第3話
とりあえず信用してみたが、本当に弟のことも助けてくれている。
コイツの名前は「一ノ瀬 炉」。
炉と書いていろりと読む、とすごく熱心に教えてくれた。
弟の傷口がみるみるうちに回復していく。
炉が早めに俺との戦闘を切り上げてくれたおかげで死なずに済んだ。
結構感謝しないといけない。
回復してくれている内に今の状況を整理しよう。
さっき大音量で鳴っていた音の正体はサイレンで、この施設に侵入者が入ってきたようだ。
そもそも此処は割と今の世界では一番大きな国…というより隔離施設なんだが。
大昔、魔素が空気中に存在することが発見される前までは「異世界」と呼ばれるような世界だ。
その魔力は生物を形作る組織に異常作用して、生き物を自我のない暴走モンスターに変えてしまう、 言って仕舞えば有毒ガス。
それに適応するために生物は少し進化した。
肺の中で魔素を身体に無害な魔力に変換できるようになり、その魔力を消費して魔法が使えるようになった。
とはいえ、魔素を変化しきれずに暴走したモンスターは強力で、ほとんどの人間たちは太刀打ちできない。
そのためにを一昔数多の権力者がモンスターから隔離するシェルターを各々が作った。
俺たちはそのシェルターの中で一番大きなグループに属している。
おかげで普段は平和。普段は。
でもたまに別シェルターから侵入者が入ってきたり、暴走モンスターが入り込んだりする。
「そういえば、俺たちの部屋の前で倒れてた奴炉がやったんだっけ?もしかしてアイツがやったのか?」
「それは違うんじゃないか?少なくともお前さんの部屋の反対側から来たしな、襲いかかってきたし侵入者だったから軽くのしてやったのさ」
血吹き出して倒れてるぞアイツ。「軽く…ねぇ」
「そういやぁ、お前さんの名前はなんだい。教えてくれたっていいだろ」
「あ、あぁ、そうだな、悪い。蓮、氷谷 蓮(こおりがや れん)だ」
「蓮、ね。覚えておこう。じゃあ蓮、一つ質問をしても?」
「いいぜ、てゆうか弟は治ったのか?」
「ちょうどその事について聞きたかったんだ。お前さんの弟…変な事を聞くようだが、元々魔法が使えなかったり、なんてことは?」
本当に変な事を聞いてきた。予想外すぎて反応が少し遅れた。
「え?何言ってるんだ?俺の弟は俺の何倍も魔法のセンスがあるんだ、俺よりも先に出世したんだぞ!」
「なら…かなりの異常事態だ。割と時間もない」
いったいなんなんだ急に…
「お前さんの弟、魔法が使えなくなっちまったようだ」
「…………は?」
「小生も信じがたいんだが…魔素を魔力に変換する特殊な肺胞が、身体にないんだ。ひとつも」
弟が吐血した。苦しそうな顔をして、胸を押さえ始めた。
「やめろ!童!!極力呼吸をするな!魔素にさっきの傷口を侵されて死ぬぞ!!!!!」
嘘だろ。嘘だと言ってくれ。
また呼吸がまともに出来なくなってきた。こんなにパニックになるのは初めてだ。
「…!やむを得ん、許せよ童!!」
炉が弟の顔を覆うと、弟の意識がなくなった。
どうやら無理矢理気絶させたみたいだ。
「…ッ!てめぇ!弟に何しやがった!!!!!」
「いいか?蓮。今の状況であの童が無理に呼吸をしたら魔素を大量に吸い込んでしまう。
本来、魔素を魔力に変換して損傷した部位を魔力で補い回復する方法は訓練時代に教わっただろうが、
今この童がそれをすると逆効果だ。魔素を変換出来ずにそのまま身体を破壊する!」
なんだと?
「時間がない、弟を助けたいならもう少し小生に付き合え!!一刻を争う!!!!!」
「弟が助けられるならなんだってやってやる!!!どうすればいい!?なんだってやってやる!!!!!!」
「ちょっと童を背負ってついて来い!」
言われるがままについていくと、みたことのない部屋にたどり着いた。
いや、まさか此処は…
「…施設長室!?」
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