1.願いが通じてしまったのか、次の日起きたら彼女の飼っているポメラニアンになっていた。

(きゃんきゃん! と仔犬じぶんの吠える声)


(ばたばたばた、とあわてた足音が近づいてくる)


(猫なで声が、頭の上のほうから)


「モコく~ん? どうしたの、そんなに暴れちゃって」


「テレビの音にびっくりしちゃった~? それとも、車の走る音かな~?」


「こういうときは……だっこして……」


(抱き上げられ、声が近くなる)


「なでなでしてあげたら、すこしは落ち着くかな……? よしよし、よしよし……」


「だいじょうぶだよ、こわくない、こわくなーい……」


「キミはまだまだ赤ちゃんで、かわいいかわいい仔犬ちゃんなんだから」


「なにも怖がらなくていいんだよ……私が守ってあげるからね……そばにいてあげるからね……」


「ゆっくり、ゆーっくり息をして……」


「すぅー、はぁー、すぅー、はぁーって、深呼吸をしたら、怖いのも落ち着いてくるはずだから……」


「私の、まねをするんだよ……こうして……」


(すぐそばから、呼吸の音が聞こえる)


「いいこだねー、えらいねー、よしよし、よしよし……」


「そうそう、おとなしくして……ちゃんとできてるね……おりこうさんだね……」


「んん? でも、ぎゅーっと抱きついて離れないかあ。こーら、ちょっとだけ痛いよ?」


「今日はパパもママもいないって、わかっちゃってるのかな?」


「家族が近くにいないと、やっぱりなんだか落ち着かない?」


「それなら……」


(さらに声が近づく。ほぼ耳元から)


「今日は私が」


「ずぅっと、こうしていてあげるから」


「抱きしめて、なでなでしてあげるから」


「なにも心配しないでいいよ……大丈夫だよ……よしよし、よしよし……」


「とくんとくん、心臓の音、聞こえるね……」


「とっても安らいで、落ち着いてきて……モコくんも一緒なのかな……?」


「なでなで、とっても気持ちいいね……」


「ふわふわで、なんだかいいにおいもして」


「ちいさなおみみも、まんまるおめめも」


「かわいい……ほんとうに……かわいいね……よしよし、よしよし……」


「ぎゅーっと入ってた力も抜けてきたね……いいこ、いいこ……」


「どこをなでられるのがいいのかな……?」


(右側から)


「ここ、かな……?」


「それとも……」


(左側から)


「こっち……?」


(正面、間近から)


「ふふっ、体がなんだかくったりしてる。ここが気持ちいいんだね」


「それなら……いっぱいなでなでしてあげるからね……」


「……でも、これはちょっとだけ、リラックスしすぎかな?」


「なんだかおめめが、とろーんってしてきてるよ?」


「さっき起きたばかりなのに、もうおねむさんなのかなー?」


「とってもかわいいけれど、寝ぼすけさんはだめなんだよ?」


「もう寝ぼけちゃってるのかな? おはな、ヒクヒク動いてるね。かーわいい」


「……でも、眠たいのならしかたがないかあ。私も二度寝、しちゃうときあるもん」


「それじゃあ、いつもの寝床に……」


(ぱたぱた、とスリッパのような足音)


(しばらく沈黙)


「……やっぱり離れてくれないかあ。うーん、しょうがないなあ」


「それならもう、今日のモコくんはね」


「私の赤ちゃんってことにして……」


「だっこしたまま、私の胸元で眠っちゃおうか?」


「甘やかすなって怒られちゃいそうだけど……だれも見てないから、いいよね?」


「こうやって、ふたりでくっついて」


「たくさん眠って、たくさん食べたら、きっと不安も吹き飛んじゃう」


「だから……起きたらね」


「たくさんお話しして、たくさん遊びましょう?」


「いいんだよ、いまはね……」


「……おやすみ、なさい。よしよし、よしよし……」


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