クラスメイトの隠れ美少女の七海さんが、俺の事が好きらしい⁉
譲羽唯月
第1話 クラス委員長の彼女は実は――
「ねえ、竹田君。これを手伝ってほしいんだけど、いいかな?」
ある日の放課後。クラスメイトが教室から帰宅していく中、
弓弦は席に座りながら帰り仕度の準備をしており、一度手を止め、その場に佇む彼女へ視線を向けたのだ。
千歳は学校内でもかなりの美少女。
黒髪のロングヘアが特徴的で、任された業務は最後まで全うするほどに真面目な性格をしている。
「何をすればいいの?」
「あなたには、このA4用紙の束をホッチキスで留めてほしいの」
「それだけ?」
「そうよ。お願いできる?」
「それくらいならいいけど」
話によると、今日中にやらなければならない業務らしい。彼女は弓弦の机の上に、A4サイズの用紙束とホッチキスを置いていた。
「私は別の業務があるから教室にいるし、わからないことがあったら聞きに来てもいいから」
千歳は落ち着いた性格の持ち主でもあるのだが、ハキハキとした声質が特徴的。
クラスメイトからの評価も高く、先生からの信頼度も非常に高かったのである。
だからこそ、周りから委員長に推薦されたのだと頷けるほどだった。
そんな彼女にもコンプレックスが一つだけあるらしい。
それは胸が小さいこと――
直接彼女から聞いたわけではないものの、周りの人がしている噂話を通じて耳にした程度である。
本当にそれが悩みかどうかはわからないが、弓弦は席に座ったまま、チラッとだけ立ち去って行く彼女の胸元だけを見ていた。
確かに小さいな。
制服の上からでもわかるほどに真っ平なのだ。
弓弦自身にもコンプレックスはある。
それは高校二年生になっても恋人がいない事だ。
人には何かしら言いたくないことがあるものであり、どんなに完璧な人にも欠点があるものだと察する事にした。
「弓弦。一緒に帰らない?」
早速業務に取り掛かろうと思い、弓弦がA4用紙の束を整えて数枚ずつ分けていると、気が付けば幼馴染の
幼馴染はショートヘアが似合う女の子であり、普段からフレンドリーな話し方で接してくれるのだ。
「ごめん、俺、ちょっとやることがあって」
「そうなの? そんなに重要なこと?」
春華は、弓弦が手にしている用紙を覗き込んでいた。
「今日中にならないといけないらしくて」
「大変そうだね。じゃあ、一緒に帰れないって感じかな?」
「そうなんだ。それに委員長からの頼み事でさ。ごめんな、今日はそういう事だから」
「んー、しょうがないっか。じゃあ、私、今日は一人で帰るね。また、明日ね」
「うん、またね」
弓弦は席に座ったまま、教室を後にしていく彼女に手を振っていた。
春華は昔から幼馴染で、今年からはクラスが別々になったものの、下校時になるといつも教室までやってきてくれるのだ。
幼い頃からの付き合いであり、高校生になってからも友達として良好な関係性を続けられていた。
春華がいてくれて助かった事も多く、感謝しているほどだった。
クラスが違うとスケジュールも全部違うわけで、高校二年生になった今では週に二回ほどしか一緒に下校出来ていなかった。
登校時は一緒なわけだが、放課後に下校できた方が一緒にどこかのお店に入ったり、同じ楽しみを共有したりと出来る範囲が広いのである。
だが、こればかりはしょうがないと思い、諦めがちにため息をはきながも、早速取り掛かる事にしたのだ。
弓弦が業務を始めてからというもの、一時間ほど経過した。
現在、教室内には弓弦と千歳だけになっており、ホッチキスの音とボールペンで文字を書く音だけが響いていた。
教室の窓からは夕日が見えており、次第に辺りが薄暗くなっていたのだ。
これで終わりと――
「ホッチキス留めは終わった?」
「丁度終わったよ」
「ありがとね、竹田君」
弓弦の席までやって来た彼女は淡々とした言葉遣いで話し、すべてのホッチキス留めが終わった用紙を受け取っていた。
「俺、もう帰るね」
弓弦は通学用のリュックを手に席から立ち上がる。
「ね、ねえ、ちょっと待ってくれる?」
「え? まだ、やることがあるの?」
「そ、そうじゃないんだけど……今日、一緒に帰らない?」
「一緒に?」
窓から見える景色は薄暗い。
女の子一人で下校させるのもどうかと思い、弓弦は一応承諾するように頷いた。
「あ、ありがとね。私、この資料を先生のところに渡してくるから」
そう言って千歳は教室を後にして行ったのだが、それから五分後に戻って来た彼女は不思議そうな顔を見せていた。
「どうかしたの?」
「さっきの竹田君から手伝ってもらった資料があったじゃない」
「あったね」
「それ、明日までで良かったみたいなの」
「え? そうなの? 七海さんの勘違い的な?」
「そういうわけではないと思うんだけど。先生から渡された紙には今日の日付が書かれていたし。でも、先生の確認ミスかもしれないって」
「それ、不思議だね」
「そうだね。でも、先生も気にしなくてもいいって言っていたし。これ以上、考えてもよくないものね」
彼女は気分を切り替えつつも、首を傾げて帰宅する準備を整えていた。
学校を後にした二人は、電灯で照らされ始めている通学路を隣同士で歩いて帰路についていた。
幼馴染以外の子と一緒に帰るのは初めてである。
幼馴染の春華とは二人っきりでも普通に話せるのに、今は妙に緊張してしまい、何を話せばいいのか話題作りに困っていた。
「あ、あのさ。竹田君って学校楽しい?」
「急にどうしたの? うーん、個人的には普通かも。どっちでもないかもね」
「そ、そうなんだ……な、ならいいんじゃないかな」
彼女の方も緊張しているようで、少々声が裏返っていた。
「あ、あとさ……竹田君って、気になっている子とかいないの?」
「気になっている子?」
「そうよ。クラスメイトに」
「クラスメイトの中だと……」
そもそも、パッとしない自分がクラスの女子らを選べる立場ではないと思う。
変に答えて面倒になっても困ると思い、今のところはいないと簡潔に答えておいた。
「いないの? ……だったら、わ、私と付き合ってみない?」
その時、弓弦の隣を歩いていた彼女の歩く足が止まる。
「……え? え⁉ 七海さんと⁉」
弓弦も彼女の反応に驚きつつも、その場に立ち止まった。
「そ、そう。私、竹田君の事が気になってて。だから、今日頼みごとをしたわけなんだけど」
話している千歳の頬は真っ赤に染まっていた。
嘘のようにも思えず、彼女からは本気さを伺えるほどだ。
「お、俺で、いいの?」
「う、うん……私はそのつもりで、だからね、一緒に帰ろうって提案したんだけど……」
そういう事だったのか。
まさか、彼女から好意を抱かれているとは想定外だった。
だが、嫌な気はせず、恋人のいない弓弦は千歳の想いを受け止める事にしたのである。
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