遥かに飛ばされてしまった
人生を終わらせようとしていたのに。
二年後……
私は無事高校生になった。けど、友人は作らず、部活には入らず、暇さえされば曲を作り続けた。睡眠は絶対足りない。やるしかないという意思が私をただ突き動かした。
が、ある日突然曲が作れなくなった。突然のことだった。曲のアイディアが浮かんでこないこと自体は、前までもちょこちょこあったことだけど、こんなに長い期間曲を作れないのは初めてのことだった。もう私の曲を生み出す力は失われてれてしまったみたいだった。だとしたら私は、これから何のために生きればいいんだろう。
※ ※ ※
「先輩、どうやらあなたの呪いもここまでみたいですよ」
思わず震え上がる。私は今、崖の一歩手前に立っている。さえぎる物がなにもない。私のタイミングでここから飛び降りれば死ねそうな気がする。だからここに来た。当たり前だけど、周りには誰もいなくて静かだった。誰かに見つかったら面倒だし、早く飛び降りなくちゃ。
皆曲を作れない私には生きる資格なんてないから。
「何、してるんですか?」
勇気を出して、一歩を踏み出そうとしたとき、後ろから声をかけられた 。予想外の出来事に慌ててしまい、転んでしりもちをついてしまう。足が片方崖からはみ出て、もう少しで落ちそうだった。それを見て、私に声をかけた女の人が慌てて私の方に駆け寄ってきて、私を抱えて崖から遠ざけた。 私は抵抗できなかった。そしてしばらくして、私が死ねなかったことを悟る。今から飛び降りようにもこの人がそうさせないと思う。失敗した。
私を助けたのは長めの髪の毛がふわっとしていて、優しそうな顔をしている女の子。歳は同い年くらいかな。いや、少し年下か。その人は心配そうに私のことを見つめている。
「あの、座って少しお話しませんか?」
私を出来るだけ崖から遠ざけたいのだろう。女の子はそんな提案をした。気を使ってくれてるのにこんなこと思うのもどうかと思うけど、正直少し面倒だと思ってしまう。私は早く死にたいのに。
「あの。話したくなかったら話さなくてもいいですけど、今ここで自殺しようとしてましたよね」
「うん」
「どうしてって、詳しく聞いてもいいですか?」
観念、するしかないか。私は促されるように立ち上がり、少し離れた岩に座った。女の子も私の肩をまだ抱きしめながら、隣に座ってきた。
「曲が作れなくなったんだ。私は曲が作れないと生きてちゃいけないの。私は昔、私の作った曲で1人の人の人生を終わらせちゃったから。そして私は、あの人に呪われた。曲を作り続けなきゃいけないっていう呪いに。私は償いをするために、誰かを救うための曲を作り続けなくちゃいけない。でも出来なくなった。もう私からは何の曲も生まれてこない。だから死のうとしてた」
「 まず、あなたは、曲を作れなくても死ななくちゃいけないなんてこと絶対にないです。」
「それじゃあだめなんだよ。私はずっと……」
「……中学生の時、私の先輩にすごい曲を短期間で作った人がいたんですけど、私、あの人が作った曲が今でも大好きなんです」
「え……と?」
「私もちょっと事情があって、辛い毎日を送ってた中で、あの曲たちを聞いて自分を奮い立たせて……。あなたの曲もそんな力があるはず。きっと、あなたの曲を聴いて救われている人もいる人もいるんじゃないですか?」
「……そうだといいな。ありがとう」
「はい!」
「あなたを助けた人に会ってみたいかも。意見とかアドバイスとか聞きたいかもな」
それを聞いたこの女の子はなぜかにっこりと笑みを浮かべて優しく私の肩を叩いた。
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