目が覚めたらツンな彼女の飼い犬になっていたんだけれど、めちゃめちゃ甘やかしてくれてうれしい。

くろばね

0.彼女はいつも人に厳しい。

(カリカリ……とペンの走る音。参考書やノートがめくられる音が周りから聞こえている)


(その音は、すぐ隣からも)


(隣からの音が止まり、はあ、と小さくため息。そのまま小声で)


「図書館では静かに、でしょ。どうしたの?」


「もしかして……飽きたなんて言わないわよね?」


「ここでテスト勉強をするって言ったのはあなたのほうよ? まだ30分も経ってないじゃない」


「休憩なんて、まだ早いわ。だからほら、黙って勉強しなさい」


(またペンの走る音)


「…………ひうぅっ!!!!」


「ばかっ、ペンで、つつくなぁっ! ひゃわ、わき、よわいってしってるくせにっ!!!」


「だまれって言われたから、しゃべってない……!? そういう、ひゃんっ、はなしじゃ、なくてぇ!」


「っっっの、バカ!!!!」


(あたりが静まりかえる。はっ、と息を呑む声が隣から)


「……っ! ちょっとこっち! 来る!」


(ばたばたと足音)


(真正面、すぐそばから声がする)


「あーなーたーねーえ!」


「小学生みたいなイタズラをしないの! ほかの人にも迷惑でしょう!?」


「かまってくれないから……って、うちの犬みたいなことを言わないでくれる?」


「なにを不思議そうな顔をしているの。写真を見せたこと、あったわよね?」


「そうそう、茶色でまんまるなポメラニアンの」


「なついてくれるのはいいんだけど、ちょっとだけやんちゃな子でね」


「まだ仔犬だからかな、遊んで、かまってがすごくって」


「いたずらをして、気を引こうとすることがあるのよ」


「そう……いまのあなたみたいにね」


「え?」


「そんなの、かわいいに決まってるじゃない。たいしたいたずらじゃないし、強く怒ったりなんてしないわ」


「……って、このままペットの話にもっていって、ごまかそうとしていたでしょう?」


「ほら、勉強に戻るわよ。テストだって近いんだし、遊んでいる暇はないんだから」


「……どうしたのよ、急にキョロキョロしちゃって」


「充電したい? コンセントが必要なら、なおさら戻らなきゃ」


「スマホじゃなくて、私を? ぎゅーっと抱きしめたら、がんばれる……?」


「……なるほど」


「言いたいことは理解したわ」


(さらに声が近づく。耳元で、ささやくように)


「ここなら人目もないし……好きなだけいちゃついても大丈夫……」


「抱きしめるだけでいいの……? キスだって、ほっぺたに、それとも……」


「くちびるが、いいの……?」


(ぱっ、と声が離れて)


「……とでも、言うと思った!?」


「そんなの、許すはずがないでしょうが!」


「厳しくなんてしてないじゃない。ふつうよ、ふつう!」


「……聞こえたわよ。厳しすぎる。もう犬になっちゃいたいって、小声だけどそう言ったわよね?」


「犬になれば甘やかしてもらえる、好きなだけかわいがってもらえるって思ってる?」


「残念でした。いくらかわいい仔犬だからって、甘やかしたりなんかしてないんだから!」


「馬鹿なことばかり言ってると、本当に怒るわよ、もう!」

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