第6話 俺の幼馴染は料理が得意らしい

 七海千歳ななみ/ちとせとは街中の本屋前で別れ、今はいつも通りの住宅街の歩道のところを歩いていた。

 あと数分ほどで自宅に到着する距離感であり、周りの電灯に照らされた道を淡々と移動している。


 すると、曲がり角のところで人影が現れ、竹田弓弦たけだ/ゆづるは一瞬立ち止まろうとするが、その正体が幼馴染の橘春華たちばな/しゅんかだった事がわかると、ホッと胸を撫で下ろす。


「奇遇だね、弓弦も帰りなの?」

「そ、そうなんだよ」

「でも、学校から帰ってくるには結構遅くない? 居残りとか?」

「そ、そうだね。そんな感じ」

「弓弦も大変そうだねぇ」


 春華が弓弦の事を見ると、そのまま先を歩き出そうとする。

 弓弦は彼女の隣まで移動し、一緒に横に並んで歩く。


「買い物袋を持ってるって事は、春華はスーパーの帰りってこと?」

「そうだよ。私、今日は夕食を作ることになってるからね。自由に作るなら材料も自分好みのを買ってこないと」

「自由に作るって? 両親はそれでいいって言ってるの?」

「え? 両親は今日ね、帰ってこないんだよね。だから、自由ってこと」

「へえ、そうか」

「そう言えば、弓弦は一人の時って料理とかしてたっけ?」

「そういや、してないかも」

「高校生にもなってるんだし、自炊くらいはできないとね」

「そ、そうだよな」


 高校生と言えども、成人に近い年齢なのだ。

 ある程度は一人で出来る事を増やしていった方がいいに決まっている。


「そう言えば、何を作る予定なの?」

「それは秘密。私の家に立ち寄ってくれるなら、後で教えるけどね。どうする? 私の家に来る?」

「んー、時間的にも問題はないし、行こうかな」


 制服から取り出したスマホ画面に表示されている時計を確認してから言った。




 弓弦は幼馴染である春華の家にお邪魔する形となっていた。

 彼女との家は、自宅からすぐであり、行き来しようと思えば簡単に出来てしまうのだ。


「はい、入って」


 春華から家に入るように促され、弓弦は玄関に入る。

 そこで靴を脱いで家に上がる事となったのだ。


 幼馴染の家は昔と比べてそこまで変化はないが、変わらない雰囲気が逆によく感じるものだ。


 弓弦は春華に導かれるようにリビングへと向かう。


「弓弦はそこのソファで待ってて。今から作るから」


 一言だけ話すと、彼女は買い物袋を持ったままリビング隣のキッチンへと向かって行ったのだ。


 どんな料理が出来るのか期待しながら、弓弦はソファに座ったまま待つ。

 春華は昔から料理が得意な子であり、学校の調理の時間も先生から評価されるレベルなのだ。


 学校内では、時間の都合上本格的な料理は出来ないものの、今は比較的に自由に時間を使えるからこそ、どんな夕食になるか、楽しみでしょうがなかった。


 春華が料理を初めてから三〇分ほどが経過した頃合いだった。

 意外と早くに出来上がったようで、どんなモノが出来てくるのかワクワクしていると、ソファ前のテーブルに置かれたのは、サンドウィッチだった。


 三角形に切られたパン同士の間にはタマゴやレタスなど。シーチキンや果物が入っている仕様もあった。


「……夕食だよね?」

「そうだよ」

「春華って、普段から夕食にサンドウィッチって食べてるの?」

「んん、違うよ、今日は私一人の予定だったから、サンドウィッチでもいいかなって」

「じゃあ、特別ってことか」

「そうなるね。でも、ほら、美味しいと思うし、食べてみてよ」


 彼女から食べるように勧められるのだった。


「んッ、普通に美味しいな」

「そうでしょ、私の自信作なんだよねー、私さ、この頃パン系の料理やお菓子作りに嵌ってて。それで今日はサンドウィッチってこと。問題なく食べられるでしょ?」

「普通に市販で売ってるのよりも美味しいし、野菜にも新鮮さがあるっていうか」

「まあ、そこは拘りがあるからね」


 隣のソファに座っている彼女はどや顔で言っていた。


 春華的にも十二分に満足できる形で仕上がったらしく、ガッツポーズを決めていた。


「私、他にも色々と作ってるんだけど。そういや、昨日の残りのパンがあったりするけど食べる?」

「いいよ、遠慮しておく。こんなに食べたら、お腹いっぱいになるし。それは今度ね」

「今度って、その時には別のパン類のお菓子とか作ってると思うけどね。まあ、別のでもよければ、その時にまた作るね」

「うん、そうしてくれると嬉しいよ」

「それで、今度はいつ遊べる? この前、忙しいって言ってたけど。それについてはどうなったの?」


 多分、委員長から言われた頼み事に関する話だと思う。

 それに関しては、委員長が抱えている業務量にもより、断定的に答えられる事ではなかった。


 でも、確実なのは、休日の日である。

 学校がない日ならば、自由に時間も取れて、春華とだって昔のように普通に遊べると思う。


「じゃあ、今度の休みの日なら大丈夫だと思うよ」

「ほんと! じゃあ、どうしようかな。ちょっと待ってて」


 彼女はスマホを片手にスケジュールを確認し始めるのだった。


「多分……んー、この日は難しいかも。でも……」


 右隣にいる春華はスマホを片手に唸り声を出している。

 難しい顔を見せ、非常に悩んでいるようだった。


「そんなに予定が難しいとか?」

「えっとね、そういうわけじゃないんだけどね……来週から文化祭の準備が始まるじゃない」

「そうだね、確かに」

「それで、なんていうか。まだ出し物とかもハッキリとしてないんだけど。私が料理担当になりそうで、他の子にも教えないといけないかもって」

「じゃあ、難しい?」

「んー、でも、今週中の金曜日なら大丈夫そうかなって。休日じゃないけど。その日なら、良さそうかなって」


 春華とはクラスも違い、ゆえに文化祭の準備に関するスケジュールも異なっているのだ。

 予定を合わせづらいのはしょうがないと思う。


「金曜日ってことなら大丈夫ってこと?」

「そうなるね。いい? その日でも」


 多分、問題はないはずだ。

 ただ、委員長である千歳から特に要望が無ければというのが条件になるのだが、多分、大丈夫だと思いたい。


 今週中やるべき事は終わったと千歳は言っていた。

 春華と遊ぶ約束をしても支障は出ないと思う。


「……わかった。その日で」

「ありがと。久しぶりだよね、弓弦と遊ぶの」


 春華は嬉しそうな表情を見せている。


 そんな彼女が急に弓弦の方に近づいて来て、今まさに弓弦の右腕には彼女の胸元が当たっていたのだ。


 昔と比べ、成長しているのだと、その時実感するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る