画策

 創世神によって創られた幾つもの世界は、それぞれ神に任されて管理されている。

 もっとも管理と言っても基本、そこに住む人々や生き物への過度な干渉は認められていない。それは、創世神ですら覆せない『ことわり』だ。

 ……それ故、管理神は神域(神の住む領域)から世界を見守っているのだが。


「どうして!?」


 己の世界を拒絶し、地球から消え去った暁に管理神が悲鳴を上げる。

 眩い金色の巻き毛と金色の瞳。豊かな肢体を白い長衣に包んだ美女だが、その顔や声は苛立ちに歪んでいた。


「どうして? それは、私こそ聞きたいな」

「創世神様! 一体、どういうことですか!?」


 管理神の髪と瞳の色は、創世神と同じ色彩いろだ。もっとも、内に抱えた神力が全く異なるので、創世神を他の管理神と間違える馬鹿はいない。

 いない、のだが――だからこそ、仮にも己の創造主に対して礼を取らず、更に返事もせずに自分の言いたいことを告げるのは明らかに無礼で。

 つ、と創世神は眉を寄せたが、地球の管理神はそれすら気づかずに言葉を続けた。


「何故、彼を……暁を、連れ去ったのですか!」

「何を今更。彼がティエーラに転生することは、既に決まっていたじゃないか」

「それは、暁がこの世界に絶望した時の筈! そうならないように、この私が見守っていましたのにっ」

「……その言葉通り、見守る『だけ』なら良かったんだけどね」


 ため息と共に創世神が言うと、ハッと管理神は息を呑んだ。その瞳が一瞬、けれど確かに怯えたように揺れたことを創世神は見逃さなかった。


「君は昔、彼に近づいた女の子を周囲から苛めさせて、遠ざけて……最後に、殺した。そしてその時、大丈夫だったから今回も、彼の友人に同じことをした」

「そ……創世神様……私はっ」

「神が人を殺めるのは、禁忌だ」


 そう告げた途端、管理神は悲鳴を上げる間もなく消え去った。文字通り、その存在を消滅させられたのだ。

 また、新たな管理神を創るとして――一人になった創造神は、今はいない管理神へと話しかけた。


「暁の絶望は確かに、まだ先の筈だった。君が見守ることで、何でも出来るからこそ何にも興味が持てなくて……まあ、私には好都合だったから、君が彼を愛するのを止めなかったけどね」


 さらり、と酷いことを言って創世神は口の端を上げた。


「遊星と出会って、彼に惹かれて……あのままだと暁は絶望せず、地球で生涯を終えたんだ。本人は平凡だと思っているし、君も侮っていたみたいだけどとんでもない。彼は、関わった者の運命を打ち砕く『メテオライト』だ」


 全てを見通す創世神だからこそ、遊星の『異端』に気づいた。

 それ故、創世神は遊星も己の『計画』に組み込むことに決めたのだ。


「これ以上、君に余計な干渉をされたら困るから、消滅させたけど……感謝しているよ。君が私の思い通りに動いてくれたから、ガブリエルを介入させて遊星をティエーラに転生させることが出来た」


 そしてそこで一旦、言葉を切って――創世神は、微笑んだまま言葉を続けた。


「それに、君が遊星を殺したからこそ……暁は絶望し、ティエーラの『魔王』として生まれ変わったからね」

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