第5話

 いつのまにか施設長にもらったのか、小型のリモコンを操作して、炉が部屋を閉じた。


 すると、閉じた扉が壁と一体化した。


 なるほど、こうすれば誰にもバレない。 施設長って怖そうながら以外と良い人なのかもしれない。


 「そんなことないぞ。あいつの実験室は全部こういうつくりになってる。


 アイツは見た目通り陰険で根暗だよ」


 「…仲悪いの?」


 「お互いの目的が相手にとって邪魔以外の何者でもない。でも消そうにもお互い手強くて手を出そうにも出せない。そんな感じ」


 聞く感じだと仲悪くはなさそう、


 あっ!すっごい不機嫌な顔。 これは相当毛嫌いしてるな。


 でも今はとにかく、侵入者に対処しないと。


 他の戦闘兵と思わしき人達が大勢やってきて、皆中央講堂に向かってるようだ。


 どうやらそこで戦闘が激化してるんだろう、


 「何処行くんだ?小生たちの向かうところはそっちじゃない」


 あれ?別方向?とはいえ、なにか意味があるんだろう。


 「みんなあっちの方向かってるけど…なんでこっちなんだ?」


 「あっちは戦闘が起きてるが、アレはただの囮だ。本命を叩いておかないと無駄足になる」


 なるほど、手練だ(小並感)。


 となると…食糧か、シェルターないの機密情報、機械技術あたりかな?


 「ご名答。頭の回転は早いみたいだな、魔法はまぁヘッタクソだが」


 うっそだろ。 普通このタイミングでディスる?


 なんならその下手っぴな魔法に面食らったのはアンタでしょうに。


 「質が悪すぎて驚いたんだよ。お前さんだって自覚あるだろ。魔力切れが他の同期よりも何倍も早いって」


 否定できない。


 「出力が多いから誤魔化せてきたんだろうが、強度もほぼ無し、練度の低さゆえ消費魔力も馬鹿にならない」


 …全くその通りです。ハイ


 「もともの魔力量が結構あるのに、それに甘えてるうちは誰にも勝てんよ」


 うぅ。どうしたらいいんだろう


 「イメージだ。その魔法がどのように展開するのかをきちんと理解しろ。それだけでロス自体はほぼ無くなる」


 「イメージ、か。」


 たしかに、一度訓練兵の時に指南書読んでそれっきりだなぁ。


 「お前の魔力量は、他の奴らの平均を10としたら2000ぐらいだ。小生は150ぐらいかな」


 「2000!?強くね?」


 「…他の奴らが1消費して発動できる魔法を、お前は500消費してやっと発動できる」


 「へ…ヘッタクソだなぁ。炉の言うとおりだあ」


 「なんなら発動時のロスでさらに100ぐらい無駄にしてる。しっかりイメージしろ。お前の氷魔法で、戦いをどう進めたいかを」


 「あ、あぁ」 胸に刻んでおきます…。


 「少なくともそれだけでロスはほぼゼロ、消費魔力も半分には収まる」


 …!そうだ。今ここでしっかり言われたことを吸収しないと、弟子入りさせて貰えないかも知れない!ちゃんと覚えておかないと…



 「恐らく、ここだろうな」


 場所は食糧庫だった。 そういえば、シェルター同士の貿易でいざこざがあったって聞いた気が…


 「!待て、魔力反応が消えた」


 俺のことを手で制して、炉が目を細めて扉の向こうの何かを探る。


 俺には見えてない何かが見えてるのだろうか。


 「魔力反応…か。それって俺もできるようになるかな」


 「多少鍛えたらわかるんじゃないか?大雑把でも、空気中の魔素の濃さだったり属性魔力を認識できるようになればいい。覚えておいて損はないな」


 説明しながら、音を立てずそろりと扉の前に立つ。


 俺もなるべく音を立てないように後に続く


 『蓮、扉の前で構えておいてくれ。一時的に通気口を塞ぐ』


 今のはテレパシー?口を閉じたまま指示を出してくれた。すかさずその指示通りに動く。


 もしかしたらコイツが、弟を…


 微かに墨の香りがした。


 ガシャン!と音を立てて通気口が塞がり、

炉が俺の隣で居合の型で構える。


 俺を斬った時は刀すら使ってなかったのに、結構真剣な態度なので、自然と緊張感が増し、身が引き締まる。


 墨の香りが強まったと思ったら。いつのまにか足元に真っ暗な水たまりができていて、引き摺り込まれた。


 くそっ、反応が遅れた。炉は危なげなくかわしてるようだ。


 炉が尻尾で引っ張り上げようとしてくれた刹那、水溜まりから人が飛び出した。


 恐らくコイツが今回の原因か。


 かぶっていたフードを下ろしたら、そいつはなんだか体格が良くなったような。


 「…………」


 小声で聞こえなかったが、何か聞いたことのない魔法の詠唱なのはわかった。


 周りに俺たちを狙う小さなタロットが生み出されるや否や、かなりの連射速度で弾丸が撃ちだされた。


 イメージ。 しっかりと俺達を覆うように、弾丸から守るような壁をイメージして魔法を発動する



 氷魔法  【氷の城壁アイス・キャッスル


 今までよりも格段に効率と魔法の出が速くなった。 本当に今まで適当に魔法使ってたんだな、反省。


 防いだ!…あれ?威力…弱くね?


 炉も気づいたようで、居合の構えを解いて尻尾で拘束する。


 「うっうわぁ!」


 なんの抵抗もなく、いや仮に出来る奴がいるのかは知らないけど。


 銃使い?はとっ捕まった。


 「あー…もしかしたら読みを間違えたかもしれん」


 だよなぁ。絶対元凶な訳ないもん。


 いや、だとしても見逃すわけにはいかない。


 「おい、お前!誰の許可で食糧庫に入った、何者だ!」


 「あ、あー…。 ごめんなさい!ダメだろうなって、思ってはいたんだけど、なんか、7?8?歳ぐらいの子供が、 漁ってもいいって。ちょうど食料がなくなってきた頃だろう? って。その通りだったから…つい…」


 なんなんだ…すごい子どもっぽい言い訳だな。


 175センチぐらいか。俺よりも体格に恵まれてるのに、6歳ぐらいの幼児をみてるような気分だ


 後でもう少し話を聞くとして、もっと重大な事態だ。


 「おい、炉ぃ。間違ちまってるじゃねえか!どうするんだよ!」


 「あゝ……悪い。魔力量が1番多かったんだ。……まさか…」


 「「囮…?」」


 マズイ。考えを読まれて先手を打たれた。


 「今考えれば当然だ…蓮の弟が襲われたんだから所構わず暴れ回ってるに決まってる。


 どうしてここに来てるなんて…」


 手のひらで転がされてる。急がないと。


 「あの〜さぁ…ついて行ってもいいかな?」


 子どもっぽい青年が提案してきた。


 本気で言ってるのかコイツは。普通に裏切り行為だろうし、


 下手したらこれが原因で殺されるんじゃ…


 「いや、まぁいいだろう。その子どもについて聞きたいこともあるし、お前さんの魔法も特徴的で気になる」


 それお前が魔法好きなだけでは?


 「まぁ、炉が言うならいいかな。君、名前は?」


 「墨ヶ島 丸(すみがしま がん)。できたらさ…俺これからここのシェルターで生活できないかなぁ」


 だいぶわがままな助っ人が加わった。

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