第6話

 主な戦場は大講堂だった。


 至るところで血飛沫が舞い、凶器と凶器がぶつかり火花が散る。


 様々な魔法が飛び交い一種の災害なのかと錯覚してしまうほどだ。


 本来ならば向かうところ全ての敵を撃退するのが俺のような隊員の役目だ。


 隊員なんて所詮雑兵。施設長サマのようなお偉いさんからしたら個人の生死なんてどうでもいいんだろう。


 とはいえ進んでこの道に入ったんだ、覚悟はとうにできている。


 しかしながら今はそんな状況じゃない。弟のようにやられた隊員も何人もいるはずだ。


 「どうする?魔力探知は多分アテにならないだろ?」


 「おそらくな。丸の件を見るに対策されている。やりたくはないがしらみつぶしに探すしか無いかもしれない」


 「俺は顔見たことあるよ!戦わなくてもすぐにわかるぜ!」


 そう言う問題じゃないんだけどな。


 でも多少の時間は短縮できるのか?


 「何くだんない話してんだよ。…丸、顔がわかるって言ったな?」


 「え?うん」


 「なら強硬手段だ。さっさと片付けて探しに行くぞ」


 マジかよ。こいつら全部相手するつもりなのか?


 時間かかるとかそれ以前の問題じゃ…


 「イメージだ。魔法を使いこなすならな。半分は小生が片付ける」


 炉はそういうと、さっきのオオヤマネコに変身した。


 そして、瞬く間に巨大化した。


 なんだこいつ。なんでもアリじゃんかよ。


 「すっげえ!こんなでっかいネコ初めて見た!!」


 相変わらず丸は状況分かってないし。


 炉はまるで獅子のような咆哮をあげながら、敵の中で1番強そうなやつに突撃した。


 明らかに一方的すぎる。


 よそ見をしていたら流れ弾が飛んできた。


 間一髪でかわせたから、俺も丸も皮膚にカスる程度で済んだ。


 けど、丸の様子が変わった。


 うずくまって、フードを被り直し、小さく縮こまってる。


 人が変わったみたいだ。


 「ねぇ。僕たちはどっちに向かった方がいいんでしょう?」


 声色も中性的になり、心なしか少し大人びたように感じる。だいぶオドオドしてるけど。


 「あー…そうだなぁ。なるべく強いやつを倒したい。探す時に厄介だから」


 なんて客観的に答えて辺りを見回してみるが、強いやつに勝てる保証なんてどこにもない。


 デッカい斧を片手で振り回し、時折使う魔法は大地を揺るがしている。


 時折岩を大量に錬成し、さながらショットガンのように撃ち出す。


 あの男に近づこうとした隊員が尽く打ちのめされ、倒れている。


 アイツだな。倒すべきは。


 だが他の奴らもところ構わず暴れ回り、あそこに到達するまでにボロボロになることは必至だ。


 「丸?あそこの筋肉モリモリマッチョマンの変態のところに行きたい。そっちは大丈夫か?」


 あの戦闘能力じゃあ、到底太刀打ちできないだろう。


 どこかに避難させる方が賢明か。


 「わかりました。ちょっとだけ慣れないかもですが」


 そう言うと丸は俺の腕を掴み、何か魔法を唱える。 


 すると丸の立ってる場所から墨のような水たまりができ、徐々に広がり俺のところまで来た。


 水たまりに丸と俺は沈み、少しして、押し上げられるような感覚を覚えると、敵の目の前まで来ていた。


 すっげえ。移動系の魔法なのか。


 丸に感謝を述べたのち、斧野郎と対峙する。


 ガスマスクのようなものをつけて、一切喋らない。


 ただ、急に襲いかかってきたりはしなかった。


 先手を打たせてくれるらしい。手で招いて挑発してくる。


 おそらく、ここで勝負をつけないとカウンターでやられる。


 明らかにそれを狙った構えだ。


 誘いには乗らないのが常套だが、いかんせん相手の準備は万全だ。


 なら、裏をついてやる。



 氷魔法    【氷獣の牙フロスト・クロー



 施設から配布された刀剣『陸号ろくごう』を魔法で強化する。


 刀身を中心に氷の刃が渦巻く。おそらく俺の出せる瞬間火力は最大だ。


 

 カウンターを受け流す前提で、斧男に切り掛かる。


 「おおおおおおおお!!!!!!」


 氷の刃を飛ばしながら、フェイントを混ぜ込んだ回転斬り。


 攻撃自体は当てられたが、ダメージはあまり入れられなかった。


 カウンターも直前に気づけたお陰で、吹き飛ばされるだけで済んだ。


 が、衝撃が想像を遥かに超えた。


 斧で斬りつけた後、岩魔法で突き飛ばしてきた。


 防御なしで巨大ハンマーで殴られたみたいだ。


 確実に両腕とも折れた。 肋骨にもヒビが入っただろう。


 陸号も使い物にならない。


 斧使いが不敵に笑う。敵うわけがないのはわかっていた。


 コレでいい。おかげで隙ができた。



 氷魔法 【鬼雪崩アンガー・アバランチ



 上空から氷柱や雪塊を大量に降らす魔法。


 不意をつけたおかげでクリーンヒットだ。


 魔法で防御する間もなく発動した。


 見るからに大ダメージを負わせられた。


 立ち上がったが折れてしまったようで、すぐに膝から崩れ落ちた。


 俺の勝ちだ。


 あの男を倒したおかげで周りの戦闘員が混乱し、一気に優勢になった。炉の方も順調な様子で、あっちの方はほぼほぼ片付いたみたいだ。


 だけど、もう戦えない。


 弟を襲ったであろう存在も見当たらない。


 もしかしたらすでに退却したのかもしれない。 クソッ!


 いつのまにか丸が隣に来ていた。フードは被ってない。


 「いやぁ、すごかったぜ!やられたと思ったらまさかカウンターまで用意してたなんて!!」


 「まぁね。おかげで勝てたけど、流石にこれ以上は無理かな。」


 「え?…ああ!!大怪我してる!いたくないの?ねえ、大丈夫!?」


 怪我したの気づかなかったのか。


 でも不思議と痛くない。感覚が麻痺してるな。早めに休んだほうがいい。


 「まっすぐ進めば治療室がある。そこで休みたい。」


 「オッケー!ちょっと待ってね」


 フードを被り、また雰囲気が変わった。


 多重人格か?こいつ。


 なんて考えてる暇はなかった。


 今までの人生で感じたことのない悪寒と恐怖を背後に感じた。


 振り返ると、6,7歳ぐらいの子供が凶器を片手に斬りかからんとしている。



 こいつだ。


 こいつが弟を襲ったんだ。


 本能でそれを理解し、逃げようとしたが。


 動かない。身体が、少しも。


 丸も同じようで、怯えた表情で固まっている。


 死ぬ。死んでしまう。


 そう状況を理解すると、なぜか気分が楽になった。


 もうダメなんだ。何を恐れている。


 全身から力が抜けて、気が遠くなる。


 約束したのにな。 ごめん、炉…



 「なんだ?コイツを倒さないといけないって言ってなかったか?


 それとも小生の聞き間違いか?」


 「炉!!」


 ふと炎が舞っ殊瞬間。炉が間に割って入った。


 ナイフを持った腕を引っ掴んで、


 俺たちを攻撃から守ってくれた。


 「しっかし、なんだ、


 記憶より何倍も弱いな。歯応えすらない。


 本当にこんなやつに全部奪われたのか?」


 そういえば覚えてないって言ってたな。


 訝しげに子どもを覗き込む。


 性別はわからない。もしかしたら男かもしれない。


 子どもは炉をじっと見据えると、ニヤリと笑った。


 その瞬間。子どもからオーラが溢れ出し、炉を覆わんと広がる。


 やばい。あれは絶対助からない。


 直感が嫌というほど脳に危険信号を出す。


 どうにか助けないとと駆け出そうとすると


 「こざかしいッ」


 炉の一喝で空気が震え、オーラが霧散する。


 姿がみるみる神々しく感じる。


 本当に神様なんじゃないかって程に。


 「伏せよ。動くことは許さない」


 気を失いしまいそうなプレッシャーを感じる。


 あの子ども、確実に失神しただろ。




 全然そんなことなかった。


 子どもは強引に炉の手を振り払い、目にも止まらぬスピードで施設のどこかに逃げた。


 「……チッ!!逃した…ッ!」


 炉が忌々しそうに地団駄を踏む。


 …いや、普通地団駄で床に穴は開かないって。


 「あ…あのさ、あの子どもが、その…俺を誘ったやつで…」


 「だろうな。そんな気はしてた、今はもう仕方ない。


 蓮。 お前アイツを倒すって言ったよな。」


 「あ…あぁ。確かにそう言った」


 やめておけって言われるのかもしれない。


 少なくとも俺ならそうする


 「弟子入りしたいんだろ?丸もまとめて2人とも許可してやる。」


 「えっ!?いいのか!」


 丸は何も知らないだろ。何喜んでるんだ。


 でも、本当に許可してくれるのか。


 期待には応えなくちゃな。


 「ただし、条件がある。」


 「わかった。なんでも言ってくれ。」


 「弟子入りしたあかつきには、



 いつかを殺せ。それが条件だ」

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