第12話 幼馴染は色々と大変らしい
「弓弦の方はどうだった? 順調そう?」
放課後。
クラス委員長である
一応、弓弦はお化け役としてのコスプレ衣装を用意する事になっていたのである。
「まあ、それなりにはね」
弓弦は自分の衣装を考えながら、隣を歩く彼女に返事を返す。
「そうなんだ、じゃあ、良かったね。私の方は色々なことがあってねぇ」
春華は大きなため息をついていたのだ。
大きな悩みを抱えていそうな口ぶりだった。
「色々なこと?」
弓弦は彼女を心配するように伺う。
「うん。私のクラスでは、ビールのない居酒屋的な出し物になったんだけどね」
「へえ。なんか。面白そうだね。ビールのないって」
「そう思うじゃない。でもね、居酒屋と言ったら、焼き鳥だとか、おでんの方がいいとかで全然話がまとまらなくてね。派閥が色々あって。それはもう大変で」
確かに居酒屋と言えば一軒家仕様の焼き鳥店や、街中の端の道で露店をかまえておでんやラーメンを販売する人を見かけたことはある。
原作再現をするならば、確かにそれに拘る人がいても無理はないと思う。
弓弦も原作漫画がアニメ化されたら、本当に原作が忠実に再現されているか気になってしまうからだ。
拘りを持つ事も重要なのだが、時には妥協も重要だと思う。
ただ、弓弦は春華のクラスメイトではないため、口を出す事は出来ないものの、春華が抱えている悩みにも共感できてしまう。
「そ、それは大変だね……」
弓弦はそのどちらの事柄にも共感できる事情であり、少々難しい顔を浮かべながらも頷くのだった。
「そうなのよ。弓弦の方は順調でいいね。羨ましいよ」
「そんな事はないよ。役割分担が決まるまでさ、俺のクラスでも口論になったり、色々と殺伐しててさ」
弓弦は簡単な説明をする。
「そんなに? それでどうだったの?」
「一応は解決したけど」
「なら、いいんじゃない? 私の方はまた明日もなんかありそう。意見の食い違いで。まあ、準備期間は二週間あるし、せめて明日までに方向性が決まればいいんだけどねぇ」
二人は他愛のない話で盛り上がりを見せながら、自宅へと繋がっている道を歩き続けるのだった。
「そう言えばなんだけど。弓弦は文化祭当日ってなんか予定ある?」
さっきまで難しい顔をしていた春華は、弓弦と会話した事もあってか、今では爽やかな表情をしていた。
どんなに嫌なことがあっても親しい人と一緒にいたり、自分の気持ちを素直に話す事でリラックス出来たりするのだ。
「予定は今のところはないけど……」
「じゃあ、一緒に回って歩かない?」
「え、まあ、別にいいけど」
歩きながら弓弦は少し考え込む。
千歳の存在が脳裏をよぎり、やはり、一緒に学校内を歩けるかはわからない。
「まあ、でも、二週間後だし。どうなるかわからないしな」
弓弦は曖昧な口調になってしまう。
「えー、でもさ、今は予定がないんでしょ? だったら、私、事前予約したいんだけど」
「事前予約⁉」
でも、どうしよ。
千歳とダブルブッキングしたら危ういしな……。
んー、遊ぶくらいなら問題はないか。
千歳には、春華とは幼馴染だと伝えれば何とかなるよな、多分……。
ちょっとした不安がよぎるが、昔からの友達と一緒にいるだけで怒るほど千歳は心が狭くはないと思う。
「う、うん、いいよ。でも、持ち場に戻らないといけない時もあるから。一日中入れるわけではないと思うけどね」
「それは承知してるし。私も当日ずっと料理担当になるかもしれないし。でも、二日あるんだし、どっちかの日は何とかなるでしょ」
春華から吹っ切れた口調で言われ、その後で弓弦に対して目で愛嬌よく合図してくるのだ。
「じゃあ、そういうことで。よろしくね、弓弦ッ」
そして今、春華との事前予約の契約を終わらせたのである。
「後なんだけど。弓弦が今から暇があるならさ。私の家に寄って行く?」
この場所からまっすぐ進んだ先に春華の家がある。
学校から春華の家は弓弦と比べると近いのだ。
近いと言っても一分くらいの差しかないのだが――
「私さ、ちょっと二人でしたい事があってさ」
彼女は意味深にも頬を紅潮させていた。
「したいこと……?」
ま、まさか――
刹那、弓弦の脳裏によからぬ事がよぎるのだ。
「もしかして、弓弦ー、変なこと考えてた?」
春華からニヤニヤした笑みを向けられていた。
「そ、そんな事はないじゃないか」
弓弦は慌てて誤解と解こうとする。
この前の放課後。デパートの下着エリアにて、幼馴染の下着をエッチな視点で見てしまった事で、近頃変な妄想をするようになっていた。
春華の今の話し方を察するに、多分、エッチなお誘いではないと思われる。
「なんていうか。隠さずに本当のことを言うとね。さっきさ、私のクラスでは居酒屋をやる事になったって言ったじゃない」
「そうだね」
弓弦は相槌をつく。
「それで、おでんとか焼き鳥。どっちになってもいいように、今から作りたいの。弓弦も手伝ってくれない?」
「春華は料理が得意なはずだよね」
「そうなんだけどさ。私、おでんとか焼き鳥は範囲外なの。初心者みたいなものだし」
「そうなんだ、意外だね。そういう事なら、わかったよ。でも、俺は何をすればいい?」
「私の助手的な感じに手伝ってくれればいいわ」
弓弦は彼女から導かれるように、住宅街近くのスーパーへと向かう事となったのである。
「えっと、これを買った方がお得よね」
住宅街近くのスーパーの店内にいる二人。
買い物かごを持っている弓弦は、隣にいる彼女の手元を見やる。
それはおでんセットと記された商品だった。
「そうだね、それがいいかも」
「じゃあ、これ買うね」
彼女は弓弦が持っている買い物カゴに入れる。
「あとは、焼き鳥ね。焼き鳥も串付きの商品があったはずよね」
春華と共に店内を歩きまくる。
最後は、幼馴染の家に行く前の定番であるお菓子コーナーとジュースコーナーを回り、チョコパックセットとポテチ。それから二ℓ仕様のペットボトルをカゴに入れ、レジへと向かって行くのだった。
クラスメイトの隠れ美少女の七海さんが、俺の事が好きらしい⁉ 譲羽唯月 @UitukiSiranui
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