撥無

暁視点・2



 こうして、暁は遊星と友達になった。

 昔のように、遊星が苛められないかと思わなかったと言えば嘘になる。

 けれど、友達だから。同じ男だから――と周囲に、そして自分自身に言い聞かせるように暁は心の中で何度も、何度も呟いていた。

 たとえ、遊星から向けられる笑顔に、時折、手や肩が触れる度に鼓動が跳ねても。


「……それは反対じゃなく、好き以外いらないってことじゃない?」


 遊星の何気ない言葉から、自分がそう思っていると自覚をし。

 だが、少しでも遊星と一緒にいたくて――祈るように、暁は何度も何度も「遊星は友達」だとくり返していた。

 けれど三年生になり、クラス替えがあってから暁は遊星からメールで距離を置きたいと告げられた。

 当然、納得が出来なくて何とか遊星と話をしようとしたが――徹底的に避けられて、落ち込んだ。

 そんな時、女生徒達が遊星に言いがかりとしか思えないような文句をつけたと知ったのだ。

 またか、と言うよりやはり、と思った。

 暁が何とも思っていなくても、抜け駆けしようとしただけで苛められるのだ。暁が『特別』だと思ってしまえば、同じ男で友達でも駄目なのだ。


(いや、認めよう)


 そこで暁は、自嘲した。自分の本心を、見抜かれてしまったのだ。


(遊星の言う通り、距離を置いたら……こんな気持ちを遊星に知られて、嫌われずには済む)


 だから、暁も遊星が離れるのを止めなかった。そしてまた、好意だけを向けてくる面々にだけ囲まれて中学を卒業した。

 ……それからしばらくして、地元の高校に入学した暁は遊星の死を知る。



(俺のせいだ)


 呆然とした暁の足は、遊星が車に轢かれたという信号へと向かっていた。

 向坂暁は、世界に愛されている。

 それ故、暁が愛した相手は世界に嫌われる――人に話したら妄想と思われるだろうが、暁にはそうとしか思えなかった。

 それから、嫌われることを恐れて言われるまま、距離を置いてしまったことを後悔した。


(嫌われても傍にいれば、守れたかもしれないのに)


 悲しくて悔しくて、涙が出る。止まらないそれを拭わないまま、暁は通行人の目も気にせず信号の途中で跪いた。

 そして、今は遊星の血の後が残っていない地面に手を置いて――きつく、拳を握り締めた。


「いらない。遊星以外、俺はいらない」


 呟きと共に落ちた涙。それが、拳の上にポタポタと落ちる。


「遊星のいない世界なんて、いらない」


 ……そして、世界を拒絶した暁の足元には光り輝く魔法陣が出現し、現れた時同様に唐突に消え去った。

 そこにはもう、暁の姿はなく――驚いていた筈の通行人も、やがて何もなかったかのように歩き出した。

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