第10話 私の選んでほしいんだけど…どうかな?
「今度は何をする?」
先ほど食事したファミレスを出たあたりで、
そこまでお腹を満たす予定ではなかったものの、やはり、メニュー表を見たり、周囲の料理の匂いにつられ、ついつい頼んでしまっていたのだ。
「俺は、元からデパートのファミレスに寄ろうと思っていたから。それ以外は全然決めていなかったけど」
弓弦は満足気に言う。
「そうなの? じゃあ、どうしようかなぁ」
愛唯は腕組をして悩んでいた。
「相原さんは行きたいところがあって、デパートまで来たんじゃないの?」
弓弦は問いかけるのだが――
「私、ファミレスに来たかっただけだから」
「じゃあ、俺と同じか……あ、そう言えば、春華はどこかに行きたいところあるって言っていなかった?」
「まあ、そうね」
近くにいた
春華が、どこに行きたいかについては秘密であり、朝から弓弦も全然知らない状況ではある。
「どこに行きたいんですか? 橘さんは」
「じゃあ、ついて来て」
春華は多くを語る事無く背を向けると、エスカレーターがある場所まで向かって行く。
二人も、彼女の後を追うようについて行く事にしたのだ。
「ここなんだけどね」
「え? ここ、か……」
弓弦はついて行ったフロアを見て、少し後ずさる。
そのエリアには女性が多く、いわゆる女性用の下着売り場だったからだ。
チラッと数人の女性から視線を向けられ、気恥ずかしい気持ちの方が勝ってしまい、足がすくんでいた。
お、俺……ここに入ってもいいのか?
人生で一度も女性下着コーナーに足を踏み入れた事無く、新境地みたいな場所に感じる。
すでにその場所からでも、数メートル先には女性用のブラジャーなどがハンバーにかけられ、綺麗に並べられてあった。
「私ね、下着を購入するっていうのが恥ずかしくて。朝は言い出せなかったの」
「そ、そういうことか」
異性に対し、あまり堂々と言う事ではなく、話す事に躊躇ってしまうのもわかる。
幼馴染とは昔からの付き合いであり、そこまで彼女の下着について考えた事はなかったのだが、やはり、意識してしまうと胸元が熱くなっていく。
「弓弦は、選んでくれる? 下着とか」
「え⁉ お、俺が選ぶ、っていうか、ここに入るの⁉」
「そうだよ。いいじゃん、久しぶりにデパートに来たんだし。本当は恥ずかしいけど、一応、弓弦からの感想も欲しいし……」
しまいには頬を薄っすらと赤く染める春華からついてくるように言われたのである。
普段とは違う幼馴染の姿に、胸の鼓動が早くなるのだ。
「そういう事なら行きましょうか、竹田さん!」
突如として、背後にいる愛唯から背を押され、下着エリアに足を踏み込む事になったのである。
「……⁉」
刹那、背後にいる愛唯は突然声を押し殺し、弓弦の背を押していた手をすぐに離す。
彼女の元に電話がかかってきたらしく、制服から取り出したスマホを片手に、その場から離れながら通話し始めていたのだ。
「……うん、わかった。今から帰るから、うん……帰る途中にあるスーパーで。うん、それとこれね。じゃあ、すぐに帰るから――」
下着エリアから少し離れた通路端のところに佇む愛唯は通話を終わらせたらしく、弓弦が近づいて行った時には暗い表情を見せながら少々俯いた顔つきをしていたのだ。
どうしたんだろ。
「ごめんね、ちょっと用事が急に用事が出来たみたいで。私、帰らないと」
愛唯はスマホを急いで制服のポケットにしまう。
「そうなの? じゃあ、しょうがないね」
「あの、また時間があったら、一緒に遊んでくれる?」
愛唯から上目遣い的な目線を向けられ、流されるままに弓弦は首を縦に動かした。
何か訳ありなのか?
「私、そろそろ行くから。またね、橘さんも」
「事情があるなら仕方ないわね」
さっきまで見せていた明るい表情ではなく、何かに怯えているような、そんな印象を愛唯から感じてしまっていたのだ。
弓弦と千歳は、そのエリアから立ち去って行く彼女の後ろ姿を眺めて見送っていた。
「これなんか、どうかな?」
愛唯が帰り、二人きりになり。
今、弓弦の視界先の試着室のカーテンが全開し、そこには上半身だけ下着姿の春華が佇んでいた。
スタイルが良く、いつもの制服姿とは異なり、より一層美少女に見える。
幼馴染の彼女の事を、エッチな目線で見てしまい、サッと視線を逸らしてしまうのだ。
「い、いいんじゃないかな。というか、その恰好、俺に見せてもいいの?」
幼馴染の下着姿を間近で見、逆に恥ずかしさで弓弦の頬も赤く染まる。
チラチラと彼女の姿を見て、カタコトみたいな感じに返答していた。
「べ、別にいいじゃん。下着を選ぶなら見せないといけないし。それにさ、弓弦になら別に見せてもいいと思ってるから。だから、ここまで来てもらったんだしさ。み、見たいなら、もっと見てもいいからね」
春華も緊張しているらしい。
もじもじとした口調で弓弦からの感想をさらに聞き出そうと見つめてきているのだ。
「こ、このブラジャーとか見てさ、な、何か思わないの?」
「え、い、いや……な、なにも……」
幼馴染の下着をじっくりと観察したことなどなく、真剣に向き合おうとすると、不思議と心臓の鼓動が加速していく。
ピンク色のブラジャーの下着がかなり似合っている。
谷間もあり、
だが、正直に感じている、今の感情や、それに関する感想を口に出す事に、途轍もないほどに緊張を感じていた。
「えー、そう? 何も思わないとか、そんなことないじゃない。だってさ、弓弦って、さっきから鼻の下を伸ばしてるし」
「え? そ、それはないっていうか」
弓弦は口元を右手で隠すが、彼女から笑われてしまっていた。
「昔からの付き合いなんだし、そんなことくらいわかるから。誤魔化しても意味ないからね」
「……に、似合ってるよ、それでいいと思うから……そろそろカーテンを閉めるからな」
弓弦は彼女の方へ視線を向けることなく、サッとカーテンで試着室の入り口部分を覆ったのだ。
こ、こんなの緊張し、絶対に反応に困るに決まってんだろ……。
カーテンを閉めた後でも、弓弦の胸の鼓動が高鳴り、さらに熱くなったままだった。
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