抗言

「勇者様が皇女と結ばれたことで、彼の血と魂は我が皇族と結びつきました……それ故、勇者の生まれ変わりも皇族に生まれると言われてきました」

「それなら、そもそも前提が違います。僕は、皇族ではありません」

「皇族は、勇者の生まれ変わりの可能性のある男子を必ず残すことを義務付けられています。病弱な母は、私を生んで間もなく亡くなりました。母と、己の義務を失って途方に暮れた父に寄り添い慰めた侍女がいました……あなたのように、美しい金髪だったそうです」


 ……アスセーナの言葉だけなら、陳腐な話だと突っぱねられたかもしれない。

 けれど以前、遊星からも聞かれた。光属性を持つ自分の出生について――異なる世界の筈なのに、見たかのように冒険者ギルドや魔法などについて書かれた物語では、アルバのような存在には何かしら出生の秘密があるのだと。


「仮に……そう、仮にその侍女だった女性が身ごもったと言うのなら。何故、今まで探さなかったんですか?」

「侍女は身ごもったことを隠して、皇宮を去りました。平民の自分には、過ぎた寵愛だと……それでも父は、探していました。けれどそこで、あなた達の故郷が魔物に襲われて全滅したと聞いたのです」


 確かに、アルバ以外の生き残りはいなかった。そして自分はカリィにより、帝都に連れてこられていたので話の行き違いがあったのだろう。


「侍女に息子がいたとは聞きましたが、母子共に亡くなったと思っていました……だから二年前、全帝であるあなたが現れた時、喜ぶ前に驚きました。異母弟、つまり私と同じくらいの子供が帝にまで登りつめるだろうかと」


 元々、帝の素性を暴くことは禁じられている。更に万が一、別人だとしたら――もう一度、息子である自分が死んでいたと突きつけられるのが怖かったと言われれば、筋は通っているので黙るしかない。


「けれど、あなたが勇者の生まれ変わりだと解れば……父も私も、皇族としての役割を果たせます」


 ……だが、続けられた言葉にアルバはつ、と眉を寄せた。


「父は、勇者の生まれ変わりという『証』を確かに残せました。そして私は、あなたか遊星どちらかと結ばれれば再び、勇者の血と魂を皇族に結びつけられます」

「……正気ですか? 遊星はともかく、僕とあなたは姉弟だと」

「それが、皇族女性の務めです。それ故、皇族は近親婚も重婚も認められています……私としては、力だけではなく勇者の血を引くあなたの方が好ましいですし。遊星の存在を秘するなら、幸い出自を公表していないので伝説通り、勇者であるあなたと皇女の私が結ばれるべきでしょうね」


 そう言うと、アスセーナは再びすみれ色の瞳を笑みに細めた。


(まるで、狂信者だ)


 脅迫と懐柔、その両方をアルバに突きつけて尚、微笑むことが出来るのは悪意がまるでないからだろう。

 ……かつての、復讐だけを考えていたアルバなら、むしろ魔王と戦える好機だとアスセーナの話に乗ったかもしれない。

 しかし、遊星を駆け引きの道具に使われたこと。

 更にもう一つ、引っかかることがあった為――アルバは頷かず、むしろアスセーナを睨んで言った。


「あなたが『侍女』と呼んでいるのは、僕の母だ。そして母は、父は幼なじみの男性だと教えてくれた」

「それは」

「真実ではないとしても……僕は僕だ。勇者の生まれ変わりや、あなたの異母弟であることも僕の一部かもしれない。けれど、それだけで語られるなんて冗談じゃない!」


 遊星に会いたかった。会って、話をしたかった。あの黒い瞳に映る『僕』を見たかった。


転移テレポート!」


 それ故、アルバは馬車から遊星がいる寮の部屋へと魔法で移動したのだが。

 ……当の遊星は、知らない男によってベッドに押し倒されていた。

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