自責
遊星視点
※
「はぁ……」
寮の部屋に一人、戻った遊星はベッドに寝転がってため息をついた。
……そう、一人だ。同室であるアルバは、エンシェントドラゴンを倒した『勇者』として皇女と共に皇宮へと向かった。
(こっちを見ようとしなかったけど……あれって、俺のこと庇ってくれたんだよな)
カリィから、遊星もアルバと同等以上の魔力を持っていると聞いている。しかも全属性持ちな上、創造神によりこの異世界に転生している。
魔王が復活したのなら、遊星も転生者として名乗り出るべきかと思ったのだが――アルバがエンシェントドラゴンを倒したことで、そのタイミングを失った。
(俺は力こそあっても、中身が伴ってないから……やっぱり、平和ボケしてるって呆れてんだろうなぁ)
アルバが何かと遊星の力を隠そうとする理由を、いつからか遊星はそう思うようになっていた。
態度が軟化を通り越して土砂崩れを起こしているので、流石に嫌われてはいないと思うが――初めて会った頃、アルバに「恵まれている」と冷ややかに言われたことが今でも忘れられない。
遊星がカリィに野営に連れていって貰ったり、アルバに他の属性の魔法を教えて貰おうとしたのは、少しでもアルバからの評価を挽回したかったからだ。
「何だ、悩み事か?」
「っ!?」
そんな遊星に、不意に声がかけられる。
それは同室であるアルバの声でも、使い魔であるガブリエルやフェルス達の声でもなく――けれど、よく知っているそれに遊星はギョッとして飛び起きた。
「……暁?」
「久しぶり」
そう言って笑いかけてくるのは、久しぶりどころか本来、異世界にいるので会えない筈の親友で。
薄茶の髪と瞳。中三になって間もなく距離を置いたので、ほぼ一年ぶりくらいの再会だが――おそらく高校の制服らしい学生服を着た暁を、遊星は大きく見張った目で凝視した。
「遊星……どうした?」
次いでベッドから手を伸ばして暁の顔や肩、腕をペタペタ触り出した遊星に暁が戸惑った声を上げる。
「ああ、いや、俺も無傷でここに来たから……でも、ここにいるってことはお前も事故とかあったんだろ? 大丈夫か、って……あー」
冷静に考えれば、怪我をしているのに触るのかという話だが――平然と、いやむしろ笑って遊星を見ている暁に色んな意味でホッとした。そしてそんな自分に気づいて、文字通り頭を抱える。
(周りからの非難に負けて、距離を置いて……文句の一つも当然なのに、情けなさ過ぎるだろう自分)
自己嫌悪に陥った遊星の視線の先で、暁が微笑んだまま頬に触れた遊星の手に自分の手を重ねて言う。
「事故にはあってない。召還されたのは、事実だけどな」
「えっ……もしかして、勇者として?」
「いや、魔王としてだ」
「……はっ!?」
さらり、ととんでもないことを言われて理解が出来ず。声を上げて固まった遊星の前で、暁が笑みを深めた。
その微笑みは変わらないが目の色は真紅に、服は学生服からこの世界らしい漆黒の長衣に変わる。
「お前、その目……ってか、魔王コス? 似合うけど、魔法でそんなことも出来るのか?」
「コスプレじゃない。勇者に討たれる魔王として、召還されたんだ……だから遊星に、俺を討つ勇者になって欲しくて頼みに来た」
「なっ……どわっ!?」
「俺の話を聞いてくれ」
急展開についていけない遊星を、物騒なことを言う暁がベッドに押し倒した。そしてそのまま、遊星を見下ろして話し出した。
……この異世界の仕組みと、魔王が担う役割について。
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