5.飼い主のお悩みを聞くのも、ペットの大事なお仕事です。
「……あっ。もしかして、起きたのかな?」
「ぐっすりすやすや、気持ちよさそうに寝てたもんね。もうすこしで、夜ごはんの時間だよ?」
「ふふ。また、びっくりしたみたいにおめめが開いてるよ? こんなに寝ちゃうなんて……って、そんな表情だね」
「ううん、怒ってないよ~? たくさん眠るのも、大事な大事なお仕事だもんね」
「ぐっすり眠れてよかったね、本当にえらいね~。よしよし、いいこいいこ」
「どうしたの? まただっこ?」
「おねぼうさんなだけじゃなくて、甘えんぼうさんだねえ」
「よいしょ……ほーら、たかいたかーい!」
「言ったでしょう? 今日はモコくん、私の赤ちゃんだって」
「だったら、こんなことをしたら喜ぶかなって」
「もういちど……たかいたかーい! からの、ぎゅー!」
「お顔がニコニコしてるよ? そんな表情をされたら、私だってとろけちゃいそう」
「……そうだ。ふふ……えへへ……」
(右の耳元に声が近づいて)
「……はむっ。はむはむ……かぷかぷ……」
「さっきのお返しだよ~? やめてって言ったのに、耳をかぷかぷしたでしょう~?」
「聞き分けのない子には……こうだー!」
(左の耳元から)
「もぐ……はむはむ……はむ……」
(正面から近づいて)
「今度はおでこを……つんつん、うりうり~!」
「……意外と動じないんだねえ。それどころか、気持ちよさそう?」
「おはなをクンクンさせて、ニコニコ笑顔でこっちを見てて」
「本当に……」
「ほんっとうに、かわいいね! 大好きだよ~!」
「……モコくんになら、こうやって素直に言えるのになあ」
(ひそ、と耳元に声が寄って)
「お昼寝の前に言ったよね? アイツに素直になれないって」
「このままじゃいけないって、私も考えてて……」
「って、別にひそひそ話じゃなくてもいいのか。急に近づいてびっくりしたよね」
「こういう……恋愛相談? コイバナ?」
「なんだか、恥ずかしくって」
「だれも聞いてないのにね。えへへ」
(声が離れる)
「それでね。ひとつ思いついたことがあるんだけど……」
「えっと、いちどベッドに下ろすね」
「それで……私も隣に座って……」
(ギシ、とベッドがきしむ)
「少しだけそこでじっとして、アイツの役をしてもらえないかな?」
「言いたかったのに、言えないでいることを、いろいろ」
「俗に言う……イメージトレーニング、というやつです!」
「モコくんになら、なんでも話せちゃうでしょう?」
「話しやすい相手を、話したい相手だと思ったら、練習になるかなって」
「う、うう~。この姿、絶対にほかの人には見られなくないなあ」
「ないしょ、ないしょだからね。ぜったいにだよ!?」
「モコくんも、いてくれるだけでいいからね。寝ころんだり、眠っちゃったりしてもいいから……」
「……きちんとおすわりして、じーっとこっちを、私を見つめてくれてる……?」
「私の言葉、ちゃんとわかって……?」
「かしこい……天才……?」
「そうまでしてくれてるんだもの、恥ずかしがってちゃだめだよね」
「わたし、がんばるから……!」
(ごほん、とわざとらしい咳払い)
「え、えと……ええと……」
「す……」
「す、き……?」
「ん、んん~!!!」
「アイツの顔、想像してるだけなのに」
「口に出すのが、すごく、恥ずかしい~!!!」
「どうしてだろ、意識してるからかな」
「モコくんがなんだか、アイツに見えてきた気もして……」
「さっきまでは、かわいい、好きって、簡単に言えたのに」
「……で、でも! 練習だもんね! そうじゃなきゃ意味がないもんね!」
「じゃあ……うん……」
(ベッドの上で姿勢を正している、衣擦れのような音)
「一緒にいると、とっても楽しくて、うれしいよ」
「素直になれなくて、あんな態度ばかりの私なのに」
「いつもそばにいてくれるよね?」
「一緒にいると、うれしいって、ありがとうって」
「きちんと伝えたいけど、なんだか恥ずかしいから」
「……だからね」
「他の人には、聞こえないように……」
「体温が伝わっちゃうくらい、心臓の音が聞こえちゃうくらい、私から近づくから……」
(耳元で、ささやくように)
「恥ずかしいんだもん。小さな声で、ごめんね……」
「でも……」
「すき」
「だーいすき」
「ずっと」
「ずーっと、いっしょだよ?」
(ちゅっ)
(声にならないような、恥ずかしそうな息遣い)
(少し声が離れる)
「……わ〜っ!!! だめだー! はずかしいー!!!」
「いま私、キスまでしようとしてたよね!?」
「やりすぎ、それはやりすぎ……!」
「も、もう……! 顔、あっつい……!」
(荒い息遣い)
(だんだんとそれがおさまってきて)
「……でもこれで、少しは素直になれるかな?」
「好きって気持ち、伝えられたら、いいな」
「練習、一緒にしてくれてありがとうね」
「だーいすき」
「ふふふっ」
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