女の横をポンとてを叩いた、なにがあったか分からないけど彼女の横に座る

「今日は君に言おうと思って此処に来たんだ」

「そうですか」

「元気ないね」

「いつかはこうなるだろうって思ってたので」

「ん?」

「貴方の彼氏さん来たんですよね?」

「まあそうだね」

「じゃあ此処に来るのも最後ですか」

「うん」

「やっぱり彼氏と東京に行くんですか?」

「いいや違うよ」

「なんで?」

「だって振られちゃったからね」

予想外な返答だった、こんなに綺麗で喋り上手な人でも振られることもあるのかと。

「じゃあ此処を離れる理由は?」

「仕事も暫く休んで色んな所に行ってみようかと思って」

「傷心旅行ですか」

そう言うと睨まれた

「まあ間違ってはいないけど言い方ってものがあるでしょ」

「すいません」

0「まあ日本だけじゃなくて世界中色んな場所に行くからお土産期待してて」

「また戻ってくるんですか?」

「なに私居ちゃだめなの」

「いや戻って来るなら良いです。でもここ最近居なかったのはなんでですか?」

「あー、振られてからどこに行こうかとか荷物とか色々準備あったから」

なんだか腰が抜けそうだ心臓が速く脈打っていたけどそれも落ち着いた

「いつ行くんですか?」

「明日の朝だね」

「急ですね」

「まあ私は決めたらすぐ行動するタイプだから」

「じゃあまた此処で同じように話せますか?」

「うん、いつになるか分からないけどちゃんと帰って来るって言ったでしょ」

「じゃあお土産期待して同じ時間に此処待ってますから」

「うむ、それじゃあね」

そう言っていつものように僕と反対側に向かって帰って行った。

彼女がいつ帰って来るかは分からない最初に出会って涼しい季節からもう蒸し暑さが感じれる季節になった。今度は僕が待つ側になってしまったそんなこと思いながら僕も帰ろうと歩いて行るとふと一輪の花が目に入ってきたそこには綺麗な黄色に染まった待宵草が咲いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

待宵 やと @yato225

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る