第2話 真面目な彼女には、とある秘密が⁉

「竹田君は私のことをどう思っているかはわからないけど。でも、受け入れてくれるなら」


 夕暮れ時の今、七海千歳ななみ/ちとせは恥ずかし気な笑顔を見せていた。


 あまり彼女の素顔を見た事が無く、逆に新鮮である。


「俺……七海さんが告白してくるとは思ってなくて。でも、何か、嬉しいというか。いいよ、俺、誘ってくれたのなら、付き合ってみたいというか」


 ハッキリとした感情を言い表せられるわけではないが、心から湧き上がる嬉しい想いは確かだった。


「でも、これから色々な事をして行けば、私のこともわかってくると思うし。最初はそんなに悩まなくてもいいよ」


 千歳は手を差し伸べてきた。

 弓弦は流されるがままに彼女の手を掴む。


「竹田君は、これから行きたい場所ってある?」

「これから? えっと……七海さんが寄りたいところがあるなら、俺の方が合わせるけど」

「じゃあ……どこにしよっかな」


 彼女の方も全然決めていなかったらしく、照れ笑いでその場しのぎをしている感じだった。


「まあ、一先ず街中に行こう。そ、それと、手を離そっか」

「う、うん、そうだね」


 千歳もずっと手を繋いでいる事に恥ずかしさを感じ始めたらしい。

 互いに手を離す。

 少しの間でも手を繋いでいた事も相まって、気恥ずかしい感情が込みあがり、互いに無言になってしまう。


 千歳が頬を紅潮させたまま上目遣いで竹田弓弦たけだ/ゆづるの事を見た後、一緒に行こうと一言だけ告げてきたのである。


 弓弦は彼女と共に、今いる通学路から街中に繋がっている道を進んでいくのだった。




 街中に到着した頃には、アーケード街の空の景色は暗くなっており、雲の形も見えなくなっていた。

 目の前に広がる景色は、店屋の明かりで照れされている。


 学校帰りや会社帰りの人らを多く見かけることが多く、二人は人の合間を移動しながらも、特にどこへ行くかという目星のないまま歩んでいたのだ。


「竹田君って、趣味とかはある?」


 隣を歩いている彼女から問われる。


「趣味か。今のところは漫画を読む事くらいかな」

「漫画? そうなんだ、実は私も漫画が好きで」

「そ、そうなの?」

「うん。意外だった?」

「そうだね、雰囲気的にそうは見えなかったから」


 真面目な委員長も漫画を読むんだと、少々驚いていた。

 漫画というよりも、文学的な小説などを読むものだと思い込んでいたからだ。


「ちなみにどういう風な漫画を読んでいるの?」

「私は、少年誌系の漫画とか」


 千歳は笑顔で答えてくれた。


「そうなの? てっきり、少女系の漫画かと」

「少女漫画とかも見たりするんだけど、私は少年誌系の方が好きかも。竹田君はどんな漫画を読んでいるの?」

「月刊系の少年誌なんだけど。その雑誌で連載されている青春系の漫画があって」

「もしかして、あの作品かな? 教室で隣同士の主人公とヒロインが会話したりする系の漫画。私も、その漫画好きなんだよね」


 千歳の口調が少し早くなった気がする。


「そうそう、七海さんも知ってるの?」

「知ってるよ。私も好きな漫画で。でも、学校だとそういう話題で盛り上がれる人がいなくて。まあ、私が普段から真面目そうに見えるからだと思うんだけどね」


 素直になんでも話したい。

 でも、同じ趣味を共有できる人がいないからこそ、自分の想いを晒す事が出来ない。

 そんな気持ちは、弓弦も共感できるところがあった。


 弓弦は彼女が何について悩んでいるのか、何となくわかった気がした。


 一緒に会話を楽しみながら、アーケード街の道に沿って歩いていると、丁度漫画喫茶の看板が視界に入る。


「ねえ、寄っていく? 多分、最新刊の漫画もあると思うから」

「ここでいいの?」

「うん」


 千歳は頷いてくれる。


 女の子と密室に近い場所に入る事に少々困惑していたが、初めてできた彼女の誘いを断る事が出来ず、流されるがままに漫画喫茶に入る事を決意したのだ。


 漫画喫茶は建物の二階部分であり、外の階段を上って、その場所の入り口まで向かう。


 店内に踏み入ると、照明のつけ方が暗く怪しい雰囲気を醸し出しているようだった。

 店内に流れているBGMも大人びている感じで、なおさら学生が入店してもいいのか迷う。


「あっちの方が受付みたいよ」


 千歳と共に、弓弦は受付カウンターでプランを確認し、一時間ほど利用する事にしたのである。


 店員の話によれば、学生が利用しても問題はないと言っていた。


 この漫画喫茶店は、深夜プランもあるらしく、その都合もあって店内を暗くしているらしい。


 二人は目的となる個室へと向かい、扉を開け、室内に設置されたソファに横に並んで座る。


「ここの漫画喫茶って、ネットからでも見れるって」


 千歳は目の前のテーブルに設置されたパソコンを操作し、さっき外で話していた漫画のページを開いてくれていた。


「でも、この漫画ってちょっと過激なキャラが登場するよね」

「確かに、そうかもね。七海さんもこういキャラが好きだから読んでるの?」

「い、一応ね。私、こういう展開には抵抗があるというか。ちょっと、そのキャラの事を意識してしまうというか、共感が出来るというか。まあ、話の流れ自体が好きだから読んでしまうっていうかね」


 千歳は戸惑った口調になりながら、頬を紅潮させていた。


「竹田君は、この漫画に登場する、このキャラとか好きなの?」


 千歳が指さしているのは胸の大きな感じのキャラだった。

 さっき話題に上がっていたキャラである。

 そのキャラはヒロインキャラの友人キャラであり、物語の主人公とかをからかってくるのだ。

 弓弦もそのキャラが好きではある。ただ、女の子の前でそれを答える事に戸惑いがあった。


 反応に困っていると、左隣に座っている彼女が弓弦の事を見つめてくる。


「あのね……好きな漫画の話をしている時にこういう事を言うのも変かもだけどね。私、一つだけ隠していることがあるの」

「隠していること?」


 弓弦は唾を呑む。

 彼女の方は声を震わせていた。


「でも、初めに言っておこうと思って。隠し事はよくないし。で、でも、私の秘密を知っても……誰にも公言しないでほしいの。竹田君なら、そういう事を他人に言わないと思うけど」


 千歳は上目遣いで、まじまじと見つめてきていた。

 ほぼ密室な環境だからこそ、逆に緊張して彼女の姿ばかり見入ってしまい、その姿から視線を離せなくなっていた。


「わ、私ね、胸が結構大きいの」


 そう言って、千歳は制服の上着を脱ぎだした。


 胸元にはサラシのようなモノが巻かれており、弓弦が困惑している最中、彼女はさらに、そのサラシまで外したのである。


 ……え⁉


 弓弦の前の前に現れたのは、たわわに実った胸だった。

 ブラジャー越しではあるが、谷間を見れば爆乳だという事がわかる。

 高校生とは思えないほどの大きさであり、視覚的に彼女の大きさを把握できていなかった。


 こ、これほどまでも爆乳だったなんて――


 想像していたよりも、二回り、いや、三回りほどはデカかったのである。


 パソコン画面に表示された好きな漫画よりも、今まさに直面している彼女の胸にばかり視線がいっていたのだ。

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