6.おやすみ前は歯みがきです。

(ごそごそと、服を着たりモノをかたづけたりする音がドア越しに)


(ドアの開く音)


「ふうー、さっぱりした……」


「あれ? もしかして、お風呂場の前で、ずぅっと待ってたの?」


「ぺたんこに伏せをして待っているのは、ぬいぐるみみたいでかわいいけど……」


「……私がお風呂に入るときも、脱衣所まで入ってこようとしたでしょう?」


「もしかして、どうにかここに入ろうとしていたのかな~?」


(抱き上げられ、声が近くなる)


(耳元で)


「えっちなのは、だめだよ? ふふっ」


(パタパタとスリッパの足音)


(階段を登り、ドアが開いて)


(ベッドに腰を下ろす、きしむ音)


「さてさてそれじゃあいつもの……あれ……?」


「んー、ちょっとおててを見せてくださーい」


「……やっぱり、爪が伸びちゃってるね」


「いつもなら、歯みがきをして寝かしつける時間だけど……」


「今日は爪切りもしちゃおっか! ええと……たしかここに……」


「あったあった。これでパチンパチンって、おててをきれいにしちゃうからね」


「こーら、逃げようとしちゃだーめ」


「痛くしたことなんてないでしょう? 私、けっこう上手いんだから」


「暴れないで、お膝のうえに……ふふ、あったか、ふわふわで気持ちいいね」


「それじゃあ、まずは右のおててから……」


(声が右上から)


「すこしだけ、じーっと我慢しててね。そうそう、じょうずだよ、えらいよ〜」


(パチン、パチンと、爪切りの音)


「ちっちゃなおてて、ふにふに、ふわふわ〜」


「触ってるだけで、かわいい、って気持ちがあふれちゃう」


「すこしだけ……すこしだけだから……」


「もみもみ……もみもみ……」


「ぷにぷに……いつまでも触ってられるねえ……」


「おっと、いけないいけない」


(声が左側に寄って)


「次はこっちのおててだよ〜。ぱちん、ぱちん……そうそう、じーっと我慢できて、とってもえらいね〜」


「こっちもぷにぷに……ふにふに……」


「わわっ! ここでもぶるぶるするの!?」


「くすぐったかったのかな? ごめんごめん、ついつい楽しくなっちゃって」


「あとは……足もぱちん、ぱちん……」


(爪を切る音がしばらく続いて)


「……はい、おわりだよ〜!」


「とーってもおとなしかったね〜! よしよし、よしよ〜し!」


「えらい子えらい子、かわいいかわいい〜! わしゃわしゃわしゃー!」


「かわいくて、かっこいいおててになったよ~!」


「それじゃあ、つぎは……」


(ごとごと、と、モノを置いたり取ったりする音)


「このまま、歯みがきもしちゃおうね~」


「私にもたれかかるみたいに……そうそう、お膝のうえで、ごろーんしてね」


「ふふふ。ふわふわのお腹が丸見えだよ?」


「こちょこちょ~! ってしたら、さすがに怒っちゃうよねえ」


「おとなしくしてくれてるんだもんね。イタズラなんかせずに、きちんとしなきゃ」


「お口を開けて……そうそう、いい子だね、いいこいいこ」


(しゃかしゃかしゃか、と、歯みがきの音)


「嫌がる子も多いって聞くけれど、ちゃんと歯みがきできてるね~」


「えらいぞ~! ほんっとうに、かわいくて、えらいぞ~!」


「すこしだけ奥にいくね……しゃかしゃか……ごしごし……」


「お顔はこんなにかわいいのに、歯はとがっててカッコいいねえ」


「こっちの奥は……このくらいかな……」


「次はそっちを……やさしく……しゃかしゃか……」


「みがき残しのないように……ゆっくり……ごしごし……」


「最後は前だね……ちっちゃなおくち、ちょーっとだけ押さえちゃうからね……」


「ごめんね、すぐ終わるからね……」


「上の歯を……ごしごし……下の歯も……しゃかしゃか……」


「ここはちょっと重点的にしなきゃダメだね……ごしごし……しゅっしゅっ……」


「最後に……もういちどここを……」


「……うん!」


「ぴっかぴかで、真っ白な歯がかわいいおくちの完成! です!」


「きゅうくつだったはずなのに、ぜんぜん暴れたり、嫌がったりしなかったねえ」


「がまんができるの、とってもとっても素敵だよ?」


「よくできたごほうびに……たくさんなでなでしてあげるからね~!」


「えらいえらいえらーい! わしゃしゃしゃー! ぎゅーっ!」


「……なーんて。もっともっと、たくさん遊びたいけれど」


「そろそろおねむの時間だもんね。夜更かしはよくないし、寝床に戻ろっか」


「……もう。また私のまくらの上で丸まろうとするんだから。モコくんのベッドはそこじゃあないよ?」


「……ぜんぜん動こうとしないねえ。うーん……」


(はあ、と小さくため息)


「よし、たまにはいいかな」


「それじゃあ、今日は添い寝をしてあげるね!」


「私にとってはまだ早い時間だし、お昼寝の時みたいな失態は犯しません」


「今度こそ……」


「かわいい寝顔、じーっくり、見ちゃうから、ね?」

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