第2話

弟が、虚な目をしている。


本当ならいつものようにくだらないやり取りをして、なぁなぁに時間を過ごして


慌ててちょっと遅い夜ご飯を食べていたはずだったのに。



血が、出ている。


右肩から腹にかけてズドンと斬られたのか、ぱっくりと開いた傷口から肉や神経、裂かれた臓腑が生々しい主張をやめない。


脇腹で皮一枚、身体を両断されずに済んだようだ。


力無く身体から鮮血を吹き出しながら壁にもたれかかり、死が来る瞬間を待っている。


息が荒くなり、視界が白く朧げになっていく。


サイレンのような大きな音が聞こえていたが、すぐにほとんど耳に入らなくなった。


一人、俺以外に屍に成り果ててしまいそうな弟を見つめている。俺の目の前で、返り血を浴びたようにところどころが赤黒い液体を被っている。



コイツだ。コイツが弟を襲ったんだ、


コイツがいなければ弟はこうなることもなかったんだ。よくも弟を。


よくも、よくも…よくも


「あー…お前さん?どうやらパニックになってるようだが、この少年はお前さんの知り合」


思い切り壁に叩きつける。顔面を潰すつもりでやったのに、小柄なくせして結構しぶとい。


「なっなんだよ!?やっぱり知り合いなのか??言っておくが小生はなにも知らねえよ!」


「嘘をつくなあ!!!お前が弟を殺したんだ、お前が!!生きて帰れるなんて思うんじゃねえぞ、その首へし折ってやる!!!!!」


首が細く、力を入れてしまえば簡単に折れそうだ。


気を失うぐらいで許そうと少しは考えたが、思ったよりも抵抗してきて、腹立たしい。


もう良い、本気で折ってやる


「あぁもう!小生じゃねえって何回言わせんだ!入り口に一人倒れてただろうが、あいつの返り血だよ。少しは落ち着いてくれ、今むやみに怒ってもなにも解決しない」


「うるさい!!!!!!部屋に入ったら弟が致命傷を負っていた!!!!!!現場にお前がいた!!!!!他には誰もいない!!!なら誰だ!!答えろ!!!」


「ああっもう!!小生じゃないってんだから…!!」


ボウンと爆発音が聞こえたと思ったら、ずっと首を締め付けていたはずにアイツの体が消えた。


が、後ろから声がした。でもいたのはアイツじゃなくて、猫だった。


普通の猫にしてはデカい。オオヤマネコだろうか。


「少し気分いいから聞いてやったのにな!!一向に態度変えないならいいさ!小生はやってないからな!!あばよ!」


逃げやがった。逃がさない。



 氷魔法 【凍てついた廊下フローズン・コリダー


魔法の氷が刹那のうちに地面から生成され、目標目掛けて進行していく。


捕らえた。氷でネコを打ち上げてそのまま氷で拘束する


「んなっ…ん!?…?」


意外に頭は弱いらしい、混乱して呆気なく捕まえた。


「テメェ…いい加減にしろよ、弟をあんな目に合わせて挙げ句の果てに遁走だと?調子に乗るな!!!!!テメェがやってないなら誰なんだ!!!!!答えろ!!!このままへし折るぞ!!!!」


「このクソガキが…小生じゃねえって何回言えば理解するんだ……よ!!」


腕と胸を裂かれた。


骨なんて最初からなかったみたいに簡単に。


あぁ、やっぱりコイツじゃねえか、ふざけやがって。


俺たちが何をしたって言うんだ。どうして俺はともかく、弟が死ななきゃいけないんだ。


チクショウ、チクショウ……!


「…あー、マズったなぁ。これじゃほんとに小生がやったみたいじゃねえか。めんどくせー。……おい、お前さん。まだ生きてるだろ、ちょっと提案があるんだ」


消えそうになった意識が、そのネコの発言で一気にはっきりした。


「小生の事を、そうだな、5分でいい。5分だけ信用してくれるなら、お前さんの弟もお前さん自身も助けてやる。回復魔法なら割と得意でね、どうだい?」


断る理由なんてなかった。

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