第11話 今日の教室は殺伐としている⁉
休日を終え、
月曜日の午後の時間帯。
クラスの皆と一緒にいる教室にて、多少なり不満な声が増えつつあった。
賛否用論ある意見が交差しており、席に座る弓弦もその話を聞いていて少しだけ納得できるところはあった。
本来であれば、先週皆で話し合い、その結果として文化祭の出し物はメイド喫茶になる予定だったからだ。
メイド服を着る事を楽しみにしていた子もいて、ショックを受けている様子だった。
「ごめんなさい――……私の失態でこのような事態になってしまって」
壇上前に立つクラス委員長の
その行為に納得する人もいれば、拒否を示す人もいた。
「メイド喫茶じゃなくなった件さ。それ、元はと言えば七海さんが原因なんだよね。ちゃんとしてればさ、他のクラスとの議論で負けなかったんじゃないの?」
比較的後ろの席に座っている、とあるクラスメイトの女の子が強気な口調で意見を口にしていた。
その子はクラスの中でも面倒な性格をしており、仕方なくその子の意見に従っている人もチラホラといる感じだ。
「でも、しょうがないだろ。決まってしまった事はさ」
全員が千歳の失態に否定的ではなく、しっかりと彼女の立場を理解してくれる人もいたのである。
そう言えば……。
と、弓弦は一人で記憶を脳内再生していた。
この前の土日。千歳が弓弦に連絡してこなかったのは、会議に遅れて失敗してしまい、その影響で元気を出せなかったからだろう。
弓弦は、もう少し千歳に寄り添ったメールでも送ればよかったと今になって後悔していたのだ。
千歳は先週の金曜日の放課後。大切な文化祭の資料を無くしてしまったのである。
一応見つけはしたものの、それも相まって会議に遅れてしまったのだ。
それが各学年による出し物ドラフトで不利に働いてしまったのだろう。
「というか、七海さん。どうして、私たちの文化祭の出し物がお化け屋敷なの? そういうところ、説明してほしいんだけど。ちゃんと詳しくね。はい、早く」
納得していない一部の過激派の女子生徒から攻めまくられていたのだ。
教室内が、殺伐とした雰囲気に覆われていくかのようだった。
「それは私の責任で……」
「だから、それを具体的に説明してほしいんだけど!」
完璧な委員長であっても、時には失敗することもある。
なんでもそつなくこなせる万能な人なんて存在しないのだ。
壇上前に佇む千歳は悲し気な顔を見せ、一人のクラスメイトとして席に座っている弓弦は心が握りつぶされるように苦しくなっていた。
このまま、ただの傍観者として見守っているだけでもいいのだろうか。
弓弦は険しいオーラを放っている現環境に身を投じてもいいのか、冷や汗をかきながら悩んでいたのだ。
今まさに彼女がピンチなのである。
むしろ、こんな時だからこそ、やらなければならないのだと思う。
弓弦は緊張した手を震わせ、席から立ち上がる。
「あ、あのさ。俺が言うのもなんか違うかもしれないけど……七海さんだって本当はメイド喫茶にしようとしていたはずだよ。でも、それが無理だったというわけで」
「だからさ、それがなんでってこと。詳しく説明してほしいんだけど!」
そのクラスメイトの口調が強くなり、弓弦は怯えるように席に座る。
座った後も、その子から睨まれていたのだ。
けれども、弓弦の勇気ある行動がまったく意味がなかったわけじゃない。
「というか、お前さ。普段は何もしてないんだし。委員長に対してさ、ごちゃごちゃ言うなよ」
「委員長だって必死に頑張ってるんだよ。どんなに頑張っていても、できない時だってあるし。そんな時は皆で協力しないと」
「私も、いつもあんたの自慢話ばかり聞いてて疲れるし」
弓弦の発言があってから風向きが変わりつつあった。
皆、弓弦と似た考えを持っているらしい。
先週の金曜日。無くしてしまった資料を一緒に探してくれていた女の子までも同調してくれていたのだ。
ただ、最後の人の指摘は、その人なりの不満だと思う。
それはともかくとして、その反発していた子は攻撃の行き場所を失い、つまらなそうな顔をしながら、しぶしぶと席に座り直していたのだ。
「まあ、そういうことでさ。俺は委員長の味方だから。まあ、お化け屋敷であっても、俺らでアレンジしてやれば乗り越えられるさ」
最終的には、クラスの陽キャみたいな男子生徒が、この場を鎮静化させていたのである。
「では、お化け屋敷という事でよろしいでしょうか」
少しだけ元気を取り戻した千歳が皆に問う。
「いいよ」
「やるからには全力でやらないとね」
「俺らは来年も文化祭はあるし。まあ、来年もこのクラスメイトと一緒かはわからないけどさ」
クラスの士気も高まって行く。
委員長の千歳は終始ショックそうな顔を見せていたのだが、クラスメイトらの優しさにより、パアァと明るくなりつつあったのだ。
「で、では、早速、役割を決めましょうか。今週と来週は文化祭の準備シーズンになると思いますので」
千歳は黒板の方を振り向くなり、チョークで役割名を書き出していく。
お化け屋敷をメインとした場合、道具を持ってくる人。設備を作る人。それから、衣装や売り上げについて考える人も必要なのである。
「私、衣装を作りたい」
「俺は、家の近くにお化け屋敷に詳しい人がいるから、その人に話を聞いてみるよ」
「えっとさ、ただのお化け屋敷には興味はないし。俺らなりのアレンジをしようよ」
殺伐としていた教室内はいつの間にか、明るい雰囲気を取り戻しつつあったのだ。
チョークを手にしていた手を一度止め、壇上前で周りを見渡していた千歳と、席に座っていた弓弦は丁度視線が重なる。
でも、二人はさりげなく視線を逸らす。
互いに、心のどこかでは恥じらいがあったのだ。
ただ、千歳は内心、勇気を持って発言してくれていた弓弦には感謝していたのであった。
口元だけは“ありがとう”と軽く動かしていたが、その意思表示は弓弦や他の人らにも伝わっていなかったのである。
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