疑問
一年の授業は己の魔法もだが、手に入れた魔武器と使い魔を暴走させずに使いこなすことが主になる。
それ故、週に一回ほど戦闘訓練も組み込まれていて。魔武器や使い魔の使い方を、実践で学ぶ。
「確かに、訓練は必要だよな。特に俺は、日本刀なんて使ったことないし……ただ今更なんだけど、使い魔ってポケ○ンみたいに思ってたけど暴走とかするのか?」
「? 何ですか、そのニホントウとかポケ」
「何でもないっ!」
聞き覚えのない単語は、異世界の言葉なのだろう。そしていつものように、アルバがその言葉を(特に後半を)口にしようとすると、遊星は食い気味に遮った。
(『友達』になって、一ヶ月経ったが……どうして遊星は、僕が異世界の言葉を言おうとすると邪魔するんだ?)
以前、理由を聞いた時は「何か、いたたまれないの!」と力説された。意味が解らないが、こだわっても仕方ないので、アルバは話題を変える(と言うか、謎の単語には触れずに進める)ことにした。
「具体的に、君は使い魔にどういうイメージを持っているんですか?」
「あー……使い魔が魔法を使って、魔法使いの代わりに戦う?」
「それも、確かに間違ってはいませんが……使い魔の全てが、攻撃に適している訳ではないでしょう?」
「そうなんだよな」
たとえば、グレルの召還したマーメイドは歌声で聞いた者を惑わせる。しかしそれは、聞く前に耳を塞げば防げるので攻撃としては弱い(遊星は「男の娘が歌声で戦うとか、何かアニメかラノベっぽい」などとブツブツ言っていたが)
アルバの言葉に、遊星も納得したように頷く。そして、もうすぐ自分の順番が来る為、使い魔を呼ぼうとしたが――その前に、背後から抱きしめられて遊星はため息をついた。
「……ガブリエル様」
「やあ、ユーセイ。今の話の流れだと、今日の訓練は私を『使う』べきだと思うよ?」
「ピッ!」
遊星の呼びかけに、満面の笑顔で遊星に腕を回しているガブリエルが言い、同様に現れた鸞鳥が、遊星の頭の上で声を上げた。そんな鸞鳥と目線を合わせて、ガブリエルが言い聞かせるように話しかける。
「ユーセイの為に、戦いたいって? 気持ちは解るが私の方が先に申し出をしたし、君は先週戦っただろう? 今回は、私に譲りたまえ」
「ピィ……」
「よし、決まりだ。ユーセイ、神からの知識の中にあるだろう? 私の力を『使う』と良い」
「あ、えっと……はい」
そうガブリエルが嗜めると、鸞鳥は肩を落とす代わりにその丸い体をますます丸めた。そうしているとふわふわの、可愛い小鳥なのだが――前回の戦闘訓練の時、一鳴きで炎を放ったのには驚いた。流石、小さくても幻獣である。
そして話がついた(鸞鳥は鳴いているようにしか聞こえないが、どうやら会話が成立するらしい)のか、鸞鳥は鳴くのをやめて遊星の頭から降りた。
そしてガブリエルが前髪を払ったのに、遊星は戸惑い――けれど、笑顔のまま退かないガブリエルに観念したのか、同じように前髪を払ってガブリエルの額へと押し当てた。
……使い魔は、己の力を
その為、同じ属性なら魔力の強化が出来るし、異なる属性なら使い魔からその力を得ることで他の属性の魔法を使うことが出来る。
もっとも良いことばかりではなく、己以外の力なので自分の魔力以上に制御が難しい。
けれど、だからと言って使わないといつまで経っても使いこなせないので、戦闘訓練では魔武器ばかり使わないように言われている。
もっとも、遊星の場合はガブリエルと鸞鳥が毎回、こうして立候補してくるのでむしろ、未だに魔武器を使っていない。
ちなみに、彼らのような接触は本来、力の受け渡しには必要ない。
その知識を得た(何でも神の加護で、遊星が知りたいと思うとこのティエーラの知識が脳裏に浮かぶと言う)からこそ遊星は戸惑ったのだろうが、何かとくっつきたがるガブリエルとしてはこの好機は逃さないだろう――アルバとしては内心、面白くないが。
(しかも、何だか自慢げにこっちを見てくるし……自分の方が、仲が良いとでも言いたいのか? 僕は遊星の友達だし、部屋も一緒なんだぞ?)
そう思いながらガブリエルを睨んでいると、教師が遊星と対戦相手の名前を呼んだ。
「次。ユーセイとムルタ」
「「はい」」
その声にガブリエルが腕を放し、解放された遊星は対戦相手の元へと向かう。そして相手と向き合い、教師から訓練開始の声がかけられると同時に。
「輝き燃える、赤……ヒッ!? こ、降参だっ」
詠唱を始めた男子生徒に対して無詠唱で、足元へ向けて
暴発とは、初級の爆発系魔法だ。中級ではないので一個の爆発のみ、だったのだが――ガブリエルの力が加わったせいか、その威力は通常の数倍になっていた。
男子生徒もだが、魔法を使った遊星も驚いている。まずは自分の手を、それからアルバを困り顔で見たところを見ると予想以上の効果だったのだろう。
使い魔の力を暴走させず、使いこなさなければいけないという意味がようやく実感出来たようだ。
「こら、ユーセイ。授業にならんだろう?」
「はぁ……」
「まあ、無詠唱は実践的ではあるがな……とは言え、サバイバルでは使い魔禁止だ。魔武器は使えるから、頑張って練習しろよ」
「「「えっ?」」」
そういう行事があると聞いてはいたが、当然のように語られた内容に当の遊星だけではなく、他の生徒達からも声が上がる。
「明日から三日間、無人島でサバイバルだ。荷物は必要最低限だぞ。その為に、こうして前日に知らせるし、当日荷物チェックもする。魔物は出るが、Cランク程度だから心配するな。集合は九時に校庭だ。遅れるなよ」
「「「えーっ!!」」」
「そんな!? 三日も、ユーセイと離れ離れなんてっ」
「ピッ!」
そして、遊星の
魔物討伐で、野宿に慣れている全帝・アルバは「短刀とマントで十分では?」と声に出さずに思っていた。
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