8.ウィンド・マスターズ 異色の風使いたち/駿河 晴星
https://kakuyomu.jp/works/16818093081710116787
【私がこの作品を手に取った理由】
ジャンルは現代ファンタジーとなります。現代を舞台とした、精霊などの不思議な要素の入った奇譚を思わせ、一見地味ですが清々しいイメージを持つ風をテーマにした物語がどのようなものなのか、興味を惹かれました。
【私がこの作品から読み取ったあらすじ】
ほぼ作者さんのあらすじどおりに思いますため、引用とします。以下、引用です。
・藍色の目を持つ咲羅の日課は、大桜に宿る精霊と話すこと。ある朝、村が魔物に襲われる。異色の目を持つせいで魔物を呼び寄せた、と村人たちから疑われる咲羅。否定するも、彼らの言葉を裏付けるかのように不思議な力に目覚める。
・戸惑う咲羅の前に、異色の目と髪を持つ男たちが現れる。彼らの正体は、風人という種族だった。力を使い果たした咲羅が次に目を覚ました時、風人の子どもたちが通う風子学園にいた。
・勝手に連れてこられたことに怒る咲羅だったが、同い年の夕希と舞弥に学園を案内してもらい、少しずつ風人の世界に興味が湧いてくる。
・一方、学園長である風牙は、咲羅について調査を進めていた。咲羅が暮らしていた村には、4年前に亡くなった前学園長の《結界》が張られていたのだ。前学園長は何から咲羅を守っていたのか。なぜ学園に連れてこなかったのか。風牙は前学園長の死の真相を探りはじめる。
現時点で公開されている8章の8-2まで読み、以降のレビューはそれを前提としたものとなります。
【私がこの作品に感じた良い点】
作者さんがウリと考えているところと違うかもしれませんが、私がこの作品に一番良いと感じた点は戦闘描写です。特に5章の5-5は緊迫感、強大な敵に対する絶望、それを覆す味方の圧倒的な実力が端的にうまく表現されていました。
戦闘描写って結構難しいところがあると思います。こちらの攻撃、失敗、次は敵の攻撃……みたいに、ただ状況を書いているだけで、冗長でつまらないものになっている作品ってよくあると思います。そういうことで、読者によってはかなり飛ばして読む人も多いと思っています。うだうだやってるなあ、とりあえず結果だけ見せろ、みたいな感じです。
この作品ではそのような印象はあまりありません。主人公の心情をくどくならない程度に絶妙に織り交ぜられているのが良いのかもしれません。短いですが、魅せるエピソードに仕上がっていると思いました。
他にストーリーは王道的で良質なファンタジーらしさを感じるものとなっています。文章としては、人に対する描写は形容詞等を多用しがちで若干のチープさは伴うものの、物や状況に対する描写は細やかで優れていると感じました。
しかし、これは作品全体の中で相対的に良いと感じたことであり、作品自体としてはちょっと手厳しい評価になると感じました。以下、その点について述べさせていただきます。
【私がこの作品に感じた悪い点】
■第1章の出来がいまいち
とにかく詰め込みすぎです。設定がてんこ盛りで出てきて、次々と疑問が降ってわいて、理解ができない状況であっさり場面転換し、学園生活に入ってしまいます。そのほかにも色々な違和感があります。その悪印象に引きずられたまま、物語に没入できず脱落する読者は結構いるのではないかと思いました。
私は正直を申しまして悪印象を持ってしまい、もっと前から読み始めていたのですが、これでは冷静に作品を見ることが出来ないと思い、少し時間を置き2章から読み直しました。ここからであれば、割とすっと入っていけました。その後、1章を読み直し、その原因を整理しました。
・開幕にいきなり精霊が話をしている――それがどういった存在なのかという疑問以前に、精霊が当たり前に存在しているようで、これは果たして現代ものなのかという疑問から出てきます。絵的には綺麗ですが文字しかない媒体ですので、インパクトのある導入というかは最初から飛ばしすぎで、入りにくい導入になっているような気がします。
・記号的な村人が主人公を弾劾する――そもそも「村」という言葉もファンタジー色が強く、現代であれば住人とかそういう言葉を当てると思うのですが、それは置いておき。違和感を持ったのは村人の口調です。ものすごくステレオタイプな、ひと昔前の田舎の偏屈な住人めいた口調になっています。同じ地域に住んでいる主人公や家族がそんな口調であるかというと、そうではありません。モブにもモブの生きてきた人生があり、主人公を弾劾するための舞台装置として生まれたようなキャラクターにリアリティのなさを感じます。
・精霊、化け物に続き、謎の存在が立て続けに現れる――化け物まではまだよいのですが、化け物を狩る謎の存在が複数出てきます。もう名前も覚えられないです。さらに悪いことにかなりのおしゃべりで数々の謎も投下してきます。ちょっと思考停止して、読み流してしまったのが一週目に読んだ時の現実でした。
近況ノートも拝読しております。それによると作者さんはこの作品をライフワークと考えられていて、改稿したものが今作のようです。作品に対する並々ならぬ愛着があるのだと思いますが、それがかえって悪い方向に作用してしまっているのではないかと愚考します。あまりに作者と読者の温度感がありすぎ、もう少し読者に寄り添い、そのギャップを埋めることを考えなければ、最後まで読める作品になるのは厳しいのではないでしょうか。
■ナチュラルに視点がぶれている
この作品は三人称一元視点で主人公の咲羅を主な視点として物語が展開されますが、視点が結構ぶれています。視点のぶれと判断するのに境界が曖昧な言葉もありますが、多くは意図せず使用されていると考えられ、これが作品全体に対してどこか足元のおぼつかない印象を与えています。以下、一例です。主人公視点でなければ分からないと思われる言葉を《》で囲っています。
・咲羅の疲労に《気がついた》舞弥が提案する。
・舞弥は手を叩いて《喜んだ》。
・《落ち込む》夕希の代わりに、舞弥が雲を動かす。
【カクヨムに公式に投稿する場合のレビュー内容】
良いと思う点も多いのですが、第1章の悪印象を覆すものではなく、おすすめ作品と胸を張って言えないため、公式投稿は保留となります。
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※読者様へ このレビューに対して、作者の駿河 晴星様からコメントを寄せていただいております。私からの一方的な意見だけでなく、コメント欄からその内容もご確認いただき、このレビューの正当性をご判断ください。
また、作品の改稿にも取り組まれており、このレビュー内容は改稿前の作品に対するものであることをご承知おきください。
改稿の結果、現在は第1章の悪印象は概ね払拭されており、おすすめ作品と胸を張って言えるようになりました。
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