一章
第7話 目的
弟子入りしてからというもの、修行という名の拷問が続いている。
いやマジできつい。 強くはなれるんだろうけど。
俺16歳ぞ? 青春真っ盛りぞ? 何してる? こんな馬鹿な。
「お前の弟の青春どころか人生そのものが奪われたんだぜ。そんな弱音吐いてる場合か」
全くもってその通りだ。コンチキショウめ。
修行の内容と言うと、シンプルと言えばシンプル。
魔力のロスを減らす修行、基礎体力の強化及び戦闘能力の向上。
でもそもそも魔力の運用自体がヘタクソなので、
それも含めた修行でやってるのがまぁしんどい。
左手から腕を通して右手に一定量の魔力を移動させるだけ。 なんだけども……
いかんせんヘッタクソすぎて、それだけで大量に魔力が無駄に霧散してしまう。
それに体力もごっそり持っていかれる。
3回やっただけでぶっ倒れてしまいそうだ。
とりあえず今のノルマは5回。
どうしてこんなにヘタクソなんだろうな。
悲しくなっちゃう。
「魔力が多すぎる相対的にな。肉体がその魔力量に適応できてないんだよ」
って炉が言ってた。いつか結果は出るんだろうか。
息も絶え絶えになって終わらせたあとは、
魔法そのものの強化の修行。
イメージを明確にして魔法を構築するまでに無駄にする魔力を減らすらしい。
山だったり、渓谷だったり、どこからか炉が用意してきた写真の通りに
これまたどこからか用意された岩を小刀で削る。
削るのにもだいぶ体力をつかうし、
どうせやるなら美少女とか、
…ロリ、とか
の方がいいだろ!なんでこんなしょぼいのなんだよ!
「おーい、進んでるかー?」
話をすれば、良い機会だ。
「なぁ、炉。 どうせやるならさ、もっとかわいらしいのにしないか?
モチベーションというか、なんというか…」
「お前がそれやっても生き物にならないだろ。 できてバケモノになるだけさ。
それとも? 完璧に美少女を作れると?」
ハイごめんなさい。 真面目にやります。
言われた通りに、岩を削って写真の通りにしたいんだけど……
岩って削るもんか普通!?!??こう言う時って木じゃないの!?
べらぼうに硬いからうまく削れないし、めっちゃ疲れるし負けそう。
俺がスパイだったら情報全部バラしてしまいそう。
やっと終わった。流石に今日はコレで勘弁してくれるみたい。
昼飯は炉の『付き人』?って人が作ってくれるらしい。
本人は何してるんだって探したらずっと机に座って魔法をこねくり回してた。
2種類以上の魔法って普通使えるっけ?すごいな。
「魔法自体は適正属性でなくても扱えますよ。とは言えあれほどかんたんにできるのは彼ぐらいでしょうね」
おおびっくりした。
後ろから声をかけられて振り返ると、多分炉の付き人なんだろうなぁって人が立ってた。
2メートル超えてるな、215センチぐらい?の痩身の男。
血色は良くないけど、すごい整った顔立ち。手脚も長くて正直人間には見えない。
あれかな。身長とか、いろいろコンプレックスなのかな。めちゃくちゃ正反対だもん。
「申し訳ありません。紹介が遅れました。私は炉様の付き人にございます」
「あ、こちらこそすみません。炉…サン?に弟子入りしました。氷谷 蓮と言います」
「ええ、墨ヶ島君のことも、
主人から聞いております。ちょうどご飯ができたので炉くんを呼ぶところだったんです。よかったら丸くんも一緒に3人でお食べになってみては?」
「あ、ああ。ありがとうございます。」
…今この人炉くんって呼ばなかった?
一応召使みたいな人なんだよな。いや、付き合いがどんくらいか知らないからなんとも言えないけど…
アイツああ見えて500歳超えてるって言ってたし、あれたぶん嘘じゃない気がする。多分
「おー、来てたのか。飯できたんけ?」
「ああ、そうらしい。一緒に食べたらどうだって、付き人さんが」
「ただいま食事の支度ができました。なので、ぜひ皆さんで召し上がって頂きたく」
「あいよ。そんじゃ、あいつも呼ばなきゃな」
そういえば、なんで炉は丸も弟子に入れたんだ?
申し訳ないけどあいつ何もしてないから凄い嫉妬してる。
食糧庫漁ってたくせに美味しいところだけ持っていってないか?
モヤモヤする。ダメ元で聞いてみよう。
「なぁ、炉。なんで丸も弟子にしたんだ?弟子入りの条件満たせるようには見えないぜ?」
「うーん…言ってしまえば牽制、そして念の為、だ」
「牽制…念の為…。その、お前や弟を襲ったやつのことか?」
「それが大部分。 もう一つはあのギョロ目への牽制だよ」
「施設長?」
たしかにすっごい険悪だったな。
「あいつの事だ。何しでかすかわかったもんじゃない。それに、
丸はプレイヤーに接触してる」
「プレイヤー?」
接触してると言われ思い当たるのは1人しかいない。
そういう名前なのか。
「記憶の限りでは、そう名乗ってた。
アイツは本当になんでもアリ。
俗に言う〈神様〉なんかとおんなじような存在と言っても過言じゃない。
…なにか丸に細工を施していた場合だ、対処できる可能性があるのは小生しかいない。」
「…その監視する口実的な?」
「そういうこと。ま、今はあれだ、昼飯」
それもそうだ。
尋常じゃないぐらい疲れてるのを今思い出した。
「めっちゃ美味しい!いくらでも食べられる!!」
付き人さんのご飯は冗談抜きで美味い。
「箸、持ち方汚い」 「あ、ごめん」
丸はあんまり箸使いが上手くないみたいで、炉によく注意されてる。
こう言うところを見ると、偏見ながらも炉ってお爺なんだなって感じる。
「…」
ご飯中一っ言も喋んないな。無心で貪ってる。
確かにそれが食事のマナーなんだけども、物足りないなぁ…
「、そうだ。お前ら」
「ん〜?どしたの炉」
「蓮は修行ばっかりもアレだし、丸も何もしないんじゃ退屈だろ?一度2人で任務でも受けてみたらどうだ?」
「任務…外交門の警備とかじゃないだろ?」
「あぁそうさ、シェルター外での資材調達。ちょうどギョロ目から頼まれてたからな、いい経験になるんじゃないか?」
施設の…外。
魔素をうまく取り込まずにモンスターに変異してしまった人達が捨てられる場所。
そのモンスター達は群れを作ったり、孤独に彷徨ったりしてる場所。
モンスターの肉体を採取して持ち帰ることができれば、シェルターから膨大な報酬を貰える。
でも、外出許可が出るのは一等隊員以上、もしくは上等以上の隊員の同行が必須。
「んーと、遠足みたいな?」
絶対そんな軽い気持ちで行っていい場所じゃない。
「待ってよ炉。俺ならまだしも丸は力不足だって、あの時いたからわかるだろ?」
「えー、ひどいなぁ。そんな言うなら蓮が守ってよ」
丸が不服そうに文句を言うけれど、
いくらなんでもそんな生優しいことは言ってられない。
下手したら、しなくても命が脅かされるようなところだ。
「まぁまぁ、安心しなって。小生も着いていくからさ」
「え?」
「よっぽどのことがない限り手助けはしないがな。蓮、修行でどれくらい自分が強くなったかその身で確かめてみな」
「…」
「そして丸」
「は、はいっ」
「お前さんは蓮の戦い方を一度見てみるといい、小生達抜きでの戦闘になった時、どう立ち回ってどう逃げ切るか、だ。さらに聞きたいことも結構ある」
「了解♪任せちゃって!」
…炉がついてきてくれる、のなら
多少は大丈夫、かなぁ?
でも、炉の言う通り、俺がどれだけ強くなったのかは、
自分の目で確かめたい。
来る日に、〈プレイヤー〉に勝つために、
少しでも強くならないと。
うかうかしていたら、やられるのはこっち側だ。
俺も。丸も。そして炉でさえも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます