第4話

 「そうさ、割と気難しい野郎だからな、小生が指示を出すまで口を開かない方がいい。

なんなら小生が話しても助け船を出してくれないかもしれない」


 「ちょっと、ちょっと待ってくれ!助けてくれるのはありがたい。感謝しても仕切れないくらいだ!でも俺はあんたの事を何も知らない!!どうしてこんなに助けてくれるのかもわからない!!今のままじゃぁ、あんたの事を何も信用できない…」


 本当は何もかも信じたい。弟を助けられるなら、信用できるできないなんて言ってる場合じゃないのに…!


 「…小生は『あんた』じゃあない。一ノ瀬 炉だ。信用できないってなら追い追い教えてやる。

 ただ助けてる理由は、お前さんらが兄弟だから。なんだか懐かしくなったのさ。これで少しは信用してくれるか?」


 「あ、ああ」


 理由になってなかったけど、見たこともないぐらいまっすぐな目でそう言われると、信用せざるを得ない。


 俺(168センチ)よりも小柄で、158センチほどか。


 顔はすごい整ってて、美少女と言われても納得できるほどだ。


 でも俺よりも声が低いし、本人も男だったって言ってる。


 今の炉は妖怪みたいな存在らしく、今は性の概念自体がないらしい。


 これも今度詳しく聞いてみよう。猫耳は一瞬コスプレかと思ったけど、人間の耳が見当たらないし、本物なんだろう。


 腰の付け根に尻尾もある、2本。妖怪ってのは本当らしい。そりゃ猫に変身もしてたしそりゃそうか。


 そんなことを考えて迫り来る深刻な問題から目を逸らして落ち着きを取り戻し、施設長室に入る炉に着いていく。


 施設長ってどんな人なんだろう、どうして炉は施設長なんてこのシェルター内で1番の権力者と面識があるんだろう。


 もしかしてかなり無礼なことしてしまったかもしれない。


 「よう!ギョロ目野郎。折行って用がある。お前の都合は知らんからさっさと協力しな!」


 「……いきなり現れて何を言い出すかと思えば。知っているだろう、施設に侵入者がいる。そいつらを対処してからにして貰おう」


 「お前の都合なんて知らんと言っただろうが。要件から話すぞ」


 「…いい加減にしてくれ」


 「『魔力から隔離した人間用の実験室』だっけか?その部屋今は空いているだろ?貸してくれ」


 施設長にこんな高圧的に会話するなんて。それに一体なんの話をしているんだろう。


 なにより、施設長の見た目が…明らかに人間じゃなかった。


 骸骨だった。


 大柄で2メートルはありそうだ。


 ただの骸骨じゃなくて、目が繋がっていた。


 普通骸骨は目の窪みが左右合わせて2つある筈なんだが、その窪みが中心に寄っていて一つに繋がっている。


 それ故かすごく不機嫌そうに見える。実際不機嫌なんだろうけど…


 「理由ぐらい話せ。それにあの部屋はもう別の実験室として使っている。諦めろ」


 「なら新しく用意しな。一刻を争う」


 「何をそう焦ってる?それに、あの男は誰だ?なぜこの部屋に関係者以外を立ち入らせた?」


 やばい、目をつけられた。普通に怖い。


 「関係はあるさ。コイツの弟が危篤状態でな。今すぐ魔素がゼロの環境が必要だ」


 「なぜ私がその環境を作ってやらねばならんのだ?私にはなんの関係もないだろうが」


 「危篤状態のこの童は元々は魔素をキチンと魔力に変換できていたようなんだが、襲われた後、肉体から魔素を変換する肺胞が消滅していた」


 「…それで?」


 「回復魔法を使っても結果が変わらなかった。となると、童を襲った犯人は特殊な魔法、もしくは別の特殊能力を持っている」


 「まさかお前本気か?」


 「ああそうさ。ソイツはもしかしたら肉体の情報を書き換えられる、『コマンド』持ちの可能性があるってわk」


 「馬鹿なことを言うな。可能性だけの話に付き合うつもりはない」


 「…そうかい、まあそれはいいさ。小生が単独で調べるだけさ。本当に求めている目的があるなら。たとえ可能性が微塵だったとしても、可能性のある手段なら迷わず選択するもんだと思ってるし、お前もそうしてきたと思うがな」


 「……黙れ」


 「だが、魔素の隔離部屋は用意してもらう。侵入者もいる、実験の予定だってある。そんな状況で小生と本気で戦うつもりか?」


 「はっ。まさか貴様が私に勝てるとでも?笑わせる」


 「お前だって小生に勝てるわけでもないだろ?違うか?」


 「…くだらん。今回だけだ。2度と貴様の要望は聞き入れない。いいな?」


 「結構結構。お互い関わり合いたくもないしな」


 「…フン」


 これはー…うまく行ったのか?


 状況をいまいち理解できず唖然としていると、単眼骸骨の施設長が何やら端末を操作する。


 ガガガと重い音が響き、部屋からさっきまで無かった廊下が現れた


 「まっすぐ進めば部屋がある。勝手に使え」


 「おう。ありがとうな、ギョロ目」


 「チッ」


 「行くぞ、蓮。だいぶ時間ギリギリだ」


 そう言うと炉はそそくさと廊下を突き進んで行く。


 我に帰り弟の方を見ると、本当にギリギリ、いやもうアウトなんじゃ無いかってぐらい吐血してる。


 「あああっ!!い、急がないと!ヤバイ!!!!」


 炉のすぐ後ろを走って追いかける。しかしまぁ、これで多少は状況は好転する…のか?



 用意されていた部屋は、真っ白で、何も物が置かれていないただの空間だった。


 とりあえず弟を床に寝かせる。吐血自体はもうしていないが、それまでに吹いた血の量が


 ひどい。このままじゃゆっくりと死んでいくだけだ。


 「なぁ、炉?」


 「どうした?質問はいいが先に童をこのベッドに移動させてくれ」


 示されたベッドは、ベッドというより、冷凍保存用の装置みたいだった。


 「魔素の含まれていない培養液で満たしてある。ゆっくりではあるが回復するはずだ」


 「あ、あぁ。ありがとう」


 さっきから至れり尽くせりだ。何かお礼とか、したいなぁ。


 「聞きたいことも言いたいこともあるだろうが、今回の礼だと思って先にこちらから話させてくれ」


 「もちろん!なんでも聞いてくれ、なんでも話してくれ」


 「なら遠慮なく。まず、この童…お前の弟か。こんな事をした犯人を見つけ出さない訳にはどうしようもない」


 「ああ、そうだよな」


 「そしてその犯人だが…仇を取ろうなんて馬鹿な気を起こすんじゃ無い」


 「はぁ!?何を言ってるんだ!?」


 「今のお前じゃ手も足も出ねぇよマヌケ」


 「そんなのやってみなきゃわかんねぇだろう!不意打ちでもなんでもすれば…!」


 「下手しなくてもこの施設の全兵力合わせたって勝てないさ」


 嘘だろ?


 「…は?そんなに強いのか?」


 「犯人の仮説が正しければな。小生の過去を奪ったやつと同じ能力を所持している可能性がある」


 「過去って…何があったのか聞いてもいいか?」


 「いや、残念ながら覚えてない。」


 「え?」


 「覚えているのは、全部を奪われたって感覚と、俺の首根っこ引っ掴んで冷笑してる悍ましい女の子どもの顔だけだ」


 「そうか…すまない」


 割とデリケートゾーンな質問だったみたいで、あからさまに不機嫌になった。


 我を失っていたとはいえ、一瞬で戦闘不可になるぐらいにされたぐらいだ。


 しかも施設長とあの態度で応対できる、炉の強さは相当なものなんだろう。


 その炉が一方的にやられたみたいな物言いになり、さらにはこの施設内の全員が束になっても勝てない。そんな奴が弟を襲った。


 炉の言う通り、俺じゃどう頑張っても勝てない…。 


 でも。勝てないとしても…!


 「…俺は弟の仇を取る。取らなきゃいけない!そのためならなんだってしてやる」


 「ならどうするんだ?気持ちだけじゃ勝てんぜ」


 「炉がさっき言ったよな。全員が束になっても勝てないって。炉1人ならどこまで戦えるんだ?」


 「…うーむそうだなぁ…刺し違える覚悟で全力で行って、軽く一発ポカっと小突くのがやっと。ってとこかな」


本気で言ってるなら炉ってだいぶ強いな。


 「充分だ!」


 「?」


 「その一発で終わらせて見せる、それだけ強くなってやる!!炉!俺を弟子にしてくれ!必ずソイツを超えて見せる!!」


 「!……フフッ。あははははは!!

何言い出すかと思えば、弟子にしてくれだって?別に小生の仮説が正しいって決まったわけじゃあないんだぜ?それにお前さんちょっとの前まで小生のこと殺そうとしてたじゃねえか!」


 「それは…申し訳ないと思ってるさ、でも俺は許せないんだ!俺の大事な兄弟だ、家族だ!弟をあんな目に合わせた奴を、俺が納得できるまで追い詰めなきゃいけないんだ!」


 「…兄弟、ねぇ…。

なら大前提として、この侵入者発生の異常事態、解決しなきゃなぁ。出ないと話が先に進まん、サポートはしてやろう。気分がいいからな」


 「!ああ!もちろんだ!」


 必ず、犯人を見つけ出して…


 ブッ殺してやる!

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