睡魔
@ATGsyukudai2180822
睡魔
あなたは授業中、睡魔に襲われたように突然眠くなって寝てしまう、という経験はある?僕はよくある。理由は単純に寝不足だ。
僕は帰宅部で塾にも通ってない、時間は他の高校生に比べて山ほどある。しかし、好きなアニメや漫画、ゲームなどを1日中やっていると時間はあっという間に過ぎていく。気がついたら午前の2時や3時を過ぎてたなんてことはよくあることだ。そこから風呂に入って歯磨きしてから寝るのだから、眠りにつくのはもっと遅くなる。
朝起きるのは7時、これより遅くなると遅刻してしまうギリギリの時刻だ。朝はいつもバタバタで、遅刻したことは一度もないが危なっかしいと思っている。
こんな生活変えないと、と自分でも思っているが変えるのはなかなか難しい。しかし、あることがきっかけでこの日常は変わってしまったのだ。
ある高校2年生の夏の日、僕は授業中いつものようにぐっすり眠っていた。そしてこんな夢を見たのだ。
「君は今日から睡魔だ!」
突然変なことを言う声が聞こえてきた。なんだこれ?
「君は人を眠らせることができる。そしてその眠らせた時間が君の寿命だ。何も食べなくても生きていける代わりに、誰かを眠らせないと君は死んでしまうのだ。」
ここまできて気付いた。これはただの夢だ。こんな変な設定、夢でしかありえない。
しばらくこの謎の声を聞いていたが、何を言っているのかよくわからない。そしてその声は聞こえなくなってしまった。
気がつくと僕は全く知らない所にいた。ここはどこ?
近くにいた人に話しかけてみたが無視。というより聞こえていないように見える。一生懸命アピールしてみたが、全く気づかれない。別の人にも話しかけたが結果は同じだった。僕は透明人間になってしまったのか?
そういえば夢で、君は睡魔だ!とか言ってた気がする。あの出来事は夢じゃなかったのか?僕は本当に睡魔になってしまったのか?
これも夢の中かと思ったけれど、夢にしてはおかしい。普通に起きている感覚だし、走り回ったりすると疲れてしまう。たぶん夢ではない。
しかし、いきなりこんなことになってしまっても現実を受け入れられない。あの謎の声の言った通りなら、かなり面倒くさい。誰かを眠らせないと僕の命がなくなってしまう。
一旦落ち着いて何か持ち物はないのか探してみる。ポケットを探ってみるが何も入っていない。しかし腕にデジタルの腕時計がついていた。23:50と表示されている。が、不自然な点に気がついた。
この時計、時刻が逆戻りしている。故障かと思ったが、どうすることもできないのでそのままにしておくことにした。
あとは特にすることがないから、とりあえず歩こう。
よく見たら背中に翼が付いている。何だこれは?もしかして空を飛べるのか?僕のイメージでは、睡魔って悪魔みたいだし、宙に浮いてそうではある。
本当に空を飛べるのかな?試しにジャンプしてみたが普通に落ちる。しかし、重力が少し小さくなったような感覚。もう一度ジャンプすると今度はもっと高く上がった。5メートルほど上がったが、その瞬間。
落ちる!
全身に力を込めると空中で止まった。危ない。怪我するところだった。無事に体が浮いたようだ。
一度コツを掴むと結構簡単だ。イメージ通りに動くことができる。これはいいぞ!空を飛び回っていると、大きな駅が見えてきた。
その駅は結構人がいた。しかし、誰も僕の姿は見えていない。
路線図で知っている地名を探したが全く分からない。日本のどこかのはずだが、ここがどこなのか本当に分からない。
よし、暇だし観光しよう。そうして駅周辺を散歩することにした。
あたりが暗くなってきた頃、そろそろご飯を食べる時間かな。と思ったが全くお腹が空いていない。
ふとあの声を思い出した。何も食べなくても生きていけるが誰かを眠らせないと死んでしまう、とか言ってた気がする。
そういえば、まだ誰も眠らせていない。僕の寿命はあとどれくらいだろう?そう思って早速近くのベンチに座っていた人を眠らせることにした。でもどうやったらいいのかわからない。
「眠れ〜、眠れ〜」
と言ってみると、その人は寝た。意外と簡単だな。
すると腕時計がピピッと鳴って+10と表示され、16:30だった時計が16:40になった。
なるほど、この表示は僕の寿命を表していたのか。気づかずにこのまま時計の表示が0になっていたら、僕は死んでいたと思うと結構怖いぞ。
その10分後にその人は起きて、慌ててどこかへ走って行ってしまった。少し悪いことしたなあ。
その後、いろいろな人を眠らせて気づいたことがある。
1つ目は自分で眠らせる時間を設定できないこと。寝不足の人や、疲れている人ほど長い時間眠らせることができる。逆に、全く疲れてなかったり眠くない人は眠らせることができない。もしかしたら僕は睡魔によく眠らされていたのかもしれない。
2つ目は同時に複数人を眠らせることができること。こうすることで効率よく寿命を伸ばすことができる。
3つ目はわざわざ「眠れ〜」と声に出す必要はないということ。心の中で唱えれば眠ってくれる。声に出してもどうせ周りには聞こえてないが。
翌日、空を飛んでいると高校を見つけたので、僕はそこに行ってみることにした。僕が通っている高校ではないが、少し雰囲気が懐かしい。
教室に入ってみると、授業中だったが数人がかなり眠そうにしている。その人たちを眠らせると合計で180分ほど追加することができた。良い収穫だ。
その後いろんなクラスを回って、中でも特に時間を稼げたのは2年生の伊藤という人だ。そこで伊藤の跡をついていくことにした。
彼は野球部で、放課後は部活の練習をしていた。しばらくその練習を見ていたが、かなり大変そうだ。
伊藤は練習が終わるとそのまま塾に行った。僕も後ろから授業を聞いていたが、内容が結構難しい、というか普通に分からない。
ついでにここでも眠そうな人が何人かいたので、眠らせた。学校のときよりも一人当たりの時間が長くて助かる。
塾が終わってから、電車に乗ってしばらく歩くと伊藤の家に着いた。伊藤はだいぶ疲れているようだったが、帰ってすぐにお風呂に入って夕飯を食べて、一段落すると部屋の机で勉強し始めた。真面目だ。覗き込んでみると、宿題や小テストの勉強をしている。
しばらくしてようやく布団に入った。まだ午前0時過ぎだ。僕だったらまだゲームやってる時間なのに。せっかくだから僕も寝よう。
翌日の4時30分に大音量で目覚まし時計が鳴り、僕は飛び起きた。えらく早起きだな。伊藤はまだ眠そうにしているがゆっくり起き上がって目覚まし時計を止めた。朝ご飯を食べて学校の準備をして、急いで家を出た。
学校に着くと昨日の部活にいた人たちが集まっている。これから部活の朝練があるらしい。これは大変だ。このためにわざわざ早起きしていたのか。練習は1時間半ほどで終わったが、これから学校だ。
こんな生活していたら授業中眠くなるよな。それにしても、同じ高校生でもこんなにも忙しさが違うということに驚いた。授業中に眠くなる原因が僕とは正反対で、なんだか自分が悲しく感じてきた。
僕は毎日ひたすら色んな人を眠らせてきた。普通に申し訳ないと感じていたが、こっちは命がかかっているから仕方ない。
特に伊藤にはかなりお世話になった。寝不足の原因が自分のときと違いすぎて、流石にかわいそうとは思っていたが、よく寝てくれるので本当に助かった。
睡魔になって一番辛かったのは話し相手がいないことだ。自分の声が誰にも届かないから本当に孤独だ。それに家族や友達にもしばらく会っていない。
なんとか生き延びているが、いつまでこの生活を送らなければいけないのだろう。早く人間に戻りたいな。
僕が睡魔になってから1ヶ月ほどたった日、夢の中でまたあの声が聞こえてきた。
「久しぶり。そろそろ君を人間の姿に戻してあげるよ。」
え!本当に?いきなりだったので驚いたが、やっと元の姿にもどれるらしい。久しぶりにこの声に会ったので、気になっていたことを質問した。
「どうして僕を睡魔なんかにしたの?」
「君を睡魔にしたのは、君の生活習慣がひどすぎたからだ。このままではいけないと思って罰を与えたのだ。人間にもどって前と同じような生活習慣だったら、また睡魔にするぞ。」
そうだったのか。これから気をつけないと。もうこんな思いは二度としたくない。
「あなたは誰?」
そう聞いてみたがもうあの声は聞こえなくなってしまった。
気がつくと僕は家の布団にいた。すごく懐かしい感覚だ。翼も生えていない。やっと人間の姿に戻れた!
「おはよう!」
久しぶりに会った家族に挨拶した。1ヶ月ぶりなので、泣いて喜ぶのではと思っていたが、いつも通りの挨拶が返ってきた。あれ?おかしいな。
日付を確認すると、僕が睡魔になったときから日にちが変わっていない。どういうこと?僕が睡魔だった1ヶ月間は何だったんだ?もう睡魔のときの記憶が曖昧になってきた。あの出来事は本当は夢だったんじゃないか?なんだかわけがわからない。
ただ、この景色が懐かしく嬉しく感じる。人間に戻ることができて本当によかった。これから早寝早起きを心がけよう。
睡魔 @ATGsyukudai2180822
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます