小さな幸せ

@lolopooh

第2話

 「このお花すてき!」

 ある日、親友が子犬を飼いだした。ちっちゃくて、ふわふわで、とぉーってもかわいいんだよ、そう言って浮かれている様子にすごく羨ましくなった。だから帰りの会が終わって、親友と別れた後、ドアを開けてくれた母にただいまも忘れて懇願した

「わたし、犬欲しい!」

当時小学生だった私は浅慮な考えながら本気だった。自分が毎日世話するし、散歩だって行くんだから心配ないでしょ、と事あるごとに母に宣言した。けれどその後もずっと、母が犬を飼ってくれることは無かった。

 私が学校へ行っている間、習い事をしている間、結局犬の面倒を見てくれるのは母だから母が乗り気になってくれないのなら私にできることは残っていなかった。母が犬を求めなければどうしようもない。途方に暮れた末、私は母を憎んだ。母の意見しか聞こうとしない父も、私の考えに、私の協力してくれないかという提案に乗ってくれなかった妹も一緒に憎んだ。みんなみんな私のいうことなんてどうだっていいんだ、犬をかったら絶対幸せになるのに。今さら犬飼ったって家族の指は一本も触れさせてやらないんだから。ねえ犬くらい飼ってくれたっていいじゃん。周りに飼っている子いるのに私だけ飼えないなんておかしいよ。私がもし病気になって苦しそうにお願いすれば飼ってくれるのかな。病気になりたい。もっと優しい家族に生まれれば良かったのに。

 それからの誰にも期待しない私の人生はつまらないものになった。何をしていても面白くない。給食で大好物のポークシチューが出ても、習字教室の先生に字を褒められても、特に嬉しくなかった。言語化するなら「無」って感じ。これがちゃんと言語化したことになっているかもよく分からない。みんな楽しそうなのに何で私だけこんな思いをしなければならないのだろう。最近妹を視界から外すようにしている。いつでも人生楽しそうな姿がなんとも鼻につくからだ。どうせ何も考えてないんでしょ、ラクそうでいいな。

 やっとやって来た週末、なのに晴れているから妹と裏の広場で遊んできな、と家を追い出された。また冴えない日。でもやさしい春の日差しに癒された。風に揺られて

ゆらゆら、ゆらゆーらゆーらぶんっ

ん?なんか揺れすぎじゃない?止まりたくても止まらないんだけど?!風が落ち着いて戸惑いながらもやっと自分の下半身を見たら、緑だった。色が、じゃなくて、自分が。取り敢えずどうやら私はスミレになったらしい。すると突然、目の前から妹が走ってきたではないか。走りながら小さな石に躓いてしまい、泣いちゃうかなと思ったら妹は私のことをまじまじと見つめてから、屈託のない笑顔を浮かべた。なぜだろうその笑顔から目を離せない。それは、心が満たされた瞬間だった。その笑顔は今の自分に足りないものを教えてくれた気がして久々に嬉しい、を感じることができた。

 それまでの私はずっと犬を飼うことばかり考えていて、それが幸せを得るための正解だと思い込んでいた。でもそれは間違いで、そもそも幸せはあっちからやって来るのを待つものではなくて自ら見つけに行くものであった。綺麗なお花を見つけた、そんな小さくて些細なことが誰かにとっての幸せであるように。私の周りにはたくさんの幸せが転がっていて、自分で見つけようとすればする程いっぱい見つかるだろう。ふと見た時刻の数字が自分の誕生日だった時、木曜日だと思っていたら実は金曜日だった時、くすっと笑える心が自分の世界を愉快で有意義なものにしてくれる。そんな人生を送りたいな、と思えた。誰かさん、私をスミレにしてくれてありがとう。ところでいつ人に戻るんだろう。

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