第7話 あの子って、結構エロいみたいよ

「おはよ、弓弦ッ!」


 玄関から外に出ると、丁度、幼馴染の橘春華たちばな/しゅんかと出会う。

 すでに待っていたのかと思うほどに行動が早かったのだ。


 昨日の夜は春華の家で夕食を取り、その後、竹田弓弦たけだ/ゆづるは自宅に帰っていたのである。


「一緒に学校に行こうよ、ほら、早くね」

「ああ、ちょっと待ってくれ」


 弓弦は靴をちゃんと履き、自宅の扉に鍵をかけた後で、春華と横に並んだまま住宅街の道を歩いていく。


 その道をまっすぐ歩いて行ったところに、いつもの学校がある。

 自宅からは二〇分ほどかかるものの、バスで移動するほどの距離でもない。


 幼馴染と一緒に、外の空気を感じたりしながら通学するのも良いものだと思う。


 中学を卒業する頃までは普通だったが、高校生になった今では、春華とこうして登校するのも珍しく感じる。


「そう言えば、金曜日って今日だよね」

「そうだね。もしかして知らなかった?」

「そ、そんなわけないじゃない。確認のために聞いただけよ。弓弦の方は、予定通り今日の放課後に遊ぶってことでOK?」

「約束通りOKだけど」

「というか、弓弦と一緒に過ごす機会ってこの頃なかったし、楽しみなんだけど。弓弦は私としたい事ってある? あるなら、弓弦の方を優先するけど」


 春華から急に距離を詰められる。

 彼女の体が左腕に接触し、ふと昨日の事を思い出してしまう。


 昔とは違い、彼女も成長しているのだ。

 以前と同様なスキンシップを取られると、変に意識してしまうのも無理なかった。


「じゃ、じゃあさ、どこかの飲食店にでも入る?」


 弓弦はふと思いついた発言をする。


「飲食店ね、それもいいかも!」


 彼女は弓弦の体にくっ付いたまま歩き、快く頷いていた。


「逆に、春華が行きたいところってあるの?」

「私はね、どうしようっかな。色々と行きたいところがあるんだけど。金曜日の夜って混んだりするかもしれないし」


 春華は悩み込んでいた。


「だったら、移動範囲が狭い方がいいよね。人が多いと移動時間もかかっちゃうし。そうだ、デパートにしない? デパートなら飲食店もあるし。そこで全部出来ちゃうからね」


 彼女は閃いた感じの表情で言う。


「それもありだな」

「街中の公園近くのデパートなんかはおススメかも。色々なモノが揃ってるしね」


 公園近くのデパートまでは学校からだと結構距離がある。

 バス移動が必須になるかもしれない。

 けれども、色々な場所に移動して遊ぶよりも、多種多様な商品を扱っている大きな店に直行した方がいいかもしれない。


「それで、春華は何を買うつもりなの?」

「それは内緒。行ってから教えるから」


 春華は意味深な感じに言葉を濁し、笑みを見せていた。


「はッ、そうだった。私、早く学校に行かないといけない用事があるんだった!」

「そうなの? じゃあ、急がないと」

「だよね。ごめんね、また放課後ねッ!」


 彼女は元気よく手を振りながら、その場を後にしていく。


 弓弦はいつも通りといった感じに、一人で学校へ繋がっている道を歩んでいくのだった。




 やっと、午前中の授業を終えた頃だった。

 委員長である彼女は授業が終わってもやる事があるらしく、席に座ったまま一人で難しい顔を見せながら、机に置かれた用紙と睨めっこしていた。


 今日は一人で昼食するしかないってことか。

 七海千歳ななみ/ちとせと昼休みを過ごしたいと思う反面、彼女は委員長ゆえ忙しいのだ。


 別クラスの春華も今日はやることがあるらしくどうしても時間を取れないのである。


 仕方ないかと思いながら、教室を後にして何となく廊下を歩く。

 校舎一階の購買部に向かおうとしていると――


「君、暇なら一緒に食堂に行かない?」

「……へ?」


 聞き覚えのある声だと思って振り返ってみると、そこには相原愛唯あいはら/あいなが堂々とした立ち姿で佇んでいたのだ。


「この前した、私のアドバイスはどう? 役に立った?」


 愛唯は弓弦の隣までやってくる。


「良かったよ。ありがと、助かったよ」

「そう。それなら良かったわ。それで、あなたが暇なら今日も一緒に食事しない?」

「いいけど。相原さんは用事とかってないの?」

「私は全然。特に何もないわ」

「そうなんだ、だったら問題ないか。他の人は文化祭関係で忙しいって聞いていたから」

「文化祭ねぇ、私は文化祭の担当でもないし。完全フリーって感じ。ハッキリとした役割分担をされたら忙しくなるかもね。それまでは時間を取れると思うよ。まあ、そんな事より食堂へ行こ。早くしないと売り切れるかも」


 弓弦は彼女から導かれるように学校の食堂へ向かう事となったのである。




「そうなのよね、ここだけど話ね。あの子って、エッチなことが好きなの」

「そ、そうなのか?」

「そうそう、かなりエッチなことが好きみたい」


 学校の食堂にいると、弓弦はテーブルを挟み向き合っている愛唯から他の人に聞こえない程度の声で、こっそりとアドバイスを受けていた。

 ただ、エッチなことが好きだとは聞いた事はなかった。


 二人はパスタを注文して食べている最中。

 弓弦は一度、手にしているフォークをテーブルに置く。


 そうなのかなと疑問に思いながらも、以前の事を振り返ってみる。

 漫画喫茶に入った時、彼女はエッチな要素のある男性向けの漫画が好きだと言っていた。


 それはあながち嘘ではないような気がする。


 アニメのコスプレも好きだと言っていたほどなのだ。

 もしかすると、そういった如何わしい事は好きだけど、ハッキリとは言わないタイプの子かもしれない。

 いわゆる、ムッツリ的な感じで恥じらいを持っているのだろう。


 いや、でも……漫画喫茶の個室でブラジャーだけの姿になっていたし、本当はエロいのかもな。


 確かに、エッチでかつエロいかもしれない。


 弓弦は何度も考え込む過程で、そのような結論に辿り着いていた。


「だからね、あの子にコスプレをしてほしいって頼んだらすぐに着てくれるかもよ」


 愛唯はパスタを咀嚼した後、弓弦の近くで再びこっそりとアドバイスをしていた。


 実のところ、千歳のコスプレ姿を生で見てみたいという思いはある。


「まあ、時間があったらな。でも、七海さんが嫌がるなら俺はしないさ」

「そんなこと言って、本当は見たいんじゃないの?」

「そ、そんな事はないから……」


 弓弦は否定するように言うが、愛唯の方はやってみた方がいいよと何度も進めてきたのである。


 本当は見てみたいという願望はあり、後でお願いしてみようと心の中で思うのだった。

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