兆候
魔物もだが、無人島では生徒同士での戦闘も行なわれる。より実戦に近いと言うか、まさにサバイバルだ。
とは言え、アルバとしては特に恐れも緊張もなく、単に『そういうものか』という認識で。
ただ、異世界から来た遊星は最初こそ驚いていたが、放課後にフェルス達とサバイバル用の買い出しに言った時、アルバが思っていた短刀とマントを買ったくらいで(他の面々は毛布やロープを買っていた)
手馴れた様子と、そもそも小遣いを持っていたのが気になり、部屋に戻ってから聞いてみると。
「入試前の訓練で、カリィさんに連れられて魔物討伐に行って。一晩だけだけと、野宿したから……確かに、色々あっても逆に持て余すと思う。あ、お金はその時の報酬な」
「そうでしたか」
自分も一緒に魔物討伐に行ったことがあるが、確かにカリィなら最低限の装備で野宿させるだろう。
そう思う一方で、出会ったばかりの頃はアルバは遊星と距離を置いていたので、カリィとどう過ごしていたかを知らなかったが。
……そんなことをしなければ、アルバが遊星と二人で野宿出来ていたかもしれないと思うと、昔の自分に腹が立つ。
(今更仕方ないし、今回もフェルス達はいるけど一緒に泊まれるし)
実は、グループを決める時にアルバと遊星は別になるように言われた。
まあ、ここまでは魔物や生徒との戦闘になるのだから、首席同士で組むなと思われるのは解る。
けれど、アルバは皇女アスセーナから再び、同じグループにならないかと誘われた時には驚いた。
遊星は気絶していて知らないが、彼がきつく接したことを知っているフェルス達からは「愛されてるねぇ~」と感心しているのか、茶化されているのかよく解らない反応をされた。
「グループは、好きに組んでいいんだろう? アルバも俺達と同じグループに入って貰う。ただ、俺達もズルいって言われるのは嫌だからハンデをつけるよ。俺達も訓練したいから、二人には一日一回、二人同時じゃなく一人ずつ戦って貰うって言うのはどう?」
とは言え、フェルスが笑顔でそう押し切ってくれたので、アルバは遊星達と同じグループになれた。そのことには感謝するが、実はフェルスの発言で引っかかっていることがある。
(「愛されてる」って……そういうのとは、違うような)
嫌われているとは思わないが、全帝としてもアルバとしても好意を向けられることはある。
前者の場合、顔も年も知らないのに――と思わなくはないが、だからこそ熱や圧が凄い。
それらと、アスセーナから向けられる感情はどうも違うのだ。
(興味って言うか……観察されている?)
そう感じるのは、思い当たる節があるからで。
魔力を抑えているのもだが、アルバと遊星は入学する時に属性をごまかしている。アルバは水(氷魔法も含まれる)と光、遊星は火(爆発魔法も使えるし、暴走しても誤魔化せるようにらしい)と。
……アルバとしては得意な魔法から選択したのだが、実は光属性は稀少であり更に皇族や貴族に発現することが多い。
アスセーナも、治癒と光(自己紹介の時にそう言っていた)なので、平民が同じ属性持ちということで珍しがられているのだろう。
(そうなると、遊星も光属性があると知られたら……)
アスセーナは、遊星にも興味を持つかもしれない。そこまで考えて、アルバはキッと顔を上げて遊星を見た。
「光属性は、絶対に使わないで下さいね。特に、殿下の前では」
「へ? あ、うん……って言うか……アルバさん?」
「何ですか? いきなり、改まって」
「えっと、無茶苦茶踏み込んだ質問で申し訳ないんだけど……アルバって、どこぞのご落胤とかないの?」
「ありえませんね。確かに、父は僕が生まれてまもなく亡くなったと聞いていますが、田舎暮らしの平民です」
「そうなんだ……ネット小説とかだとありそうだけど、流石にそこまで設定盛ってないか」
「設定?」
「あー……何でもない。アルバを見て、天は二物も三物も与えるんだなって思っただけ」
遊星がそう言って笑い、明日からの服(流石に、制服ではない)を用意し出したので、話はそこで終わったが――誉められたのだと気づいた瞬間、アルバは頬に熱が集まるのを感じ、遊星に悟られないように背中を向けて同様に明日の準備を始めたのだった。
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