第8話 急襲

 重々しい音が開いて、外交門が開いていく。


 「御三方、ご武運を」


 「まぁ問題ないさ、日帰りだろうし。あ、クッキーがもうするなくなっちまうから、いっぱい買っといて」


 「承知いたしました」


 そろそろ出発みたいだ。 


 しかし、思ったよりこそこそするんだな。


 白昼堂々と出かけるもんだって、勝手に考えてたから、


 こうやって別のシェルターへ用のある集団に紛れて行くってなると、謎に緊張する。


 エンジン音がかかり、車が出発する。


 目的は、魔素で突然変異した野草の採集。


 なんでも、特定の種類の野草は魔力を溜め込むタンクみたいな造りに変化するらしく、


 それの原理を解明して実験に利用したいらしい。


 俺自身は魔力がどうとか、実験でこうだなんて、到底分かりそうにない。


 ただ言われた通りに指示を消化しよう。


 でも、ちょっとその前に


 「運転できるんだな」


 「何年生きてると思ってる、お前さんが思ってるより結構なことはやり尽くしたつもりさ」


 「へぇ〜。なんか、なんだかなぁ」


 自分より幼く奴に車を運転されると、なんだか不安な気持ちになる。


 「それ以外もあるだろ、なにうかうかしてんだ。」


 「や、やっぱりバレる?…ハハ…」


 あの時、俺のことを庇ってくれた教官。俺が訓練隊員だった時からお世話になっている。


 余計なことしなければ、俺も教官もあんなに負傷しなくてよかったかもしれない。


 幸いなことに、命に別状はないとのことなので、そこは良かったんだけど…


 お見舞いした時、あんまり元気なさそうだったんだよなぁ。


 「お前さんがいま気にすることじゃないさ。そもそも、お前がしっかり勝って2人とも助かったんだろ?それでいいんだよ。今は」


 炉が車を走らせる。


 「そう、かな…」


 その通りではあるんだけど…



 「教官!」


 「おお、君か。もう腕は大丈夫なのかい?」


 「ええ、知り合いに優秀な回復魔法使いがいまして…教官も、御身体はもう…?」


 「あぁ、私のところにも、君よりひとまわり小さい少年が手当してくれてね。もう何も問題はないのだが、なんだか気分が優れなくてね…」


 「そうですか…」


 「あの!先日の一件…申し訳ありませんでした!指示通りに動いていれば、被害はもっと少なく済んだかもしれない…少なくとも、教官があれほどの怪我をされることもなかった…!」


 「もう過ぎたことだ。それに、しっかり勝って、避難が遅れた人民も皆、無事に救出できた。何も問題はない」


 「ですが…」 「何より」


 「はい?」


 「まさか君があれほどの実力をつけていたとはな。訓練の時は魔法一つで疲労困憊と言った様子だったが、なかなかに鍛えたようだな」


 「…友人、が教えてくれたんです。ロスが多いって事と、軽い対策を」


 「良い友達を持ったな」「はい」


 「さ、君だって暇というわけには行かんだろう。私はもう大丈夫だから、早く戻りなさい」


 「わ、わかりました…失礼しました」


 あの時の教官の寂しそうな、苦痛をひた隠しにしたような笑顔が頭から離れない。



 「炉。本当に教官は大丈夫なんだよな?」


 「さっきお前が今気にすることじゃないって言ったんだけどな。負傷は全て治した、お前から見て不安そうに見えるなら、そいつの残り時間もあまり残ってないってこった」


 「なッ…!嘘、だろ?」


 「どうだかな、任務が終われば小生も連れてもう一度見舞いに行けばいいだろ。シェルター外はお前さんみてえなボヤッと別のこと考えて油断してるやつから死ぬのさ。気を引き締めな」


 ギアをガガガと急激に上げ、車が加速する。


 「ッ!…ごめん。そうだな、もうこの話は終わるまでしないことにするよ。えと、薬草を集めたら良いんだよな?」


 「そうさ、種類はとりあえずなんでもいいが、蕾が壺みたいに膨らんでるやつがいい。魔素の含有量が多い」


 「わかった。だいたいどれぐらい集めたらいいんだ?」


 「とりあえず丸と一緒に寝てるカゴに入るだけ入れるんだ」


 「OK。…あのさ、施設長とはいつもあんな感じで仲悪いのか?」


 「仲悪いって言うか…邪魔なんだよ。お互いが。負けやしないが、かと言って勝てるかって言われるとかなりの時間がかかる。反発しあってる暇があるならやるべき事を済ませたい。それだけさ」


 「じゃあ、どうしてこうやってお使いみたいな事を?」


 「部屋を拵えてもらった恩、それに小生も使う予定があったからさ」


 「そうか…そういえばなんで車なんだ?前みたいにおっきくなって走った方が速いんじゃない?」


 巨大炉が暴れてるスピードは、半端じゃなかった。


 さながらスポーツカーが爆走するように。


 「なんでもいいだろ、久々に車乗りたかったんだよ」


 なにか考えがあると思ってたから、予想外。 でも結構わかるかも。


 「ほれ、丸。ついたぞ〜」


 「んー、〜?」


 ここまで呑気だともう才能だな。


 「ふぁ〜ぁ、よし!おっけい!」


 「いいか?小生はここから10分ぐらい離れた場所で別のことしてくる。2人で集めておいてくれ」


 「えっ?ちょっと?」


 丸の制止も聞かず、目にも止まらないスピードでどこかへ行ってしまった。


 もしあの速度で10分ならもう辿り着けんな。


 「え〜と?魔素がようけ入ってる草を集めるんだっけ?」


 「らしい。蕾が膨らんでるやつを目印にすりゃいいって言ってた。んでこれが集めるカゴ」


 「う〜っし、ホイホイって終わらせようか」 「だな」


 割と場所がよかったのか、ほとんどの野草が炉が言ってたように蕾が膨らんでいた。


 カゴの容量の7割ほど集めた時だった。


 「しっ。静かに」


 丸がいつになく真剣な面持ちで促す。 理由は俺にもすぐに伝わった。


 囲まれている…!


 数はいくらか、一体何者なのか、


 そこまではわからなかったが、俺たちを中心に、半径5メートル辺りを魔素が取り囲んでいた。


 声を抑えて丸が話しかけてくる。


 「蓮はどっちだと思う。か、それ以外か」


 「人に一票、と言うより人じゃないなら対処できない」


 「それもそうだな。一回調べてみるか」


 そういうと指をパチンと鳴らし、丸の周りに、初めて会った時と同じような小型タレットが現れた。


 何処というある程度の照準すら合わせずにパシュンと1発撃ち込んで、タレットは消失した。


 撃ち込まれた弾丸は銃口の示した先へ駆ける事なく、意味ありげに浮遊し始めた。


 初めはふよふよと丸の周りを回るように空を泳いでいたが、


 やがて囲んでる正体の一角に狙いを定め、今度は一直線の弾道を描いた。


 「〜〜!、!!!!」


 おそらく命中したであろう場所から聞き取れない謎の音が聞こえて、取り囲んだ全員に伝染する。


 残念ながら相手は人ではなかったようだ。


 恐らく元は大型の肉食動物だったのだろうと面影を残したモンスターが、狩場に入り込んだ俺たちを襲うつもりのようだ。


 「蓮、炉はこの状況予想してたと思うか?」


 「もし予想してたのにここに連れてきたのなら、戻ってきた時ぶん殴ってやる」


 「それまで俺たちが生きていられれば、できるかもな」


 難しいな、そいつは。


 モンスターは魔法も利用して獲物を襲うと言う。


 数は15。 体長は約2メートル。


 個体それぞれ使う魔法は違うようだ。


 俺たちを逃がさないように、じわじわと囲んだ輪を縮めていく。


 炉は当分戻ってこない。


 やれやれ、本気でやらないとここでオダブツだな。


 不思議と冷静を保ててる。 『プレイヤー』と相対した時と比べると、コイツらなんか屁でもない。


 タレットを撃ち込まれた一体が口火を切って飛びかかる。 属性は、火か。


 ならば。


 「悪いが、お前の相手は俺だよ!」


 氷魔法 【炸裂する氷弾アイス・キャノン

 

 丸に気を取られている横っ腹に、氷の爆弾をぶちこんでやる。


 「それじゃわざわざ囲った意味がねぇな、そんなんじゃ俺らはやられはしねぇよ」


 丸がどれだけ戦えるかはわからないが、見たところ手数は多そうだ、それにコイツらの耐久度。


 勝てる。勝ってみせる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る