仕事と遊びはバランスよく
共同生活2日目今日は1日中雨だ。
「美優さん大丈夫ですか?」
ボクは偏頭痛など持っていないので辛さがわからないだから少しでも美優さんの役に立ちたい。
「ええ大丈夫。もう慣れっこですから」
「でも顔色悪いですよ」
ボクはメイド長の
「薬とかってありますか?あったら取ってきますよ」
「カップボードの左の棚に
美優さんは依然として毅然な態度だが冷や汗をかいていた。
「持ってきました」
「ありがとう薫さん」
美優さんは薬を飲むとソファに深く腰かけた。
「少し楽になったわ。薫さんも自由にしてくださって構いませんよ」
「それでは自由にさせていただきます」
ボクは美優さんの隣に座った。
「か、薫さんどうしたんですの?昨日とは打って変わってなんというか大胆ですわね」
ボクにはそんなつもりはなくただ近くで寄り添ってあげたら少しはよくなると思っただけだ。
「迷惑ですか?」
ボクはぶりっ子顔負けの上目遣いで言った。
「いえむしろありがたいですわ」
気丈に振る舞っていたが耳まで真っ赤だった。
ボクは内心で少し笑いつつも心配していた。
「いつもこのぐらい酷いんですか?」
「いつもはまだマシなんですけど今日は一段と辛いですわ」
「無理はしないでくださいね。なんでもしますから」
ボクは胸をはって言った。
「今なんでもするって…」
「言ってないです」
ボクは命の危機すら感じた。
「ふふふでも身の回りのお願いはしてもいいかしら?」
「それは任せてくださいでもトイレやお風呂は無理ですよ」
しっかり予防線を張っておく美優さんならやりかねないからだ。
「チッ!」
え?今舌打ちした?したよね?
「早速なんですけど紅茶を入れてくださらない?キッチンの棚の中に茶葉が入ってますのでお願いします」
「分かりました」
気持ちを切り替えて紅茶を入れた。
「ミルクか砂糖はどうしますか?」
「砂糖をお願いするわ」
ボクは自分の分も入れ美優さんのところに向かった。
「上手く入れられたか分かりませんがどうぞ」
「上手い下手は問わないわ気持ちが嬉しいもの」
美優さんのこの少し恥ずかしい事を当たり前に言うのはもう慣れてきた。
今度はこっちから言ってやる。
「好きな人に尽くすのは当たり前じゃないですか」
「そそ、そうよねありがとう」
また耳まで真っ赤になっていて可愛いと思った。
「美優さんって
ボクは真っ赤になった耳元で
美優さんは紅茶を一気に飲みドタドタとどこかに向かった。
「ちょ美優さんどうしたんですか?」
ボクは急いで追いかけた。
「あなたのせいですわ!あなたがあんな…あんな破廉恥な事!」
破廉恥?!ボクは驚いた少し揶揄うだけのつもりだったのに。
「嫌な思いをさせたのなら謝ります。でもそんなつもりじゃなかったんです。美優さんが揶揄ってくるからやり返そうと…」
美優さんは立ち止まりボクの方を向いて言った。
「嫌な思いなんてしてませんわ!むしろとても嬉しかった。このままだと私の理性が持たないと思いお仕事をして気を紛らわそうとしただけですわ」
えっそういう…
「フン!」
美優さんの少し怒った顔は初めて見た。怒った顔も可愛らしい。
ボクは仕方なく紅茶を飲みに戻ろうとしたがここがどこか検討もつかない。美優さんはどこにいるかも分からない近くにメイドさんも執事さんもいない。
「終わった…」
ボクは誰かが通りかかるまで待つことにし廊下の隅っこに座った。
気がつくと雨が止んでいた。
なぜかいつも静かな屋敷の中が騒がしいボクは音のする方に向かっていった。
しばらく歩くと見慣れた場所に出てきた。朝美優さんと紅茶を飲んでいた場所だ。
ボクがそこに着くと慌ただしくしていたメイドさんと執事さんたちがピタッと止まった。
「どうかしたんですか?」
ボクの言葉を皮切りにさっきよりうるさくなって耳鳴りがしそうな程だった。
「薫様どこに行っていたんですか!美優様含めこの屋敷の者全員心配していたんですよ!」
長谷部さんの表情には怒りと
「ごめんなさい。自分がどこにいるのか分からなくて誰かが通るまで待ってようと思っていたら、寝てしまって…」
ボクは精一杯の謝罪をした。
そこに美優さんが来た。
「どこに行ってらしたのとても心配したんですよ」
美優さんが急に抱きついてきたと思ったら大粒の涙を流していた。
ボクは皆さんを本当に心配させたんだと心の底から後悔した。
美優さんにも事情を説明し納得してもらった。
それでも美優さんはボクを泣き止むまで離さなかった。
共同生活2日目はプチハプニングが起こったがなんとか無事に終えた。
共同生活3日目今日は快晴だ。
美優さんの調子も良さそうで今日は良い1日になると確信した。
「美優さん今日の予定を聞いてもいいですか?」
ボクはワクワクしながら聞いた。
「今日は昨日薫さんがどこに行ったのか分からず何も手をつけられなかったお仕事です。」
ボクのせいで美優さんの予定を狂わせた事に罪悪感を
ボクは何も言わずに美優さんについて行った。
「あのー美優さん?機嫌を直してくれると嬉しいのですが…」
美優さんは何も言ってくれない。
ボクたちは大きな扉の前に来た。
「ここが書斎です。私はお仕事をしてきますので自由に過ごしてください」
美優さんは無愛想に言いどこかに行ってしまいそうになったが手を掴み止めた。
「昨日の事なら謝りますから許してくださいよ」
「昨日の事なんてもう何とも思ってませんわ。今日あなたと遊ぶためにお仕事を片付けてきますわ」
ボクは何か手伝える事はないかと尋ねた。
「それでは…」
ボクたちは協力し合って半日はかかるであろう量を2時間で終わらせた。
昼ごはんを食べ少し時間をあけボクたちは手の空いてるメイドさんと執事さんたちを集め庭に行った。
「それで今日は何をするんですの?」
「うーんそうだな今ボクたちを含めて10人か…それならかくれんぼにしよう!」
ボクは当たり障りの無い提案をした。
「それじゃ鬼を決めましょうか」
美優さんは鬼になるまいと意気込んでいたがグーの1人負けで鬼になった。
メイドと執事たちは笑っては失礼だと思い必死に
「さあ始めるわよ10数えるから隠れなさい。範囲はこの屋敷全部!」
「お嬢様流石にそれは広すぎでは?それに薫様はどうなさるんですか?」
メイドの1人が止めに入った。
「そうね昨日の二の舞にならないようにしないとね。なら向こうに見えてる花壇まででどうかしら?」
「ボクもその範囲なら分かりやすいしいいと思うよ」
そうしてボクたちのかくれんぼは始まった。
「10…9…8…」
ボクは裏をかいて美優さんの真後ろに陣取った。
「行くわよ!」
美優さんはボクの事には全然気づかず他の人たちを見つけていく。その姿を見てさっき笑っていたメイドさんが吹き出してしまいそれでバレてしまった。
「薫さんはどこに行ったのかしら?」
全然気付かれないから思わず笑ってしまった。
その瞬間美優さんは振り返ったがボクは
「ああもう降参ですわ。薫さん出てきてください」
「美優様振り返ってみてはどうですか?」
執事の1人が言う。
「何よ振り返るって振り返ったって…え?!どういう事?さっき1度後ろを見た時にはいなかったのに」
美優さんは心底驚いているようだった。
「振り返ったけど足元までは見ていなかったのではないでしょうか?」
ボクは勝ち誇った様に言った。
「もう何なんですのそんなの分かるわけありませんわ!」
美優さんにはプンプンという擬音がついているのではないかと思うほどだった。
「次は何をしますか?美優さんが決めてくださいよ」
「うーん決めてと言われると難しいわね…缶蹴りなんてどうかしら?」
いい提案だがメイドさんはメイド服執事さんはタキシード絶対に走ったりできないそう確信した。
「美優さん流石にメイドさんたち走れないんじゃ?」
ボクは遠回しに違うのにしないかと提案した。
「そう言われればそうね…じゃあ宝探しにしましょう。私の何かを取ってくるから待っててくださね」
メイドさんたちはお嬢様の物?!そんな大切なものでは出来ませんわとか喋っていた。誰かが代用品を取りに行った。
「待たせたわね今回のお宝は…」
メイドさんたちが美優さんに駆け寄り何か話していた。
「今回のお宝はこのビー玉です…」
あからさまに美優さんのテンションは下がっていた。
ビー玉が握られた手の反対にはキラキラと輝く宝石を握っていた。そんな高価な物を遊びに使うんじゃありませんと美優さんを止めてくれたメイドさんたちは流石だ。
「今から隠すので目を閉じててくださーい…」
さっきまではあんなに楽しそうだったのに今となっては見る影もない。
およそ3分後美優さんが言った。
「隠したので探して見てくださいね」
ボクたちはすぐに気づいた。なぜこんなにも機嫌がいいのか、美優さんはボクたちが目を閉じている間にビー玉ではなく宝石を隠したのだ。
「お嬢様…宝石はどこにありますか?」
メイドさんが青ざめた顔で聞いた。
「それを言ってしまってはゲームが成り立ちませんわ」
その場にいた美優さん以外の全員興醒めした。
メイドさんと執事さんは一刻も早く見つけ出すために血眼になって探していた。ボクは呆れて棒立ちしていた。
「そんなに慌てなくても宝石ならここにあるのに」
美優さんは小声でボクにそう言い宝石を見せてきた。メイドさんたちは探すのに必死で気づいていなかった。
ボクと美優さんは2人して静かに笑った。
程なくしてメイドさんの1人がビー玉を見つけた。
安心したのかメイドさんたちは座り込んだ。執事さんは美優さんをこっぴどく叱っていた。美優さんの落ち込んだ顔を初めて見れてボクは一緒に遊んで良かったと思った。
時間はあっという間に過ぎていき辺りはすっかり暗くなっていた。
「お嬢様、薫様夕食の準備が出来ておりますので手を洗ってきてくださいね」
「はーい!」
ボクと美優さんは小さい子供に戻ったかのように返事をした。
長谷部さんの料理を腕前はプロレベルでどんな国も料理も作れるので毎日毎食楽しみだ。
長谷部さんは遊んでいるボクたちを見て子供みたいと思ったらしく今日の夕食はカレーだった。
「ごちそうさまでした!」
ボクと美優さんはこの時だけは恥も外聞もなく子供に戻ったようだった。
午前の仕事の大変さは午後の遊びですっかり忘れていた。今日は子供みたいに遊んだなとボクは自室のベッドの上でゴロゴロしながら考えていた。
あと4日間はこんな当たり前の幸せを感じれる事が嬉しかった。
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