呈示

 魔法学園は全寮制であり、皇族や貴族が権力を振りかざすことは禁じられている。そして当然だが、男女で寮の建物は分かれている。

 そんな訳でアルバと遊星とグレル、そしてミーネとイグレットは校庭で待ち合わせをした。

 制服はあるが、流石に二泊するとなると私服が許可されている。遊星が「こっちは、体操着とかないんだな」と言ったので聞いたら、彼のいた国では制服だけではなく運動する為の服も学校で用意されるそうだ。


「ただ、動きやすさ重視だからズボンとか、短パン……短い丈のズボンなんだよな。お嬢様方には、抵抗あるかも」


 そんな遊星の言葉に、アルバも成程と思う。ズボンもそうだが、脚を出すとなると絶対拒否されるだろう。

 イグレットとミーネは、ズボンを履いてきているが――貴族以上の令嬢の場合、乗馬も横座りをしてスカートを着用するのだ。現に今日も、そんな乗馬服姿の女生徒がチラホラといる。

(『彼女』もか)

 アルバの視線の先には長い髪を結い上げ、瞳と同じ紫の乗馬服姿(上着に長い丈のスカート)のアスセーナがいた。傍らの騎士団長の娘はズボンだが、普段の制服も男子生徒と同じズボンなのでいつものことである。

 そう締め括り、視線を外したアルバは気づかなかった――そんな彼を、アスセーナが見つめていたことに。



 余分な荷物や装飾品(アルバと遊星の制御具は、義母経由で許可を取っているので問題ないが)は没収され、代わりに魔物や生徒同士の戦闘で一定以上の攻撃を受けると学校に転移されるペンダントが配られた。

 その後、注意事項の説明がされるとサバイバル会場となる無人島に、数人の教師が魔法を使って一年生全員を一度に転移させる。

 万が一、はぐれては大変なので同じグループの生徒達は手を繋いだり、互いの腕やマントに掴まったりした。


「アルバ」


 そんな訳で、遊星がアルバの名前を呼んで手を差し出す。最初の頃は第一印象が最悪だったのと、向こうも遠慮があったのだが友達になった今では、諦めたのか開き直ったのかこうして遊星の方から動いてくれる。


(……兄妹みたいだから、ミーネとも手を繋いでいるのは許そう)


 うん、と心の中でアルバが頷くと――刹那、教師陣の魔法により彼らは無人島に到着した。



 アルバ達が到着したのは、鬱蒼とした森の中だった。

 アルバはまず周囲の気配を探り、魔物や生徒達がいないことを確認した。そして、遊星――ではなく、他の面々のまとめ役であるフェルスに声をかけた。


「野宿の経験はありますか?」

「ないよ」

「ボクも」

「私は、行商で」

「……子供の頃、なら」


 アルバからの問いにフェルス、グレル、イグレット、ミーネがそれぞれ答える。それにふむ、と考えて口を開く。


「野宿の場合、飲み水を確保する為に水辺……川や湖か、雨風を防ぐ為の洞窟を選ぶのが基本です。ただ、水辺には獣や魔物も近づきますし、洞窟だと入り口を塞がれたら逃げられません」

「……つまり?」

「今回は、魔物討伐と生徒同士の戦闘です。水は、水魔法で用意したのを沸かせば何とかなります。それなら天気も保ちそうですから、寝る時は丸太で最低限の寝床を用意して……三日間この無人島を移動して、乗り切りませんか?」


 グループを組んだとは言え、その中の誰かがやられても連帯責任ではない。それに一人なら、丸太の寝床も作らずに無人島を歩き回り、魔物も生徒も叩きのめす。

 ……けれど、今は遊星だけではなくフェルス達もいる。

 遊星と二人で組むことは出来なかったが、アスセーナの誘いを断れたのはフェルスが話をつけてくれたおかげだ。それ故、アルバとしても『多少』は譲歩しようと思う。


(『学生』にしては、動けそうだしな)


 そんなアルバの声に出さない、フェルス達への評価を知ってか知らずか――うん、と一つ頷いてフェルスがにっこりと笑う。


「いいよ。確かにそんなに寒くないし、毛布もあるしね」

「って、大丈夫なの? あんたとグレルって、坊ちゃん嬢ちゃんなのに」

「……慣れてないと体、バキバキになるよ」

「ちょ、少しは俺にも格好つけさせてよっ」

「嬢ちゃんって、何!?」


 そしてイグレットとミーネが冷静に突っ込むのに、フェルスとグレルはそれぞれ反論をし――言うだけ言って、後は我関せずのアルバを遊星は生温かい笑顔で見守った。

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