3.旧市街に救われたアタシの日常/まるま堂本舗
https://kakuyomu.jp/works/16817330660990430576
【私がこの作品を手に取った理由】
ジャンルはSFとなります。タイトルの「旧市街に救われた」、キャッチコピーの「人々はとても暖かい」、三行あらすじの「再開発」というキーワードから、ノスタルジーを感じさせる日常物、人情物であることが連想され、興味を惹かれました。……というのは半分で、もう半分は元々まるま堂本舗さんの別の作品を以前読ませてもらっていて、良作をコンスタントに出される印象があったためです。
エントリーされているのを見て、あっ、まるま堂本舗さんだと思って飛びついてしまいました。そう考えると、石の上にも三年と言いますか作家として実績を積み上げていくのが大事なことなのだと再認識させられます。
【私がこの作品から読み取ったあらすじ】
・主人公のアズキは移民で身寄りがなかったところ、ゲノブ爺に拾われ新市街にあるゲノブガレージという小さな整備工場で住み込みで働いていた。
・寄る年波には勝てずゲノブ爺は亡くなり、そりが合わないながらも兄弟子たちとともにゲノブガレージを引き継いだが、新市街の再開発話に巻き込まれ、立ち退きが必要になってしまう。
・再開発話はアズキを蚊帳の外にして兄弟子たちと役所担当者との間で片付けられ、正式に立ち退くことになった。しかし、立ち退き料の銀行振込画面からその配分が不平等なものであることに気付き、ゲノブ爺のこれまでを否定するかのような使い道も聞いてしまい、兄弟子たちと完全に決別する。
・完全に行き場を失ったアズキであったが、ゲノブ爺から生前に旧市街にある空き家の鍵を受け取っており、それを頼りに旧市街へと生活の場を移す。
・旧市街では色々と出会いがあり、最も重要なのは酒家の娘カヌレとの出会いであった。
・ゲノブ爺から受け継いだ技術で車両整備の仕事を生業として、カヌレとの旧市街での日常が展開されていく。
全85話中、30話まではじっくり、それ以降は最後まで速読気味に読ませていただきました。以降のレビューはそれを前提としたものとなります。
【私がこの作品に感じた良い点】
古いものの良さを知ろうとせず切り捨てる兄弟子たち、古くても良いものは良いというアズキ。新市街、旧市街のそれぞれを象徴するようなキャラクターを最初に対立させることにより、ここから物語の舞台となっていく旧市街の味を際立たせるような開幕になっていると思います。アズキというキャラクターも油の染みついた作業服が似合いそうな、男前な女子であり、魅力ある造形になっていると思いました。
ジャンルはSFではあるものの、味付けのような感じであり、そう専門知識を要求されることもなく、専門知識の連発でぶん殴られることもありません。地の文で設定を多く説明されることなく、会話や状況でごく自然に世界観を説明できているところも良いです。
日常物ということで、派手な展開はあまりないですが、旧市街の人々の温かさにふれ、じわじわとノスタルジーを感じていく、なんともいえない雰囲気の良さがあると思っています。
【私がこの作品に感じた悪い点】
30話までじっくり読んでみての印象は、雰囲気は良いのだけど面白さがあまりよく分からないな、でした。まるま堂本舗さんの話だし、自分が分かっていない何かがあるのかもしれないと思って、最初から読み返してもみました。そうすると細部への解像度が高まったのは確かなのですが、やっぱり面白さがよく分かりません。ならばと思い、時間もあることなので失礼ながら速読気味に最後まで読んでみたのですが、やはり印象は変わりませんでした。
一つ一つの事件など細部は良いと感じるのに、全体を通した時に不思議と感じるこの物足りなさは何なのだろうと私は少し考えました。私は日常物をそう見ることはなく、正しく適切な評価が出来ているなど思いもしませんので、極めて個人的な意見であることをご容赦ください。
それは主人公以外のキャラクターのパワーがないからなのではないかと思いました。一番身近なのは酒家の娘のカヌレなのですが、少々受動的にすぎ、物語進行上のアズキの体の良い話し相手になっている印象がありました。また、この物語の長さのわりに主要人物が少なすぎるようにも思いました。主要人物というのは単なる名前ありキャラクターということではなく、物語に密接に関わるキャラクターのことです。トリックスター的な人物が一人いれば、印象はかなり変わってくるように思いました。それは日常物ではないと言われてしまうかもしれませんが、小説という文字しかない媒体である以上、分かりやすさは必要なのかもしれません。
【カクヨムに公式に投稿する場合のレビュー内容】
・ひとこと紹介
全て失ってなどいなかった。そこに旧市街があったから。
・レビュー本文
旧市街の人々の温かさにふれ、じわじわとノスタルジーを感じていく、なんともいえない雰囲気の良さがあります。ジャンルはSFではあるものの、専門的な事も分かりやすく表現されています。旧市街で知り合った人々と歩んでいく、易しく、そして優しいSFです。
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レビューは以上となります。全く個人の感想なのですが、このレビューを見られた作者さんは【カクヨムに公式に投稿する場合のレビュー内容】を公式に投稿してよいものか、ご意見をいただければ幸いです。ちなみに私がレビューする時の星は必ず★★★です。
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